真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第230話 合格前祝い、そして……!?

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ルセリアの川沿いを歩くのは、今日で何度目だろう。
でも、こうして黄昏時の街に足を踏み入れるたび、いつも胸の奥がじんわりと温かくなる。

石畳の街路に沿って伸びる川は、夕陽を映して金色に輝いていた。
対岸へと続くアーチ橋には、ビー玉みたいに澄んだ光の球が等間隔に浮かび、薄暗くなる空の下で、ほのかに青や紫を帯びて瞬いている。

ヨーロッパの古都みたいな石造りの建物に、浮遊灯ホタルライトが揺れる──
異世界らしい幻想的な街並みなのに、なぜだろう。
歩いているだけで、少し落ち着く。



「あ~~……久しぶりに来たなぁ、ここ」



そんなことをつぶやきながら、俺はブリジットちゃんとヴァレンと三人で、川沿いのレストランへ向かっていた。

前に来た時は、ブリジットちゃんとフレキくんと三人で食べたんだっけ。あの日の夕陽も、今日みたいに綺麗だった。

……と、思い出に浸ってはみたものの、胸の奥が妙にそわそわする。



(大学編入試験……まぁ、多分受かるとは思うんだけど……)



実技は1位。
座学もそれなりに手応えはあった。数学は半分カンニングみたいなもんだけど、ルール上問題は無い。
普通に考えれば心配する必要はない、はず。

──はずなんだけど。



(あのバカ王子、めっちゃキレてたからなぁ……)



試験中のアレだ。
"核撃魔光砲ニュークリア・ブラスター"を模倣した時の、あの「ハァ!?」みたいな顔。
そして最後のあの外聞をかなぐり捨てての俺へのバチギレ。

はっきり言ってあいつはプライドの塊だ。
メンツが丸つぶれになったことを、黙っているとは思えない。



(王家の力で、不合格……とか……やりかねないんだよなぁ、あいつなら……)



ため息をつきかけた、その時だった。



「……アルドくん?」



ブリジットちゃんの声がして、次の瞬間──
ギュッ、と俺の手が握られた。



「っ……!」



驚いて隣を向くと、夕陽に照らされたブリジットちゃんが、少しだけ眉を寄せて俺の顔を見上げていた。まるで、心の奥を読まれたみたいに。



「きっと大丈夫だよ!」



と、迷いのない声で言う。



「アルドくんなら絶対に受かってるって、あたし、信じてるから!」



その言い方がもう……反則だ。
手の温かさが直接胸の奥に響いてくる。
いつも明るくて元気なのに、こういう時だけ真剣で、優しくて……。

……あぁもう。

俺は思わず笑ってしまった。



「うん。そうだね」



自然に声が出た。
心配が全部消えたわけじゃないけど、それでも“この子がそう言うなら大丈夫な気がする”って思えてしまう。

……すると。

先頭を歩いていたヴァレンが、なぜか足を止めて振り向く。

いや、振り向くっていうか──
めっちゃチラチラしてるんですけど?

こっち見ては前を向き、またチラッと見ては「ほう……進展……!」みたいな顔してる。

……何その表情。

お前の中の“ラブコメ探偵”が仕事してるのか?
好きにさせといてあげるけどさ。



(まぁ、これぐらいはもう……うん。見せてあげてもいいか)



散々お世話になってるし。
ヴァレンにとっては俺たちのラブコメは、最高の栄養源みたいなもんだろうし。



「……クククッ……なるほどなるほど……進展……最高だ……」



前を向いて歩きながらニヤニヤしているヴァレン。
完全に“見る専の魔王”の顔になっている。

俺は苦笑しながら、もう好きにさせることにした。

握った手はそのまま。
夕暮れの川沿いを歩く俺達三人は、まるで映画のワンシーンみたいで──

胸の奥が、少しだけ温かくなった。
次の瞬間、俺はふと思った。



(……頼むぜ、明日の合格発表)



どうか、ちゃんと合格してますように。
ブリジットちゃんの手の温もりを感じながら、俺は静かに祈っていた。



 ◇◆◇



店の扉を開いた瞬間──
爆音みたいな歓声が一気に外へ溢れ出てきた。



「イェェェェェーーーイ!!!」

「飲め飲めぇぇ!!」

「うわー!これマジで美味いってマジ!?」



ここ異世界の川沿いのレストランだよね?
間違えて大学の新歓に迷い込んだわけじゃないよね?

