科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第88話 銀閃の輝き、獣の咆哮、氷の城壁

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エリナの視線の先——

そこには、紅い瞳と竜の鱗を持つ男が立っていた。

彼の佇まいは、歴戦の兵士そのものだった。
がっしりとした体躯を包む赤黒の軍服。
肩には古びた軍章。
そして、彼を異質たらしめているのは——

竜の鱗が浮かぶ皮膚と、爬虫類のような紅い瞳。

「クク……ようこそ、貴様ら人間どもの“終着点”へ。」

低く響く声とともに、広間の天井と壁に刻まれた魔法陣が赤黒く光を帯び始める。

——ゴゴゴゴゴ……!!

「ッ……!」

エリナはすぐに振り返った

封印プールの魔力の流れが、まるで活性化したかのように激しさを増し、
囚われた兵士や冒険者たちの身体から、魔力が急激に搾り取られていく。

浅い呼吸、苦しげな呻き声。
まるで、命そのものが削られていくかのようだった。

エリナの瞳が鋭く光る。

「何のつもりですの?」

彼女の問いに、男は静かに名乗った。

「"虐滅《ぎゃくめつ》のカーディス"……魔王軍の将校、そして——貴様の処刑人だ。」

エリナは迷いなく剣を構える。

「白銀級冒険者・エリナ・ヴァイスハルト……その処刑人の役目、果たせるものならやってご覧なさい。」

カーディスの紅い瞳が細められる。

「ほう……白銀級《ホワイトランク》の冒険者か。なるほど、強者であるはずだ。」

彼は剣の柄を握りながら、ゆっくりと歩み寄る。

「しかし、貴様のような”高潔な冒険者”が、何故こんなところまで来た? まさか、囚われた者たちを救いに来たとでも言うのか?」

「それがどうしたのです?」

エリナの声は揺るがない。

「彼らはノーザリアの兵士、そして私《わたくし》の仲間。助けるのは当然ですわ。」

「……くだらん。」

カーディスの声が低く響く。

「貴様ら人間は、常に”弱者”を切り捨ててきた。
戦場で生き残るのは、強者だけ……それが”現実”というものだ。」

「……だから何ですの?」

エリナの声には、一切の迷いがない。

「私は、“生き残る強者”になるために剣を振るっているわけではありません。
私が剣を振るうのは、“仲間を守る強者”であるためですわ。」

カーディスの瞳が微かに揺らぐ。

「……フッ。」

彼は軽く肩をすくめ、腰のサーベルを引き抜く。

「理想を掲げる者ほど、戦場で血を流して死ぬものだ。 貴様も同じだろう。」

「それはどうかしら?」

エリナは静かに、しかし力強く微笑んだ。

「私は、死ぬつもりはありませんわ。
——戦場で”生き抜く”のも、最高等級《ホワイトランク》冒険者の務めですもの。」


次の瞬間——


鋼と鋼が交差する音が、広間に鳴り響いた。

エリナの剣と、カーディスのサーベルが正面からぶつかり合う。

互いの視線が交錯する。

カーディスは口角を上げ、不敵に笑った。

「……いい目だ。いいだろう、楽しませてもらおう。」

エリナの瞳にも、冒険者としての闘志が宿る。

——戦端、開く。



 ◇◆◇



ミィシャは荒い息をつきながら、封印プールの前に立った。

魔力を吸われ意識を失った兵士たちが、冷たい水面に浮かんでいる。

表情は青白く、まるで魂が削られたかのように苦悶に歪んでいた。

「……ッたく、気味が悪ぃ場所だな。」

ミィシャは軽く拳を鳴らしながら呟いた。
さっさと助け出して撤退する。今はそれが最優先だ。

だが——

——ゴゴゴゴッ……!!

