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第59話 英雄、城下町に降り立つ
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アルセイア王国、王宮内の研究室。
朝日が差し込むにも関わらず、この部屋の主は変わらず机に向かい、ペンを走らせていた。
「……なるほどな。魔力干渉波を一定の周波数で制御すれば、非魔法適性者でも魔力を一定時間循環させられる可能性がある……」
勇者・九条迅は、ひたすら研究に没頭していた。
──アーク・ゲオルグとの戦いから十数日。
筋肉痛が回復した迅は、“休む”という概念を一切持たず、再び研究と訓練の日々に突入していた。
昼は魔法理論を整理し、夜は実験。
訓練場では戦闘シミュレーションを繰り返し、寝ている間すらも”睡眠筋トレ魔法”を発動する始末。
──その姿は、勇者というより、もはや異常者だった。
そして、そんな迅を見た王宮魔法士や兵士たちの間で、ある共通の感情が芽生え始めていた。
「勇者様がストイックすぎて、こっちのメンタルが持たん……」
最初は「凄い」「尊敬する」と言っていた魔法士たちも、
日に日に「怖い」「ヤバい」「近寄りがたい」という反応に変わっていった。
──ついには、王宮内で迅の異常な努力が「恐怖」として噂されるまでになった。
「……勇者殿、頼むから休んでくれ!!」
研究室のドアが勢いよく開かれ、ロドリゲス・ヴァルディオスが悲鳴のような声を上げた。
彼の後ろには、同じように疲れ切った顔の魔法士たちが何人も控えている。
「頼むから休んでくれ!! これ以上おぬしの異常な研究熱を見せつけられると、わしらが精神的に耐えられん!!!」
「えー……やだー……」
迅は上の空で答えながら、魔力干渉波の数式を整理し続ける。
「そこを何とか!! 何なら、“戦ってくれ”と頼むよりも、“休んでくれ”と頼む方が心苦しい”のじゃが!!」
「……いやぁ、何かすまんな。でも、やだ。」
「ならば無理矢理にでも……!」
ロドリゲスが本気で魔法を発動しそうになった瞬間——
「……仕方ないわね。」
静かなため息と共に、一人の少女が研究室に入ってきた。
リディア・アークライト。
彼女は一直線に迅へと歩み寄ると、彼の腕を掴んで無理やり引っ張る。
「行くわよ、ジン。」
「……え? ちょ、リディアさん? どこ行くの?」
「……城下町デート。」
「…………んん?」
◇◆◇
(迅ったら、こうでもしないとずっと研究室と訓練所にこもりきりになるんだもの。)
(……べ、別に二人きりでデートがしたかったって訳じゃないけど、これが一番合理的な判断よね。うん。)
心の中で一人言い訳をするリディアの横。
王宮の門を抜けた瞬間、広がる景色に迅は目を見開いた。
——活気に満ちた城下町。
石畳の大通りの両脇には、色とりどりの屋台や商店が立ち並び、
行き交う人々の楽しげな声や笑い声が響いている。
香ばしい焼き菓子の匂い、スパイスの効いた肉料理の香り。
魔法で浮かぶ看板や、街路を彩る魔導ランタンの柔らかな光。
そこは、迅がこれまで過ごしてきた研究室や訓練場とはまるで別世界だった。
「おぉ……すげぇな。」
ポツリと呟くと、隣を歩くリディアが驚いたように振り向いた。
「……まさかとは思うけど、迅。あなた、ここに来るの初めて?」
「うん。」
「……嘘でしょ。一回も?」
「マジでない。」
迅は即答した。
「えぇぇぇ!?」
リディアは思わず足を止める。
「ちょっと待って……あなた、召喚されてから今まで、一度も城下町に降りてこなかったの?」
「いや、マジで来てねぇ。」
迅はあたりをキョロキョロと見回しながら答える。
「軍用通路は通ったか? あとは訓練場と研究室の往復以外、基本的に移動してねぇわ。」
「……。」