店内だけじゃなく、テラス席まで全部ひっくり返したみたいに盛り上がっていた。
このご時世、日本でやったら店から出禁喰らうレベル。良い子の皆は、真似しちゃいけないぜ?
21人の高校生の騒ぎは、もはや一種の魔法災害みたいだ。



「……貸切なのね」



思わず呟くと、隣のヴァレンが胸を張る。



「ククク……もちろんだとも。
この俺、ヴァレン・グランツが全て押さえた!」



羽振り良すぎでは……?
とは思うが、たぶんこの前言ってた“漫画の印税”とやらのおかげなんだろう。
でも、ようやく売れる様になってよかったね、ほんと。

俺たちが入口に立った瞬間──



「あっ!アルドさん!ブリジットさん!ヴァレンさん!!お疲れ様っス!!!」



鬼塚くんが、まるでヤクザ映画で若頭に挨拶するみたいな勢いで深々と頭を下げてきた。

その後ろから男子全員が揃って、



「「「お疲れ様ですッ!!!」」」



ちょっと怖い。
挨拶された本人がビビっちゃう。

でも悪意ゼロなのはよく分かる。
彼らは俺やブリジットちゃんに助けられたという思いがあるから、みんな礼儀正しいというか、妙に律儀というか……。



「いや、そんな畏まらなくていいよ……!」



するとヴァレンが一歩前に出て、オーバーアクションで両手を広げた。



「ククク……楽しんでいるか、諸君!」



すると即座に歓声が爆発する。



「「「ヴァレンさーーん!!!」」」



ギャル三人組までキャーキャー叫んでいる。



「今日はキミたちの異世界留学スタート、
そして相棒の編入試験合格の前祝いだ!
すべて!この俺、ヴァレン・グランツの奢りさ!」



恭しく一礼したその瞬間──



「「「フォーーー!!!!!」」」



店が揺れるほどのテンション。
テンションの種類が、完全にパリピ高校生。

ギャルズがヴァレンに手を振ると、ヴァレンは華麗に手を振り返し……
そのままスッと方向転換する。

……向かった先は、オタク四天王が陣取るテーブルだった。

やっぱりそっちが本命なのね。

四天王のところへ座ると、即、楽しそうに語り合いが始まる。

藤野くんがメガネを押し上げながら、



「いやーーヴァレン氏!読みましたぞ!新刊!
ヒロインの心理描写が神がかっておられましたな!
売り上げ右肩上がり、当然というものですな!」



ヴァレンは両手をもじもじさせながら、



「いやいや!藤野氏らの『漫画の読み方そのものを説明する無料冊子を別配布しては?』という助言のおかげでありますぞ!デュフフ!」



さっきまでのキザな魔王と同一人物とは思えぬ豹変。つーか、なんでオタク口調に寄せてんの。
ギャルズがキャーキャー言ってた時のオーラはどこ行ったんだ。



「すげぇ……馴染んでる……」



思わず呟いてしまった。

ブリジットちゃんと俺は鬼塚くんに案内されて、
鬼塚くん、佐川くん、天野さん、影山くんのテーブルへ向かった。

席につくなり佐川くんが身を乗り出してくる。



「聞きましたよ、アルドさん!
実技試験ぶっちぎりで一位だったらしいっすね!さすがっす!」


「えっ!?なんで佐川くんが知ってるの!?」



影山くんが淡々と答える。



「いや、なんか街中で号外出てましたよ。
『ルセリア大学編入試験に新星現る!!ラグナ王子のライバル出現か!?』って……ババァーンって」



お……大事になってる……
てか号外なんて出てるの!?