背後で重々しい石の扉が閉まり、出口を塞ぐ。
遺跡全体が微かに震え、嫌な気配が背筋を這い上がった。

「……おいおい、閉じ込められたってワケか?」

舌打ちをしながら振り返った瞬間、目の前に巨影が立ちはだかっていた。


「ガハハハ!! ついに子猫ちゃんが罠にかかったかァ!!」


牛の獣人のような魔族——。

3メートル近い巨体。
鋼鉄のように鍛え上げられた筋肉。
頭に生えた巨大な雄牛の角。
ずしりと地響きを立てる、戦斧を握る巨大な腕。

そのすべてが、圧倒的な力を誇示していた。

ミィシャは一瞬だけ驚いたが、すぐにニヤリと口角を上げる。


「……これはこれは、デカい牛野郎が来たにゃ~。」


タロスは戦斧を肩に担ぎ、豪快に笑う。


「俺は"血鉄のタロス"!! 魔王軍最強の怪力を誇る戦士だ!」


その声は、壁を震わせるほどの迫力だった。

ミィシャは興味深げに爪を鳴らす。


「ほぉん? で、その最強の怪力さんは、あたしに何か用かァ?」

「ハァ!? 子猫ちゃんが俺様を舐めるか!!」


タロスはニヤリと口角を上げ、戦斧を軽く振るうだけで空気が震えた。


「貴様のちんけな拳で、この俺の体に傷でもつけられると思うのか!?」


ミィシャは肩をすくめ、獣骨の手甲を打ち鳴らす。


「試してやるよ……どっちが硬いかにゃ!」


次の瞬間——

ミィシャの拳と、タロスの巨斧が激突する。

爆風のような衝撃が広間に響いた。



 ◇◆◇



ライネルは静かに杖を握りしめ、広間に足を踏み入れた。

封印プールの前には、魔力を吸われた兵士たちが倒れている。
彼の冷静な瞳が、それを見据えた。


「……なるほど、人の魔力を吸い取る仕組みか。」


ライネルは杖を軽く回しながら、制御装置の仕組みを探る。

しかし——

「……貴様の……魔力………捧げる……」

不気味な囁き声が響いた。

ライネルが振り返ると、そこには——

漆黒のローブを纏い、全身を呪文の刻まれた包帯で覆った男が立っていた。

彼の皮膚の隙間から覗く肌は、ただれ、腐食したような異様なもの。
そして、彼の足元には、黒く蠢く影が不気味に広がっていた。

「……お前の影……いい……魔力……。」

ライネルは動じることなく、杖を軽く持ち直した。


「“漆黒のティネブラ”……か。」


ティネブラの瞳がぎょろりと動き、不気味な微笑を浮かべる。

「……知って……いるのか……?」

「お前の噂くらいはな。……魔王軍の”呪われた実験体”。」

何らかの実験により爛《ただ》れた皮膚を魔道具の帯で隠し、強力な魔法で戦場を蹂躙《じゅうりん》する、魔王軍の術師の噂。

(……随分と、大物が出てきているな。二人は大丈夫だろうか?)

ライネルは軽く唇を噛む。

その様子に、ティネブラは一瞬だけ沈黙した。
だが、次の瞬間、不気味に笑う。


「……フフ……面白い……。」


ライネルは冷静に敵の魔力を見極める。

(幻覚魔法と風魔法を組み合わせて戦うか……)

「……その冷たい目……いただく……。」

ティネブラが手を掲げると、広間の空気が歪んだ。

——突如として、ライネルの視界が歪む。

目の前の空間が揺らぎ、封印プールの兵士たちが苦しげにのたうち回る姿が数倍にも増えて見えた。

幻覚魔法。

「……なるほど、これは”情報の攪乱”か。」

ライネルはすぐに理解し、幻覚を無視して杖を構える。

「……風よ……切り裂け……"風刃《エア・ブリッツ》"。」

ティネブラが呪文を唱えた瞬間、空間が一閃し、無数の風の刃が襲いかかる。

——しかし、

「……"氷槍《アイス・ランス》"。」

ライネルは杖を軽く振るい、冷気の刃を放つ。

瞬時に風の刃を凍結させ、砕いた。

ティネブラが微かに首を傾げる。


「……なるほど、興味深い技術だ。だが、理論を見破れば驚くことはない。」


ライネルは微かに口元を持ち上げ、再び杖を構える。

次の瞬間——

氷と風の魔法が激突する!
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