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第84話 白銀級冒険者、遺跡へ――奇妙なる円環の間
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アル=ゼオス魔導遺跡――。
荒れ果てた石造りの門が、薄暗い空の下にそびえ立つ。周囲の岩壁は長年の風雨に晒され、ひび割れた石の表面には古代文字がかすかに残っていた。
そこに書かれた言葉の意味は、誰も理解できない。しかし、かつてこの地に栄えた文明が存在した証だけは、確かに感じ取れる。
「……ここが、問題の遺跡ですわね。」
エリナ・ヴァイスハルトは愛剣を腰に携えながら、鋭い眼差しで遺跡の門を見上げた。
彼女の真紅の鎧が、冷たい風を受けてわずかに揺れる。黄金のポニーテールは流れるように舞い、その先端の縦ロールが意志の強さを象徴するかのように揺れた。
「遺跡の中に、冒険者ギルドの仲間たちが囚われている可能性が高いですわね。」
静かにそう言いながら、彼女の指は柄へと伸びる。緊張感が高まる中、隣で腕を組んでいた猫獣人のミィシャ・フェルカスが軽く鼻を鳴らした。
「……まぁ、遺跡の中からは妙な魔力の気配が漂ってきてるし、ビンゴっぽいな。」
ミィシャは長い赤髪の一部を編み込み、右目の眼帯を少し隠すように垂らしている。
眼帯の下にある傷跡が、彼女の過去を物語っていた。獣人特有の鋭い感覚が、遺跡から放たれる異様な気配を察知していた。
魔法士のライネル・フロストは、分厚い魔導書を片手に、冷静に周囲を分析していた。
彼の紺銀色の髪は几帳面に分けられ、知的な光を湛えた銀縁眼鏡が彼の冷静さを引き立てている。
彼は目を細めながら呟いた。
「……おかしいな。普通の遺跡なら、これほど不安定な魔力の流れにはならないはずだが。」
エリナが眉をひそめる。
「どういうこと?」
ライネルは少し考えた後、遺跡の門に手をかざしながら説明を続けた。
「遺跡の中から放出されている魔力は、自然なものではない。むしろ、“何かが魔力を吸収している”ような感じだ……。」
ミィシャが嫌そうに顔をしかめる。
「……おい、やめろよなぁ、怖ぇこと言うの。」
エリナは沈黙し、真剣な表情で遺跡の奥を見つめた。
これは、単なる遺跡探索ではない。
ここには、未知の危険が潜んでいる可能性が高い。
しかし――。
「……それでも、仲間を見捨てるわけにはいきませんわ。」
彼女は静かに剣の柄を握りしめた。
ライネルがため息をつきながらも同意する。
「……ああ。慎重にな。」
「よっしゃ、行こうぜ!」
ミィシャが先陣を切るように、一歩踏み出す。
そして三人は、それぞれの覚悟を胸に秘め、静かに遺跡の中へと足を踏み入れた。
◇◆◇
「……なんだこりゃ?」
ミィシャが足を止め、呆れたような声を漏らした。
「まるで……お風呂場か何かみたいですわね。」
エリナが眉をひそめながら、目の前に広がる奇妙な光景を見渡した。
遺跡の第一層――そこは広大な円形の空間だった。
高い天井からはかすかに光が漏れ、壁面には古代文字らしき刻印がびっしりと刻まれている。
だが、それ以上に異様なのは、部屋の中央に鎮座する巨大な円形の“プール”だった。
直径およそ二十メートルほどのそのプールは、まるで儀式場のような神秘的な雰囲気を醸し出している。
しかし、そこには水が一滴もなかった。
ただの石造りの溝が円を描くように掘られており、周囲には奇妙な魔法陣の刻印が連なっている。
ミィシャが軽く舌打ちしながら、靴でプールの底を軽く蹴った。
「……なんだよ、ただの空っぽの穴じゃねぇか。」
ライネルがゆっくりと進み出ると、眼鏡の奥の瞳が鋭く光った。
「いや……これは単なる装飾ではない。」
彼はプールの縁に手をかざし、ゆっくりと魔力を送り込んだ。