「記事読みましたよ!」と鬼塚くんが乗ってくる。



「なんでも、ルセリアのスター・第六王子ラグナに向かって『テメェの魔法を模倣するくらい、俺にとっちゃ何でもない事なんだよ。分かったらスッこんでろ、おぼっちゃんが!』ってカマしたらしいじゃないッスか!くぅー!カッケェ!!」



い……言ってない……!!
俺、そんな事、言ってないのに……!
とんでもない捏造記事が号外として配られている……!!

恐らく、この国でスター扱いをされているラグナ王子だが、潜在的には多くのアンチ(主に男性)もいるのだろう。

大学編入試験で王子の鼻を明かした俺の存在は、そんなラグナ王子アンチ達にとって最高の神輿なんだろうね。

担がれた方はたまったもんじゃないけど!



「い、いや~……俺そんな事言ってないんだけどね……」



すると鬼塚くんはキラキラした目で、



「またまた~!実際アルドさんなら、
あんなスカした王子転がすとか朝メシ前じゃないッスか!マジ、リスペクトっス!!」



やめなさい!
物騒な事言わないの!
ってか、実際一回転がすというか地面にめり込ませちゃってるからね!こっちは!

ブリジットちゃんまでテーブルをばんっと叩いて、



「そーよそーよ!鬼塚くんの言う通り!
アルドくんの方があんな王子様より何倍も凄いんだから!」



いや、嬉しいけど……
嬉しいけどブリジットちゃん、ラグナ絡むと過激派になるんだよな……。

でも、やっぱりこの記事、俺とバカ王子の対立構造を煽り過ぎなのよ。
こちとら、"統覇戦"のメンバーが決まってないどころか、そもそも編入試験の合格すら決まってないってのに……

俺が内心頭を抱えていると、鬼塚くんが急に真顔になる。



「……何かあったんすか?
俺でよければ力んなりますよ」



その目は、本気で心配する友達の目だった。
……ほんと、真っ直ぐすぎるぜ。このヤンキーくん。



「大丈夫。何でもないよ」



俺は苦笑しながら答えた。
危険な戦い(統覇戦)に巻き込む気はないけど……
心配してくれる気持ちは、素直に嬉しかった。

……ほんと、いい子達だ。



 ◇◆◇



店のテラスの灯りが川面に揺れる中、
みんなの笑い声とグラスの触れ合う音が重なって、
「ああ、こういう時間って、悪くないな」と思い始めたその瞬間だった。

──バァァァァアアン!!

レストランの扉が、ほぼ蹴破るみたいな勢いで開いた。

全員の視線が一斉に入口へ向く。

入ってきたのは、
リュナちゃん、蒼龍さん、フレキくん(ダックスフンド ver.)、そして覆面レスラー・イヌナンデス(=グェルくん)の四人だ。正確に言うと、二人と二匹だけど。

フレキくんがちょこちょこと前に出て、
胸を張って言う。



「皆さん!遅くなってしまってすみませんっ!」



短い足でぴょこぴょこお辞儀。可愛い。
続いてリュナちゃんが片手をひらっと上げる。



「あっ、みんなもう始まってた系っすか?
遅れちゃってサーセン!」



反省してるようで、絶対してないテンションでピースしてる。
いや、可愛いからいいんだけど。

その後ろで、蒼龍さんが両手いっぱいに袋を持ちながら、眉尻を下げて困ったように笑った。



「ごめんねぇ~、みんなぁ~!
アタシがちょいと買い物長引かせちゃってぇ~!」



するとギャル三人組がすぐに駆け寄る。



「おかえり、蒼龍さーん!」

「全然だよ~!」

「可愛いお洋服買えた?」



ギャルズ特有の距離感ゼロの柔らかい空気が、
蒼龍さんの周りにふわっと広がる。

あの三人は三龍仙が働いているコンビニ『ドラゴンマート』の常連だから、蒼龍さんとも仲良しなんだよね。

──そして、その後ろにいるのは

大量の買い物袋を抱えた覆面レスラー、イヌナンデス(中身:グェルくん)。

……ん?
なんかジャケットとスラックス、めっちゃ汚れてない?

