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第58話 勇者と言うより異常者
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アルセイア王宮・研究室——深夜。
城内の灯りはほぼ消え、静寂が支配する時間。
リディア・アークライトは、一人研究机に向かっていた。
「ふぅ……」
小さく息を吐き、手元の資料を閉じる。
「これでひとまず……今日の分は終わりね。」
彼女の目の前には、魔王軍との戦い、遺跡で発見された村人の記録、
そして——勇者・九条迅の戦闘記録が並んでいた。
「……ジンも、ようやく動けるようになったし……。」
3日前、彼は筋肉痛でベッドから一歩も動けなくなっていた。
だが、今日になってようやく回復し、普段通りの調子を取り戻していた。
「さすがに、もう無茶なことはしないわよね……?」
リディアは軽く伸びをして、椅子にもたれかかる。
そろそろ休もうか、そう考えた——その時だった。
「……んっ……」
「……?」
彼女はピクリと反応する。
……今、何か聞こえた?
「……ふっ……」
小さなうめき声。そして、不規則な動作音。
研究室の奥、迅の私室の方からだった。
「……まさか、ジン?」
リディアの眉が僅かに寄る。
迅は今日はもう部屋に戻って休んでいるはず。
なのに、微かにだが、何かが揺れるような音が聞こえてくる。
「……まったく……。」
呆れながらも、彼女は椅子を引いて立ち上がる。
「今度は何をしてるのよ……?」
そっと、研究室を出て、迅の部屋へと向かった。
——そして、次の瞬間、リディアは目を疑った。
「……な、何……これ……?」
扉の隙間から見えたのは——異様な光景。
──迅が、寝ながら腕立て伏せをしている。
「………………。」
リディアの脳が、一瞬でフリーズした。
目を閉じたまま、寝息を立てながら、
淡々と規則正しく筋トレを続ける迅。
「……え?」
何かの見間違いだろうか?
しかし、彼の身体は確かに——まるで意志とは無関係に動いている。
「……これが、“あの魔法”……!?」
——以前、迅が言っていた”睡眠筋トレ魔法”。
まさか、本当に実践しているとは思わなかった。
「いやいやいや、ちょっと待って……!」
リディアは急いで迅の元へ駆け寄る。
だが、迅は彼女の存在に気づくこともなく、
淡々と寝ながら筋トレを続けていた。
「おい、ジン!! 何やってるのよ!!!」
思わず肩を掴んで揺さぶる——が、迅はピクリとも反応しない。
「……寝てる……!!?」
完全に意識がない。
それなのに、身体だけが勝手に動いている。
まるで、筋トレをするゾンビ。
「っ……嘘でしょ……!?」
リディアは青ざめながら、迅の様子を凝視した。
だが、次の瞬間——リディアは、あることに気づいてしまった。
「……。」
迅の鍛えられた腕や引き締まった上半身。
「……えっ、ジンってこんなに筋肉あったっけ……?」
普段は服の上からでは分からないが、思ったよりしっかり鍛えられている。
細身に見えるのに、無駄のないしなやかな体躯。
上腕の筋肉がしっかりと浮かび上がり、
胸筋もほどよく発達している。
「……。」
リディアの目が、思わず釘付けになる。
ゴクリ。
彼女は、無意識に唾を飲み込んだ。
「……っ!!」
その瞬間、自分が何を考えていたのかに気づいて、リディアは勢いよく首を振った。
「な、何考えてるのよ、私!!!」
自分の頬をぺちっと叩く。
顔が熱い。
「もう……! 本当にどうしてこんな変な魔法を作るのよ……!!」
呆れと困惑、そしてほんの少しの動揺を抱えながら、
リディアはそっと部屋を後にした。
◇◆◇
──翌朝。
アルセイア王宮、勇者・九条迅の私室。
朝日が差し込む部屋の中、ベッドの上でゆっくりとまどろむ男が一人。
九条迅は、気持ちよく伸びをしながら目を覚ました。
「ん……あぁ……よく寝た……」
寝起きのぼんやりとした意識のまま、腕を上げて軽く伸びをする。
──が、すぐに違和感に気づいた。
「……あれ? なんか全身がダルいんだけど……」
まるで、昨日全力で筋トレした後のような、
心地よい疲労感と僅かな筋肉痛。
「……?」
しかし、迅は昨日の夜、トレーニングなんてしていないはず。
「なんで……?」
不思議に思いながら、首を傾げる。
──その時だった。
「おはよう、バカ勇者。」
「……?」
振り向くと、そこには腕を組んだリディア・アークライト。
そして、その隣には、何やら楽しそうに微笑むロドリゲス・ヴァルディオス。