リディアは何とも言えない表情で迅を見つめた後、ため息をついた。
「……あなたらしいわね。」
「ん?」
「召喚されたばかりで、異世界に興味津々なのかと思ったけど、
あなたにとっては”解析すべき魔法文明”が目の前にあったのね。」
「まあ、そんなとこだな。」
迅は肩をすくめたが、すぐに目を輝かせる。
「でも、今は違うぞ。せっかく来たんだ、見て回れるものは全部見てやる。」
「ふふっ、それなら今日はしっかり案内してあげる。」
リディアは小さく笑い、歩き出す。
こうして、二人の城下町巡りが始まった。
——しかし、その直後だった。
「……あれ? もしかして、あの人……」
「え? いや、まさか……」
「勇者様だ!!!!」
突如、周囲の人々の視線が一斉に迅へと向いた。
「勇者様だ!!」
「アルセイア王国を救った英雄!!」
「本当にあの方なの!? すごい、間近で見られるなんて……!」
どよめきが広がり、瞬く間に迅の周囲へと人が集まり始めた。
「わぁぁぁ!! 勇者様!!」
「勇者様!! どうか握手を!!」
「勇者様、ぜひうちの商品を!!」
子供から大人まで、皆が歓声を上げ、手を振り、差し出された果物や花束が迅の目の前に押し寄せる。
「う、うわぁ……なんかすげぇことになってんな……」
戸惑いながらも、迅は苦笑するしかなかった。
——“英雄”としての扱い。
自分では大したことをしたつもりはなかった。
ただ、必要だと思ったことをやっただけだ。
しかし、人々の目にはそれが“王国を救った偉業”として映っている。
「はは……これは、どうしたもんかね……」
ぽつりと呟いた迅の隣で、リディアが微笑んだ。
「当然よ。あなたは私たちの国を救った英雄なんだから。」
「えぇ……仮面付けた変な兄ちゃん追っ払っただけだぜ?大袈裟だろ。」
「ふふ、そんな事無いわよ。」
そう言いながら、そっと迅の袖を引いた。
「……少し歩きましょう。」
「あ、ああ……」
リディアに手を引かれるまま、人々の歓声に応えながら、
二人はゆっくりと城下町の奥へと歩き出した。
——こうして、勇者・九条迅、城下町初体験の一歩が始まった。
朝日が差し込むにも関わらず、この部屋の主は変わらず机に向かい、ペンを走らせていた。
「……なるほどな。魔力干渉波を一定の周波数で制御すれば、非魔法適性者でも魔力を一定時間循環させられる可能性がある……」
勇者・九条迅は、ひたすら研究に没頭していた。
──アーク・ゲオルグとの戦いから十数日。
筋肉痛が回復した迅は、“休む”という概念を一切持たず、再び研究と訓練の日々に突入していた。
昼は魔法理論を整理し、夜は実験。
訓練場では戦闘シミュレーションを繰り返し、寝ている間すらも”睡眠筋トレ魔法”を発動する始末。
──その姿は、勇者というより、もはや異常者だった。
そして、そんな迅を見た王宮魔法士や兵士たちの間で、ある共通の感情が芽生え始めていた。
「勇者様がストイックすぎて、こっちのメンタルが持たん……」
最初は「凄い」「尊敬する」と言っていた魔法士たちも、
日に日に「怖い」「ヤバい」「近寄りがたい」という反応に変わっていった。
──ついには、王宮内で迅の異常な努力が「恐怖」として噂されるまでになった。
「……勇者殿、頼むから休んでくれ!!」
研究室のドアが勢いよく開かれ、ロドリゲス・ヴァルディオスが悲鳴のような声を上げた。
彼の後ろには、同じように疲れ切った顔の魔法士たちが何人も控えている。
「頼むから休んでくれ!! これ以上おぬしの異常な研究熱を見せつけられると、わしらが精神的に耐えられん!!!」
「えー……やだー……」
迅は上の空で答えながら、魔力干渉波の数式を整理し続ける。
「そこを何とか!! 何なら、“戦ってくれ”と頼むよりも、“休んでくれ”と頼む方が心苦しい”のじゃが!!」
「……いやぁ、何かすまんな。でも、やだ。」