裾とか破れてるし……。
泥の跡もあるし……。

絶対なんかあっただろ。

問いただすべきか……いや、やめておこう。
グェルくんのことだし、何か不幸に見舞われたんだろうね。多分。

そう思っていたら、リュナちゃんが椅子を片手でヒョイッと持ち上げて、俺の隣に──ドンッ! と置き、ドシンッ! と腰を下ろした。

そして自然な流れで、俺の肩へ腕を回す。



「よっこいせっと。ここ座るっすよ~」



ちょ、ちょっと待って……!
いきなり距離感ゼロなんだけど!?
いや、リュナちゃんいつもこんな感じだけど……
でも、慣れたはずなのに、距離が近いと心臓にくる。

なんかいい匂いするし。

ブリジットちゃんが俺のドキドキをよそに笑って聞く。



「リュナちゃん、おかえりー!
良いお洋服とか買えた?」



リュナちゃんは俺の肩に腕を回したまま、
ブリジットちゃんへ視線だけ向けて言った。



「聞いてくださいよ~姉さ~ん!
あーし、螺旋モールのブティックで……
モデルにスカウトされちゃって~!
ま、断ったんすけどね?」



ドヤッと胸を張って笑う。

いや、そりゃスカウトも来るよ。
顔もスタイルも規格外に良いし。



「リュナさん、スタイルいいですもんねー!羨ましい!」



と天野さんが言う。
その横の佐川くんが、頬を赤くしながら──



「た、確かに! でも……唯も……す、スタイルいいと……お、俺は……思うぜ……?」



へぇ、そういう感じ?佐川くん!
天野さん、真っ赤。



「えっ!?な、なに言ってるの颯太くんっ!!」



鬼塚くんと影山くんは、
「ウェーッ」とか言いながらニヤニヤしてる。

──てっきり、鬼塚くんと天野さんと佐川くんの三人は三角関係的な感じなのかと思ってたんだけど、どうも鬼塚くんの天野さんへの気持ちはそういうのでは無いっぽいね。

純粋な幼馴染への友情みたいな。

すると鬼塚くんがふっと真顔に戻り、
リュナちゃんの前で姿勢を正して言った。



「お疲れ様ッス、リュナ姉。」



リュナ姉!?
いつの間にそんな関係に!?

しかし当のリュナちゃんはまんざらでもなさそうで、



「おー、おっつー。
ちゃんと飯食ってる?玲司」



玲司!?名前呼び!?
しかも自然!ちょっと嫉妬しちゃうわ!

鬼塚くんは即答で、



「ッス!いただいてます!!」



ああ、なるほど。なんか……
完全に舎弟だ。

俺が横を見ると、
猫マスクの下でグェルくんが明らかに嫉妬の目をしていた。



(リュナ様のしもべはボクのポジションなのにッ……!!)



って顔。落ち着きなさい。

そんな中、ふと思い出した疑問をリュナちゃんに聞いてみた。



「そういえばさ、リュナちゃん。
さっき一瞬、リュナちゃんの魔力の波動を感じた気がしたんだけど……何かあった? “咆哮”とか使った?」



さっきヴァレンと話してる時、ほんの一瞬だけど感じたんだよね。
あの独特の竜力の揺らぎを。

するとリュナちゃんは全力でキョトンとした表情になり、



「……?
いやー?使ってないっすよ?」



うーん?
ブリジットちゃんも首を傾げる。



「あたしは分からなかったなー。
アルドくん、リュナちゃんの魔力を感じたの?」



確かに感じた気がしたんだけど……。
念のため、少し離れた席で四天王と盛り上がってるヴァレンに声をかける。



「ね!ね!ヴァレン!
さっきさ、リュナちゃんの“咆哮”みたいな魔力感じなかった?一瞬だけ!」



ヴァレンはオタク談義の最中で、サングラスをズレ直しながら振り返り、



「ん?そんなもの、拙者は感じておりませんぞ、アルド氏」



なんで俺相手にもオタク口調のままなのよ。
別にいいけども。

でも、ヴァレンも感知してないって事は……
俺の勘違いなのかな……?

