科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

文字の大きさ
59 / 151

第59話 英雄、城下町に降り立つ

しおりを挟む
アルセイア王国、王宮内の研究室。

朝日が差し込むにも関わらず、この部屋の主は変わらず机に向かい、ペンを走らせていた。

「……なるほどな。魔力干渉波を一定の周波数で制御すれば、非魔法適性者でも魔力を一定時間循環させられる可能性がある……」

勇者・九条迅は、ひたすら研究に没頭していた。


──アーク・ゲオルグとの戦いから十数日。


筋肉痛が回復した迅は、“休む”という概念を一切持たず、再び研究と訓練の日々に突入していた。

昼は魔法理論を整理し、夜は実験。
訓練場では戦闘シミュレーションを繰り返し、寝ている間すらも”睡眠筋トレ魔法”を発動する始末。


──その姿は、勇者というより、もはや異常者だった。


そして、そんな迅を見た王宮魔法士や兵士たちの間で、ある共通の感情が芽生え始めていた。

「勇者様がストイックすぎて、こっちのメンタルが持たん……」

最初は「凄い」「尊敬する」と言っていた魔法士たちも、
日に日に「怖い」「ヤバい」「近寄りがたい」という反応に変わっていった。

──ついには、王宮内で迅の異常な努力が「恐怖」として噂されるまでになった。

「……勇者殿、頼むから休んでくれ!!」

研究室のドアが勢いよく開かれ、ロドリゲス・ヴァルディオスが悲鳴のような声を上げた。

彼の後ろには、同じように疲れ切った顔の魔法士たちが何人も控えている。

「頼むから休んでくれ!! これ以上おぬしの異常な研究熱を見せつけられると、わしらが精神的に耐えられん!!!」

「えー……やだー……」

迅は上の空で答えながら、魔力干渉波の数式を整理し続ける。

「そこを何とか!! 何なら、“戦ってくれ”と頼むよりも、“休んでくれ”と頼む方が心苦しい”のじゃが!!」

「……いやぁ、何かすまんな。でも、やだ。」

「ならば無理矢理にでも……!」

ロドリゲスが本気で魔法を発動しそうになった瞬間——

「……仕方ないわね。」

静かなため息と共に、一人の少女が研究室に入ってきた。

リディア・アークライト。

彼女は一直線に迅へと歩み寄ると、彼の腕を掴んで無理やり引っ張る。

「行くわよ、ジン。」

「……え? ちょ、リディアさん? どこ行くの?」

「……城下町デート。」

「…………んん?」


◇◆◇


(迅ったら、こうでもしないとずっと研究室と訓練所にこもりきりになるんだもの。)

(……べ、別に二人きりでデートがしたかったって訳じゃないけど、これが一番合理的な判断よね。うん。)

心の中で一人言い訳をするリディアの横。
王宮の門を抜けた瞬間、広がる景色に迅は目を見開いた。

——活気に満ちた城下町。

石畳の大通りの両脇には、色とりどりの屋台や商店が立ち並び、
行き交う人々の楽しげな声や笑い声が響いている。

香ばしい焼き菓子の匂い、スパイスの効いた肉料理の香り。

魔法で浮かぶ看板や、街路を彩る魔導ランタンの柔らかな光。

そこは、迅がこれまで過ごしてきた研究室や訓練場とはまるで別世界だった。


「おぉ……すげぇな。」


ポツリと呟くと、隣を歩くリディアが驚いたように振り向いた。

「……まさかとは思うけど、迅。あなた、ここに来るの初めて?」

「うん。」

「……嘘でしょ。一回も?」

「マジでない。」

迅は即答した。

「えぇぇぇ!?」

リディアは思わず足を止める。

「ちょっと待って……あなた、召喚されてから今まで、一度も城下町に降りてこなかったの?」

「いや、マジで来てねぇ。」

迅はあたりをキョロキョロと見回しながら答える。

「軍用通路は通ったか? あとは訓練場と研究室の往復以外、基本的に移動してねぇわ。」

「……。」

リディアは何とも言えない表情で迅を見つめた後、ため息をついた。

「……あなたらしいわね。」

「ん?」

「召喚されたばかりで、異世界に興味津々なのかと思ったけど、
あなたにとっては”解析すべき魔法文明”が目の前にあったのね。」

「まあ、そんなとこだな。」

迅は肩をすくめたが、すぐに目を輝かせる。

「でも、今は違うぞ。せっかく来たんだ、見て回れるものは全部見てやる。」

「ふふっ、それなら今日はしっかり案内してあげる。」

リディアは小さく笑い、歩き出す。

こうして、二人の城下町巡りが始まった。



——しかし、その直後だった。

「……あれ? もしかして、あの人……」

「え? いや、まさか……」

「勇者様だ!!!!」

突如、周囲の人々の視線が一斉に迅へと向いた。

「勇者様だ!!」

「アルセイア王国を救った英雄!!」

「本当にあの方なの!? すごい、間近で見られるなんて……!」

どよめきが広がり、瞬く間に迅の周囲へと人が集まり始めた。

「わぁぁぁ!! 勇者様!!」

「勇者様!! どうか握手を!!」

「勇者様、ぜひうちの商品を!!」

子供から大人まで、皆が歓声を上げ、手を振り、差し出された果物や花束が迅の目の前に押し寄せる。

「う、うわぁ……なんかすげぇことになってんな……」

戸惑いながらも、迅は苦笑するしかなかった。

——“英雄”としての扱い。

自分では大したことをしたつもりはなかった。
ただ、必要だと思ったことをやっただけだ。

しかし、人々の目にはそれが“王国を救った偉業”として映っている。

「はは……これは、どうしたもんかね……」

ぽつりと呟いた迅の隣で、リディアが微笑んだ。

「当然よ。あなたは私たちの国を救った英雄なんだから。」

「えぇ……仮面付けた変な兄ちゃん追っ払っただけだぜ?大袈裟だろ。」

「ふふ、そんな事無いわよ。」

そう言いながら、そっと迅の袖を引いた。

「……少し歩きましょう。」

「あ、ああ……」

リディアに手を引かれるまま、人々の歓声に応えながら、
二人はゆっくりと城下町の奥へと歩き出した。

——こうして、勇者・九条迅、城下町初体験の一歩が始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...