科学×魔法で世界最強！ 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

第89話 ミィシャ・フェルカス ──荒野に咲く爪牙──

——強くなれ。強くあれ。

幼い頃から、その言葉を何度も聞いて育った。
それは里の掟であり、彼女の誇りでもあった。


獣人の里、"ザガンの牙"。


そこでは、ただ生きるだけでは価値がなかった。
この世界は弱肉強食——生き残るのは強者だけ。

だからこそ、ミィシャ・フェルカスは戦うことを選んだ。

己の拳が、誇りを示すために。


　◇◆◇


「——もう降参か？」

荒野に響く少女の声。

ボロボロに倒れ込んだ少年が、悔しそうに唇を噛む。
周囲には、同じ村の獣人の少年たち。
どれもミィシャより年上の男ばかりだった。

しかし——

「チクショウ……！ お前、本当に女かよ……！」

砂埃の舞う闘技場で立っていたのは、たった一人の少女だった。


ミィシャ・フェルカス。


生まれつき身体能力が高く、戦闘のセンスも群を抜いていた。

それは、同世代の少年たちすら凌駕するほどのものだった。

「つっかえねぇな。もっと気合い入れてこいよ。」

肩を回しながら、ミィシャはニヤリと笑う。

「拳ってのはなぁ、牙と一緒だ。食らいつく気がねぇ奴に、勝ち目なんざねぇよ。」

少年は顔を赤くし、唇を噛みしめた。

「くそ……女のくせに……！」

その言葉に、ミィシャの目が細くなる。

「——は？」

瞬間、彼女の拳が少年の足元に叩き込まれた。

轟音とともに、砂煙が巻き上がる。
その衝撃に少年は尻もちをつき、顔を引きつらせる。

ミィシャは冷たく言い放った。

「男か女か
で強さが決まるなら、今ここで負けてるお前は何なんだよ？」

少年は何も言えず、ただ俯いた。

ミィシャは、強さを証明し続けなければならなかった。
この村では「強い者が正義」なのだから。


だが——


その価値観は、ある出来事によって大きく揺らぐことになる。



それは、ある日のことだった。

ミィシャが、村の少年たちとの戦いに勝ち続けていた頃。
一部の男たちは、彼女を妬み、疎ましく思い始めていた。

「なぁ、お前ら思わねぇか？」

「アイツ、ちょっと調子に乗りすぎてんだよ。」

「女のくせに男より強いとか、ウゼぇよな。」

「一回くらい、思い知らせた方がいいんじゃねぇか？」

そうして計画されたのは——卑劣な罠だった。


ミィシャは、複数人の男たちに囲まれ、不意打ちを受けた。

本来なら、彼女が負けるはずはなかった。
だが、男たちは彼女の強さを知っていた。
だからこそ——顔を狙った。

「ッ……！！」

鋭い刃が、彼女の頬から右目にかけて切り裂いた。

鮮血が滴り、視界が揺れる。
ミィシャは必死に反撃しようとするが、背後から足を引っ掛けられ、転倒する。

「……終わりだな、お前。」

男たちは嘲笑う。

「強さを誇ったところで、そんな傷顔じゃ……もう女として終わりだ。」

「これからは大人しく、男の後ろで泣いてな。」

その言葉に、ミィシャの胸が灼けるような怒りで満たされた。

「…………テメェら。」

立ち上がる。

血が頬を伝う。視界が赤く染まる。
が、そんなことはどうでもよかった。

「だったら、オマエらは”顔”が綺麗なら強くなれんのかよ？」

ゴッ！！

ミィシャの拳が、一人の男の顔面を捉える。

悲鳴が上がる。

「そんなの関係ねぇ！！」

獣のように吠え、彼女は男たちをなぎ倒していった。


——この時からだった。


ミィシャ・フェルカスは、男という存在を嫌うようになった。

男の言葉、男の視線、男の嘲笑。
すべてが苛立たしかった。

（男なんざ、信用できるか……！）

村に留まる理由はなくなった。

ミィシャは、己の拳がどこまで通じるのかを試すために村を出た。

「“本当の強さ”ってやつを見つけてやるよ。」

冒険者としての道を歩み始めたミィシャは、単独で戦い続けた。

彼女にとって、パーティを組むことは「足枷」にしかならないと思っていたからだ。


だが——


ある日、一人の剣士に出会う。

エリナ・ヴァイスハルト。

彼女は、ただの剣士ではなかった。
貴族として生まれながら、「白銀級の冒険者」として生きることを選んだ女。

その姿に、ミィシャは心を奪われた。

「……へぇ。貴族生まれのくせに、ただの騎士様じゃねぇんだな。」

「貴族の誇りなんてどうでもいいわ。私《わたくし》は冒険者として強くありたいのです。」

その言葉を聞いた瞬間、ミィシャの心が決まった。

——こいつとなら、一緒に戦ってもいい。

こうして、彼女は”銀嶺の誓い《シルバー・オース》“に加わったのだった。


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——ゴッ！！

ミィシャの拳が、タロスの巨斧を受け止める。

「……このあたしが、こんなとこで負けるわけねぇよなァ！！」

金色の瞳が、獣のように鋭く輝いた。