「ならば無理矢理にでも……!」
ロドリゲスが本気で魔法を発動しそうになった瞬間——
「……仕方ないわね。」
静かなため息と共に、一人の少女が研究室に入ってきた。
リディア・アークライト。
彼女は一直線に迅へと歩み寄ると、彼の腕を掴んで無理やり引っ張る。
「行くわよ、ジン。」
「……え? ちょ、リディアさん? どこ行くの?」
「……城下町デート。」
「…………んん?」
◇◆◇
(迅ったら、こうでもしないとずっと研究室と訓練所にこもりきりになるんだもの。)
(……べ、別に二人きりでデートがしたかったって訳じゃないけど、これが一番合理的な判断よね。うん。)
心の中で一人言い訳をするリディアの横。
王宮の門を抜けた瞬間、広がる景色に迅は目を見開いた。
——活気に満ちた城下町。
石畳の大通りの両脇には、色とりどりの屋台や商店が立ち並び、
行き交う人々の楽しげな声や笑い声が響いている。
香ばしい焼き菓子の匂い、スパイスの効いた肉料理の香り。
魔法で浮かぶ看板や、街路を彩る魔導ランタンの柔らかな光。
そこは、迅がこれまで過ごしてきた研究室や訓練場とはまるで別世界だった。
「おぉ……すげぇな。」
ポツリと呟くと、隣を歩くリディアが驚いたように振り向いた。
「……まさかとは思うけど、迅。あなた、ここに来るの初めて?」
「うん。」
「……嘘でしょ。一回も?」
「マジでない。」
迅は即答した。
「えぇぇぇ!?」
リディアは思わず足を止める。
「ちょっと待って……あなた、召喚されてから今まで、一度も城下町に降りてこなかったの?」
「いや、マジで来てねぇ。」
迅はあたりをキョロキョロと見回しながら答える。
「軍用通路は通ったか? あとは訓練場と研究室の往復以外、基本的に移動してねぇわ。」
「……。」
リディアは何とも言えない表情で迅を見つめた後、ため息をついた。
「……あなたらしいわね。」
「ん?」
「召喚されたばかりで、異世界に興味津々なのかと思ったけど、
あなたにとっては”解析すべき魔法文明”が目の前にあったのね。」
「まあ、そんなとこだな。」
迅は肩をすくめたが、すぐに目を輝かせる。
「でも、今は違うぞ。せっかく来たんだ、見て回れるものは全部見てやる。」
「ふふっ、それなら今日はしっかり案内してあげる。」
リディアは小さく笑い、歩き出す。
こうして、二人の城下町巡りが始まった。
——しかし、その直後だった。
「……あれ? もしかして、あの人……」
「え? いや、まさか……」
「勇者様だ!!!!」
突如、周囲の人々の視線が一斉に迅へと向いた。
「勇者様だ!!」
「アルセイア王国を救った英雄!!」
「本当にあの方なの!? すごい、間近で見られるなんて……!」
どよめきが広がり、瞬く間に迅の周囲へと人が集まり始めた。
「わぁぁぁ!! 勇者様!!」
「勇者様!! どうか握手を!!」
「勇者様、ぜひうちの商品を!!」
子供から大人まで、皆が歓声を上げ、手を振り、差し出された果物や花束が迅の目の前に押し寄せる。
「う、うわぁ……なんかすげぇことになってんな……」
戸惑いながらも、迅は苦笑するしかなかった。
——“英雄”としての扱い。
自分では大したことをしたつもりはなかった。
ただ、必要だと思ったことをやっただけだ。
しかし、人々の目にはそれが“王国を救った偉業”として映っている。
「はは……これは、どうしたもんかね……」
ぽつりと呟いた迅の隣で、リディアが微笑んだ。
「当然よ。あなたは私たちの国を救った英雄なんだから。」
「えぇ……仮面付けた変な兄ちゃん追っ払っただけだぜ?大袈裟だろ。」
「ふふ、そんな事無いわよ。」
そう言いながら、そっと迅の袖を引いた。
「……少し歩きましょう。」
「あ、ああ……」
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