科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

文字の大きさ
87 / 151

第87話 魔力を喰らう檻

しおりを挟む
ライネルは静かに杖を握り、魔力を収束させる。
深い青の瞳が鋭く光を宿し、周囲に淡く冷気を帯びた魔法陣が展開された。

「"霊視の目オルビス・スキャン"」

彼が低く詠唱すると、魔法陣が淡い青白い光を放ち、波紋のように広がる。
不可視の魔力が遺跡の奥へと流れ込み、空間に潜む魔力の痕跡を探り出す。

数秒の沈黙の後、ライネルは目を閉じ、探知魔法がもたらした情報を整理した。


「……反応がある。」


その言葉に、エリナとミィシャが身構える。

「どこだぁ?」

ミィシャが低く尋ねると、ライネルは冷静に答えた。

「三方向、それぞれの道の先だ。微弱な魔力の痕跡が点在している。おそらく、捕らえられたノーザリアの兵士や冒険者たちのものだろう」

エリナは険しい表情で頷いた。

「魔力が微弱、というのが気になりますわね……ただ気絶しているだけならいいけれど、もし何かの仕掛けで弱っているとしたら、時間の猶予はないかも知れませんわね。」

「くっそ……拷問か、何かの実験か……。あのバカ王子が言ってた『魔王軍の拉致事件』ってのも、まさかここに絡んでるんじゃねえだろうな?」

ミィシャが舌打ちしながら忌々しげに呟く。
エリナは考え込むように腕を組んだが、すぐに決断した。

「今は推測よりも、救出が最優先ですわよ。」

そう言いながら、彼女は改めて三方向の道へ目を向ける。

「一か所ずつ順番に向かうのでは遅すぎますわね。分かれて行きましょう。」

ライネルも即座に同意する。

「賢明だね。今なら敵が本格的に動く前に、救出できる可能性が高い。」

一方、ミィシャは腕を組みながら少し渋い顔をした。

「分かれるのはいいけどよ……ちょっと気味が悪いぜ。なんかこう、仕掛けられた臭いがプンプンする。」

「慎重に行動すればいいだけの話ですわ。」

エリナは冷静に言い放ち、ミィシャの肩を叩く。

「それに、私たちが束にならなくても、こんな魔物の巣、軽く突破できるのではなくて?」

「……はっ!そりゃそうだ。バラバラになろうが、誰が相手だろうが、ぶちのめしてやるだけさ!」

ミィシャは豪快に笑い、拳を鳴らした。

ライネルは呆れながらも微かに微笑し、改めて状況を整理する。

「では、それぞれの道を進み、人質を救出した後、この広間に戻る。そういう手筈でいこう。」

「分かりました。敵の気配を察知したら即座に行動する事にしましょう。」

エリナが頷き、剣の柄を握りしめる。

「それじゃあ、さっさと片付けようぜ。」

ミィシャも手甲を装着し直し、獣のような鋭い目つきで通路を睨む。

「……二人とも、油断はするなよ。」

ライネルは最後にそう念を押し、それぞれの道へと足を踏み出した。


 ◇◆◇


遺跡の奥深くへと続く通路を、エリナ・ヴァイスハルトは慎重に進んでいた。

湿った空気が肌に纏わりつき、古びた石壁の間を抜けるたびに、かすかな魔力のざわめきが耳に響く。

「……妙ですわね。」

歩みを止め、剣の柄にそっと手を添える。

先ほどから、空気が変わった。
遺跡全体に漂う静寂が、まるで何かがこちらを待ち構えているような不気味なものへと変化している。

(遺跡の内部構造は魔法的な仕掛けが施されている……だとしたら、この先には?)

警戒を強めながら、エリナは通路の先へと進んだ。

——そして、視界が一気に開けた。

目の前に広がるのは、広大な石造りの広間。
天井は高く、そこかしこに刻まれた古代文字の魔法陣が、微かに青白い光を放っている。

しかし、彼女の目を引いたのは、中央に広がる異様な光景だった。

「っ……!」

思わず、息を呑む。


そこには、大きな円形のプールがあった。
淡い蒼白の魔力が水面のように揺らぎ、その中に数十人の人影が横たわっている。


彼らは皆、鎧や冒険者の服を纏っていた。
ノーザリアの兵士、そして冒険者ギルドの仲間たち——意識を失い、苦悶の表情を浮かべながら、魔力の奔流に呑まれていた。


「これは……っ!」


エリナは即座に駆け寄ろうとする。
しかし——

バチッ!!

「……ッ!」

足を踏み出した瞬間、強烈な魔力の衝撃が足元から弾けた。

見えない力が壁のように広間全体を包み、まるで進入を拒むかのように、彼女を押し戻してきた。

「この魔力の流れ……まるで障壁のようですわね。」

剣を抜き、慎重に先を見据える。

プールの水面のように波打つ魔力は、ゆらゆらと彼女の足元へと這い寄るようだった。

しかし、それよりも問題なのは——

(囚われた者たちの状態が、異常すぎる……!)

兵士や冒険者たちは、ただ気を失っているわけではなかった。
彼らの身体から、薄く揺れる魔力の糸が浮かび上がり、次第にプールの底へと吸い込まれていく。

まるで魂ごと引き剥がされるように、少しずつ——確実に。

「……魔力を吸い取られている……?」

エリナはすぐに理解した。

これは単なる牢獄ではない。
「魔力吸収装置」……それも、極めて洗練されたもの。


「……急がないと。」


囚われた者たちの状態が悪化すれば、最悪の場合——命に関わる。


しかし、プールの魔力の奔流が邪魔をして、近づくことすらままならない。

「このままでは……!」

エリナは鋭い眼光で広間を見渡す。
魔力を制御する装置があるはず。

そして、すぐに目に入ったのは、プールの縁に備え付けられた、奇妙な魔導装置だった。

「……あれですわね。」

エリナは慎重に歩を進め、装置の前に立った。

それは黒い金属でできた古びた台座のようなものだった。
表面にはびっしりと魔法陣が刻まれ、かすかに青白い光を帯びている。

エリナはゆっくりと指先を滑らせ、その構造を探る。

(これは……単なる封印ではありませんわね。)

「むしろ、魔力の流れを制御するための起動装置……!」

試しに軽く魔力を流し込むと、魔法陣がぼんやりと発光した。

しかし——

「……っ!?」

突如、魔法陣が激しく点滅し始めた。

エリナは反射的に剣を構え、広間を振り返る。

「罠……!」

次の瞬間——

——ゴゴゴゴゴ……!!

背後で、巨大な石扉が鈍い音を響かせながら閉まった。
広間の入り口が封鎖され、同時に天井の魔法陣が赤黒い光を帯び始める。

「……やはり、そう簡単にはいきませんわね。」

エリナは素早く状況を整理する。

魔力の奔流が制御装置によって強化され、囚われた者たちの魔力が加速度的に吸収されていく。

しかも、今の魔力反応……誰かがこの仕掛けを意図的に動かした?

(つまり、ここにいる……!)

エリナが剣を構え直したその時——

「クク……フフフ……」

広間の奥から、不気味な笑い声が響いた。

「上質な魔力の持ち主が……わざわざそちらから姿を見せてくれるとはな。」

エリナの視線の先——
そこには、紅い瞳と竜の鱗を持つ男が立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...