リディアの顔には、明らかに怒りと呆れが混じっていた。
「……お前、どうした? なんか怖いんだけど……」
「怖いのはどっちよ!!!」
「うおっ!?」
リディアが勢いよく詰め寄り、迅の胸ぐらを掴んだ。
「説明してもらうわよ、昨夜のことを!!!」
「え、えーっと……昨夜?」
「そうよ!!!」
──迅は頭を回転させる。
確かに、昨日の夜は普通に寝たはず……。
しかし、その後の記憶がない。
「……オレ、何かした?」
「したわよ!!! 目を閉じたまま、寝ながら筋トレしてたのよ!!!!!」
「……」
「……」
「……は?」
「は? じゃないわよ!!!」
リディアの怒号が部屋中に響く。
「何よあれ!? 目を閉じて寝息を立てながら、ずっと腕立て伏せとかスクワットとかしてたわよ!!??」
「……マジで?」
「マジよ!!!!!」
「……実験成功、か……」
「実験成功、か……じゃないわよ!!!」
リディアが今にも爆発しそうな勢いで詰め寄る。
「何をどうやったら、そんな意味不明な魔法を作れるのよ!!?」
「え、だって寝ながら鍛えられるとか、最高じゃん?」
「最高じゃない!!!!!」
リディアは頭を抱えた。
「ジン、あんたね……普通の人間は寝てる時くらい休むのよ!!!」
「いやいや、考えてみろよ。人間の成長は睡眠中に起こるんだぜ? だったら、その間に筋トレもすれば、効率最強じゃね?」
「……」
「……」
「……この男、本気で言ってるわ……。」
リディアは絶望したように天を仰ぐ。
──目の前の勇者が、完全に人間をやめようとしている。
「まぁ、確かにまだ改良の余地はあるな……。」
「やめる方向で考えなさいよ!!!」
「いやいや、改良すればもっと効率化できるだろ? たとえば、“スポーツ医学の観点から見て最も効率よく肉体を作るための筋トレメニュー”を術式に組み込むとかさ!」
「いや、普通に運動すればいいでしょ!?!?」
「違ぇよ、俺が目指すのは”最適化”だ!!!」
「もう知らない!!!」
リディアは頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
「いやぁ、これなら日中は研究に集中できるし、完璧なシステムだな。」
──迅、まったく懲りていない。
「ロドリゲス!! この異常者を止めてよ!!!」
悲鳴にも近い声で、リディアが助けを求める。
しかし——
「……ふむ、これは勇者殿の新たな狂気じゃな。」(楽しそう)
「ロドリゲスまでぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
──そして、静かに頷いたロドリゲスは、こう言い放った。
「ならばもう、止めても無駄じゃな。」
「ロドリゲスぅぅぅ!!!!」
こうして——
勇者・九条迅の 「睡眠筋トレ魔法」 は、リディアの制止を完全に無視して、
本格的な研究と改良が始まるのであった——。
城内の灯りはほぼ消え、静寂が支配する時間。
リディア・アークライトは、一人研究机に向かっていた。
「ふぅ……」
小さく息を吐き、手元の資料を閉じる。
「これでひとまず……今日の分は終わりね。」
彼女の目の前には、魔王軍との戦い、遺跡で発見された村人の記録、
そして——勇者・九条迅の戦闘記録が並んでいた。
「……ジンも、ようやく動けるようになったし……。」
3日前、彼は筋肉痛でベッドから一歩も動けなくなっていた。
だが、今日になってようやく回復し、普段通りの調子を取り戻していた。
「さすがに、もう無茶なことはしないわよね……?」
リディアは軽く伸びをして、椅子にもたれかかる。
そろそろ休もうか、そう考えた——その時だった。
「……んっ……」
「……?」
彼女はピクリと反応する。
……今、何か聞こえた?
「……ふっ……」
小さなうめき声。そして、不規則な動作音。
研究室の奥、迅の私室の方からだった。
「……まさか、ジン?」
リディアの眉が僅かに寄る。
迅は今日はもう部屋に戻って休んでいるはず。
なのに、微かにだが、何かが揺れるような音が聞こえてくる。
「……まったく……。」
呆れながらも、彼女は椅子を引いて立ち上がる。
「今度は何をしてるのよ……?」
そっと、研究室を出て、迅の部屋へと向かった。
——そして、次の瞬間、リディアは目を疑った。
「……な、何……これ……?」
扉の隙間から見えたのは——異様な光景。
──迅が、寝ながら腕立て伏せをしている。
「………………。」
リディアの脳が、一瞬でフリーズした。
目を閉じたまま、寝息を立てながら、
淡々と規則正しく筋トレを続ける迅。
「……え?」
何かの見間違いだろうか?