すると――刻まれた魔法陣の紋様が、一瞬だけ淡い紫色に輝いた。
エリナが驚きの表情を浮かべる。
「反応した……!?」
ライネルが険しい表情で説明を続ける。
「魔力を注ぐと、一瞬だけ魔法陣が起動しかけた。だが……何かが足りない。おそらく、この施設には“別のエネルギー源”が必要だ。」
エリナは静かに腕を組み、慎重に考え込む。
「……つまり、このプールは何かの“装置”ということですわね?」
ライネルはゆっくりと頷いた。
「間違いない。この形状から察するに、何かを“循環”させる仕組みがあるはずだ。通常の水のプールなら、こんな高度な魔法陣は必要ない。」
ミィシャが気に入らなそうに腕を組み、少し眉をひそめる。
「……循環ねぇ……血とかじゃねぇだろうな?」
その言葉に、しんとした沈黙が場を包む。
エリナはゆっくりとプールの中央を見据えながら、小さく呟いた。
「……嫌な予感がしますわね。」
すると、ライネルが少し離れた場所を指差した。
「二人とも、あれを見ろ。」
彼の指の先には、もう一つの魔法陣が存在していた。
しかし、それはさっきのプールのものとは違い、床に正方形の形で刻まれていた。
エリナがそちらに歩み寄ると、魔法陣の周囲に何かの痕跡を発見した。
「これは……?」
ライネルが眼鏡を押し上げながら、冷静に分析する。
「転移魔法陣……だろうな。ただし、現在は魔力が枯渇していて、起動はしていない。」
ミィシャが怪訝な表情を浮かべる。
「転移魔法陣? ってことは、ここからどこか別の場所に移動できる……ってことか?」
ライネルは深く頷く。
「可能性は高い。遺跡内部での移動用か、あるいは……もっと別の用途かもしれないがな。」
エリナは剣の柄を軽く握りながら、ゆっくりと周囲を見渡した。
「……先に進みますわよ。ここに囚われている仲間を、必ず助け出さなければ。」
ライネルとミィシャも、それぞれ真剣な表情で頷いた。
やがて、三人は奥へと続く階段を発見する。
そこには、崩れかけた石扉があり、その向こうにはさらなる闇が広がっていた――。
荒れ果てた石造りの門が、薄暗い空の下にそびえ立つ。周囲の岩壁は長年の風雨に晒され、ひび割れた石の表面には古代文字がかすかに残っていた。
そこに書かれた言葉の意味は、誰も理解できない。しかし、かつてこの地に栄えた文明が存在した証だけは、確かに感じ取れる。
「……ここが、問題の遺跡ですわね。」
エリナ・ヴァイスハルトは愛剣を腰に携えながら、鋭い眼差しで遺跡の門を見上げた。
彼女の真紅の鎧が、冷たい風を受けてわずかに揺れる。黄金のポニーテールは流れるように舞い、その先端の縦ロールが意志の強さを象徴するかのように揺れた。
「遺跡の中に、冒険者ギルドの仲間たちが囚われている可能性が高いですわね。」
静かにそう言いながら、彼女の指は柄へと伸びる。緊張感が高まる中、隣で腕を組んでいた猫獣人のミィシャ・フェルカスが軽く鼻を鳴らした。
「……まぁ、遺跡の中からは妙な魔力の気配が漂ってきてるし、ビンゴっぽいな。」
ミィシャは長い赤髪の一部を編み込み、右目の眼帯を少し隠すように垂らしている。
眼帯の下にある傷跡が、彼女の過去を物語っていた。獣人特有の鋭い感覚が、遺跡から放たれる異様な気配を察知していた。
魔法士のライネル・フロストは、分厚い魔導書を片手に、冷静に周囲を分析していた。
彼の紺銀色の髪は几帳面に分けられ、知的な光を湛えた銀縁眼鏡が彼の冷静さを引き立てている。
彼は目を細めながら呟いた。
「……おかしいな。普通の遺跡なら、これほど不安定な魔力の流れにはならないはずだが。」
エリナが眉をひそめる。
「どういうこと?」
ライネルは少し考えた後、遺跡の門に手をかざしながら説明を続けた。
「遺跡の中から放出されている魔力は、自然なものではない。むしろ、“何かが魔力を吸収している”ような感じだ……。」