胸の奥に、ほんの少しだけひっかかりが残る。

でも、せっかくの楽しい夜を曇らせるほどじゃない。

俺はその違和感をそっと飲み込んで、
リュナちゃんの腕の重みと、
ブリジットちゃんの笑顔と、
みんなの笑い声をしっかり感じながら、



(……まぁいいか)



と心の中で呟いた。

こうして夜は賑やかに更けていく。

──明日の合格発表。
ちゃんと受かってるといいな。
大丈夫な気は……するんだけど。



────────────────────



朝の空気は冷たくて澄んでいて、
昨日までの賑やかな余韻が嘘みたいに静かだ。

まだ陽が傾き始める前の午前、
俺は合格発表の会場へ──ひとりで歩いていた。

いや、本当にひとりで来て正解だった。
誰か連れてこなくてよかった。
マジでよかった。

だって……
これから俺が受ける衝撃を、人に見られたくないから!

川沿いの大通りを抜け、ルセリア中央大学の掲示板前へ向かうと、すでに何人かの学生らしき人達が、番号の貼り出された白いボードにざわざわと群がっていた。

ざわめきの中、俺は深呼吸をひとつ。
胸の奥に小さく渦巻く不安を押し殺して、掲示板へと歩み寄った。

番号の行列が縦にずらっと並んでいる。

俺の受験番号は──108番。

めちゃくちゃ覚えやすい数字だ。
煩悩の数だし。
縁起がいいのか悪いのか分からないけど、とにかく忘れようがない。受験票を見るまでもない。

だから迷わないでいい。
あとは見つけるだけだ。

上から順番に目で追っていく。
順当に、番号が増えていく。



「……61、67、69……」



心臓の奥がじわじわ熱くなる。
期待か、不安か、もう区別つかない。



「……72、76、78……」



大丈夫、大丈夫。
昨日の実技で1位取ったんだし、
普通に考えたら落ちるわけ──



「……84、89、96……」



あれ? なんか、結構飛んでない?
まぁ、このルセリア中央大学って、日本で言う東大みたいな感じで、相当な狭き門らしいし……。



「……101……」



来た。
あと少しだ、ここからだ。

俺は奥歯を噛みしめて、
最後の段へ視線を落とす。



「……107」



終わり。

…………

…………えっ。

……108は?

107番で、番号が終わった。

終わって……る……?

…………………………え?

無い。

どこをどう探しても、108は無い。

念のため、もう一度途中から見ていく。

61、67、69 ──
72、76、78 ──
84、89、96 ──
101、──107。

……無い。

完ッッッッッ全に、無い。

いやいやいやいやいやいや。

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。

そんなバカな。

実技で一位取って、
落ちる事ある……?
あるの……?
マジで……?



「………………ウ、ウソだろ……?」



声が自分の喉から勝手に漏れた。

周りのざわめきが遠くなる。
世界がスン……と静まり返る。

掲示板の白い紙は眩しいほど明るくて、
なのに俺の視界は暗く霞んでいく気がした。

……“学園編”って言ってるのに……
編入試験で……落ちるって……



「こんな展開……ある……?」



自分でも何を言ってるのか分からなかった。
でも、言葉が止まらなかった。

落ちた。
俺、落ちたのか……?

あのバカ王子……マジでやりやがったのか……?
王家の権力フル活用で……?

いや、それとも……
単純に……俺が……?

胸がキュッと痛む。

俺は掲示板の前で、
完全に魂が抜けたみたいに突っ立っていた。

目の前には不在の番号 108がぽっかりと空洞のように開いていて、その穴へ吸い込まれそうな気さえした。

……ああ。
ほんと、一人で来てよかった。

誰にも見られたくない。
この惨めな姿。

俺はただ、張り出された紙の前で動けずに立ち尽くすしかなかった。
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