科学×魔法で世界最強！ 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

第85話 獣拳無双！ミィシャ、狩りの時間！

　遺跡の第二層へと続く階段を慎重に降りていくと、辺りの空気がひんやりと冷え始めた。

　湿った石壁に刻まれた古代文字の魔法陣が、かすかに淡い光を放ち、まるで道標のように奥へと誘っている。

　しかし、その静けさは、むしろ危険の前触れのようだった。

　エリナが、手にした剣の柄を握りしめながら周囲を見渡す。

「ここは……思った以上に広いですわね。まるで、何かを飼っていたような空間にも見えますわ」

「妙な言い回しだが、確かにそんな感じだな」

ミィシャが肩をすくめながら、壁を指でなぞる。かすかに爪痕のような傷が残っているのを見て、彼女は鼻をひくつかせた。

「それに……臭ぇ～な。魔物の匂いだ」

ミィシャが低く呟いた瞬間、ライネルが杖を掲げ、周囲を見渡した。

「……静かすぎる。これは、待ち伏せの可能性が高いね」

彼の目が鋭く細められる。

　その時——。

　カツン。

　一歩踏み出したエリナの足元に、小さな音が響いた。その瞬間——。


「避けろッ！！」


　ライネルの叫びと同時に、影が天井から飛び降りた。

　ゴガァァァァン！！

　巨大な黒狼が三体、鋭い爪を剥き出しにしながら、エリナたちの行く手を阻んだ。

　漆黒の体毛はまるで闇そのもの。赤い目がぎらつき、よだれを垂らしながら低く唸る。普通の狼とは異なり、身体は人間ほどの大きさがあり、異常な筋肉量を誇っていた。

「……魔獣、"ヘルウルフ"か。A級の魔物……まあまあ厄介だにゃ～」

ミィシャが構える。

「いいえ、それだけではありませんわ」

エリナが鋭く目を向けた先、奥の闇の中から巨大な蜘蛛が姿を現した。

まるで岩のような硬質な脚を持つ魔物——"ストーンスパイダー"。その甲殻は並の剣では傷つかない強度を持つことで知られていた。

更に、遺跡の闇を切り裂くように、翼をはためかせ"グリムハーピー"の群れが襲い来る。

「どうやら歓迎されているみたいですわね。まったく……」

エリナが剣を構える。

「さっさと片付けるぜ！　あたしが狼どもを引きつける！」

ミィシャが前に出る。

「なら、僕は宙空の敵を撃とう。エリナ、蜘蛛は任せるよ」

ライネルが詠唱を始めた。

「ええ、心得ましたわ！」

エリナの目が鋭く光る。

そして——戦闘が始まる。


　◇◆◇


「はっはっは！いいねぇ、燃えてきたぜ！」


ミィシャ・フェルカスは笑っていた。
足元を覆う黒い影――ヘルウルフたちが唸り声を上げ、獲物を狩るための戦闘態勢に入る中で、彼女は両腕を掲げ、両手に装着した獣骨の手甲を構えた。

「さぁ、どっからでもかかってきな！」

彼女の前には、十数匹ものヘルウルフが陣形を組んでいる。
漆黒の体毛に、血のように赤い瞳。鋭い牙を剥き、筋肉を引き絞ると、次の瞬間――全ての個体が一斉に襲いかかってきた。

「……にゃっは！上等！」

一匹が、横から飛びかかる。
ミィシャは素早く足を踏み込むと、右の手甲を横に薙ぎ払い、狼の頭部を殴りつけた。

ゴォンッ！

鈍い音が響く。
狼の巨体が宙を舞い、遺跡の壁に叩きつけられると、数度痙攣した後、動かなくなった。

「ふふっ、手応えありだにゃ～！」

その瞬間、別の狼が後ろから跳びかかる。
ミィシャはそれを足のバネを使ってバク転するように跳び上がり、空中で軌道を変えながら、着地と同時に狼の背に拳を叩き込んだ！

ドゴォッ！！

「にゃははっ！鈍い鈍い！」

狼が地面に激突する。
そのまま彼女は獣のような動きで低く構え、別のヘルウルフの攻撃に対応した。

連続する殺意の牙。

前から二匹、左右から二匹が同時に襲いかかる！
ミィシャは片手で前方の狼の顎を受け止めると、そのまま手甲の衝撃で押し返し、狼の腹に膝蹴りを叩き込む。

「ぐふっ……！」

ヘルウルフが呻き声を上げた瞬間――

「――遅ぇよ！」

左からの狼の爪をかわしつつ、その勢いを利用して回転し、右の手甲で狼の脇腹をフルスイング！
激しい衝撃と共に狼が吹っ飛び、地面に転がった。

「はっ、こんなもんか？」

残る狼たちが一斉に警戒する。
明らかに動きが鈍くなった。彼らの本能が悟ったのだ。

──この獣人、強い。


「おっと、少しは頭が回るようだにゃ？」


だが、ミィシャは楽しそうに拳を構え直した。

「でもよォ、悪いけどもう”狩り”は始まっちまってるんだわ。」

狼たちが一斉に後退しようとしたその瞬間――

「逃がすかよ！」

ミィシャは一気に間合いを詰め、前方の狼の首元に手甲を突き出した！

「破砕拳スマッシュ・クラッシュッ！！」

手甲の魔力が炸裂し、狼の巨体が一瞬にして粉砕される。

「はっはっは！！　もっと来いやぁ！！」

彼女の戦いは、まだ終わらない――