しかし、彼の身体は確かに——まるで意志とは無関係に動いている。
「……これが、“あの魔法”……!?」
——以前、迅が言っていた”睡眠筋トレ魔法”。
まさか、本当に実践しているとは思わなかった。
「いやいやいや、ちょっと待って……!」
リディアは急いで迅の元へ駆け寄る。
だが、迅は彼女の存在に気づくこともなく、
淡々と寝ながら筋トレを続けていた。
「おい、ジン!! 何やってるのよ!!!」
思わず肩を掴んで揺さぶる——が、迅はピクリとも反応しない。
「……寝てる……!!?」
完全に意識がない。
それなのに、身体だけが勝手に動いている。
まるで、筋トレをするゾンビ。
「っ……嘘でしょ……!?」
リディアは青ざめながら、迅の様子を凝視した。
だが、次の瞬間——リディアは、あることに気づいてしまった。
「……。」
迅の鍛えられた腕や引き締まった上半身。
「……えっ、ジンってこんなに筋肉あったっけ……?」
普段は服の上からでは分からないが、思ったよりしっかり鍛えられている。
細身に見えるのに、無駄のないしなやかな体躯。
上腕の筋肉がしっかりと浮かび上がり、
胸筋もほどよく発達している。
「……。」
リディアの目が、思わず釘付けになる。
ゴクリ。
彼女は、無意識に唾を飲み込んだ。
「……っ!!」
その瞬間、自分が何を考えていたのかに気づいて、リディアは勢いよく首を振った。
「な、何考えてるのよ、私!!!」
自分の頬をぺちっと叩く。
顔が熱い。
「もう……! 本当にどうしてこんな変な魔法を作るのよ……!!」
呆れと困惑、そしてほんの少しの動揺を抱えながら、
リディアはそっと部屋を後にした。
◇◆◇
──翌朝。
アルセイア王宮、勇者・九条迅の私室。
朝日が差し込む部屋の中、ベッドの上でゆっくりとまどろむ男が一人。
九条迅は、気持ちよく伸びをしながら目を覚ました。
「ん……あぁ……よく寝た……」
寝起きのぼんやりとした意識のまま、腕を上げて軽く伸びをする。
──が、すぐに違和感に気づいた。
「……あれ? なんか全身がダルいんだけど……」
まるで、昨日全力で筋トレした後のような、
心地よい疲労感と僅かな筋肉痛。
「……?」
しかし、迅は昨日の夜、トレーニングなんてしていないはず。
「なんで……?」
不思議に思いながら、首を傾げる。
──その時だった。
「おはよう、バカ勇者。」
「……?」
振り向くと、そこには腕を組んだリディア・アークライト。
そして、その隣には、何やら楽しそうに微笑むロドリゲス・ヴァルディオス。
リディアの顔には、明らかに怒りと呆れが混じっていた。
「……お前、どうした? なんか怖いんだけど……」
「怖いのはどっちよ!!!」
「うおっ!?」
リディアが勢いよく詰め寄り、迅の胸ぐらを掴んだ。
「説明してもらうわよ、昨夜のことを!!!」
「え、えーっと……昨夜?」
「そうよ!!!」
──迅は頭を回転させる。
確かに、昨日の夜は普通に寝たはず……。
しかし、その後の記憶がない。
「……オレ、何かした?」
「したわよ!!! 目を閉じたまま、寝ながら筋トレしてたのよ!!!!!」
「……」
「……」
「……は?」
「は? じゃないわよ!!!」
リディアの怒号が部屋中に響く。
「何よあれ!? 目を閉じて寝息を立てながら、ずっと腕立て伏せとかスクワットとかしてたわよ!!??」
「……マジで?」
「マジよ!!!!!」
「……実験成功、か……」
「実験成功、か……じゃないわよ!!!」
リディアが今にも爆発しそうな勢いで詰め寄る。
「何をどうやったら、そんな意味不明な魔法を作れるのよ!!?」
「え、だって寝ながら鍛えられるとか、最高じゃん?」
「最高じゃない!!!!!」
リディアは頭を抱えた。
「ジン、あんたね……普通の人間は寝てる時くらい休むのよ!!!」
「いやいや、考えてみろよ。人間の成長は睡眠中に起こるんだぜ? だったら、その間に筋トレもすれば、効率最強じゃね?」
「……」
「……」
「……この男、本気で言ってるわ……。」
リディアは絶望したように天を仰ぐ。
──目の前の勇者が、完全に人間をやめようとしている。
「まぁ、確かにまだ改良の余地はあるな……。」
「やめる方向で考えなさいよ!!!」
「いやいや、改良すればもっと効率化できるだろ? たとえば、“スポーツ医学の観点から見て最も効率よく肉体を作るための筋トレメニュー”を術式に組み込むとかさ!」
「いや、普通に運動すればいいでしょ!?!?」
「違ぇよ、俺が目指すのは”最適化”だ!!!」
「もう知らない!!!」
リディアは頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
「いやぁ、これなら日中は研究に集中できるし、完璧なシステムだな。」
──迅、まったく懲りていない。
「ロドリゲス!! この異常者を止めてよ!!!」
悲鳴にも近い声で、リディアが助けを求める。
しかし——
「……ふむ、これは勇者殿の新たな狂気じゃな。」(楽しそう)
「ロドリゲスまでぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
──そして、静かに頷いたロドリゲスは、こう言い放った。
「ならばもう、止めても無駄じゃな。」
「ロドリゲスぅぅぅ!!!!」
こうして——
勇者・九条迅の 「睡眠筋トレ魔法」 は、リディアの制止を完全に無視して、
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