ミィシャが嫌そうに顔をしかめる。
「……おい、やめろよなぁ、怖ぇこと言うの。」
エリナは沈黙し、真剣な表情で遺跡の奥を見つめた。
これは、単なる遺跡探索ではない。
ここには、未知の危険が潜んでいる可能性が高い。
しかし――。
「……それでも、仲間を見捨てるわけにはいきませんわ。」
彼女は静かに剣の柄を握りしめた。
ライネルがため息をつきながらも同意する。
「……ああ。慎重にな。」
「よっしゃ、行こうぜ!」
ミィシャが先陣を切るように、一歩踏み出す。
そして三人は、それぞれの覚悟を胸に秘め、静かに遺跡の中へと足を踏み入れた。
◇◆◇
「……なんだこりゃ?」
ミィシャが足を止め、呆れたような声を漏らした。
「まるで……お風呂場か何かみたいですわね。」
エリナが眉をひそめながら、目の前に広がる奇妙な光景を見渡した。
遺跡の第一層――そこは広大な円形の空間だった。
高い天井からはかすかに光が漏れ、壁面には古代文字らしき刻印がびっしりと刻まれている。
だが、それ以上に異様なのは、部屋の中央に鎮座する巨大な円形の“プール”だった。
直径およそ二十メートルほどのそのプールは、まるで儀式場のような神秘的な雰囲気を醸し出している。
しかし、そこには水が一滴もなかった。
ただの石造りの溝が円を描くように掘られており、周囲には奇妙な魔法陣の刻印が連なっている。
ミィシャが軽く舌打ちしながら、靴でプールの底を軽く蹴った。
「……なんだよ、ただの空っぽの穴じゃねぇか。」
ライネルがゆっくりと進み出ると、眼鏡の奥の瞳が鋭く光った。
「いや……これは単なる装飾ではない。」
彼はプールの縁に手をかざし、ゆっくりと魔力を送り込んだ。
すると――刻まれた魔法陣の紋様が、一瞬だけ淡い紫色に輝いた。
エリナが驚きの表情を浮かべる。
「反応した……!?」
ライネルが険しい表情で説明を続ける。
「魔力を注ぐと、一瞬だけ魔法陣が起動しかけた。だが……何かが足りない。おそらく、この施設には“別のエネルギー源”が必要だ。」
エリナは静かに腕を組み、慎重に考え込む。
「……つまり、このプールは何かの“装置”ということですわね?」
ライネルはゆっくりと頷いた。
「間違いない。この形状から察するに、何かを“循環”させる仕組みがあるはずだ。通常の水のプールなら、こんな高度な魔法陣は必要ない。」
ミィシャが気に入らなそうに腕を組み、少し眉をひそめる。
「……循環ねぇ……血とかじゃねぇだろうな?」
その言葉に、しんとした沈黙が場を包む。
エリナはゆっくりとプールの中央を見据えながら、小さく呟いた。
「……嫌な予感がしますわね。」
すると、ライネルが少し離れた場所を指差した。
「二人とも、あれを見ろ。」
彼の指の先には、もう一つの魔法陣が存在していた。
しかし、それはさっきのプールのものとは違い、床に正方形の形で刻まれていた。
エリナがそちらに歩み寄ると、魔法陣の周囲に何かの痕跡を発見した。
「これは……?」
ライネルが眼鏡を押し上げながら、冷静に分析する。
「転移魔法陣……だろうな。ただし、現在は魔力が枯渇していて、起動はしていない。」
ミィシャが怪訝な表情を浮かべる。
「転移魔法陣? ってことは、ここからどこか別の場所に移動できる……ってことか?」
ライネルは深く頷く。
「可能性は高い。遺跡内部での移動用か、あるいは……もっと別の用途かもしれないがな。」
エリナは剣の柄を軽く握りながら、ゆっくりと周囲を見渡した。
「……先に進みますわよ。ここに囚われている仲間を、必ず助け出さなければ。」
ライネルとミィシャも、それぞれ真剣な表情で頷いた。
やがて、三人は奥へと続く階段を発見する。
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