真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第五章 魔導帝国ベルゼリア編

第91話 アルド vs. 召喚高校生② ──鳥人、現る!──

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……うーん。


ほんのちょっとだけ真剣に悩んでる。
いや、ホントにちょっとだけ。

目の前には、8人の高校生っぽい若者たち。
人間にしては魔力密度が高い。

でも、ぶっちゃけ俺から見れば、みんなまだ“若い”。

おそらくこの世界に召喚されてから、そんなに経ってない。

スキルの使い方も、呼吸とまでは馴染んでいない感じ。


戦意はあって、連携も悪くない。


けど、命を懸けた戦場に身を置いてきた感じは……あんまり、しない。

 

(“竜刻《ドラグ・ステイシス》“を使えば、一発で終わるんだけど……)


周囲の時間を止めて、一人ずつ手際よくふん縛って、床に並べて「はい確保、終了~」ってのが手っ取り早い。

でも、“竜刻”ってあれ、魔力密度が濃すぎるんだよね。

真祖竜の魔力ってだけでもヤバいのに、あれはもう、世界そのものを圧縮して詰め込んだような代物。



(この子たちがあれに触れたら……ぶっ壊れちゃうかもしれないしなぁ)

 

そんなわけで。

今は“人差し指と中指だけ”で応戦中だ。

いや、これでも俺的にはまぁまぁ真面目に対応してるつもり。

 

「ハァッ!!」



雷をまとったサーベルの斬撃が、音速で左から右へ唸りを上げてくる。

(うん、速い。でも予備動作ちょっと大きいかもね。)

俺は魔力を込めて、指二本を剣のように構える。
シュッと振られたサーベルをキン、と音を立てて弾く。

そのまま続けざまに繰り出された突きも、手首を返してキン、と軽く受け流す。


「──クソッ!! 何故、攻撃が通らない!?」


一条くんが苦しげに呟く。

悪いけど、この程度の剣撃では俺には通じないよ。
早いとこ諦めてくれると助かるんだけどね。


ギュインと、雷が俺の腕を撫でていくけど、痺れるほどじゃない。ちょっとくすぐったい。

 

……と、思った矢先。


視界の端、空間の“揺れ”に気づく。

中距離からの対物ライフルの狙撃。
こっちも来てたか。

 
(マジでやる気満々かよ……殺意高すぎない?)


頬をかすめる風。次の瞬間、銃弾の弾道が真正面へ。

顔面直撃コース──なら、

 

ッガキィィン!

 

俺は思いきり口を開けて、飛んできた対物ライフルの弾丸を、上下の前歯で受け止めた。

金属音が口の中で炸裂して、頭蓋の奥まで響いた。

 

「……本日2度目の弾丸のお味。」



そして、顔を横に向けて、ぺっ、と地面に吐き出す。

弾丸は白煙を上げて地面に転がり、キィィ……ンと微かに回転している。

 

(さすがに、今のはちょっと歯に染みたね。)


歯茎が少し痺れてる。
まぁ、歯は無事だし良しとしよう。


「──何なんだよ……!? どうすりゃ倒せるんだよ、コイツ……!?」


ライフル組の男子2人が絶望の声を上げる。
いや、だから君達じゃ無理なのよ。
早めに諦めてくれると助かるんだけど。俺としては。


……っと。


あの子のスキル、そろそろ効果時間限界じゃないか?たぶん、息止めてる間が有効時間でしょ?

俺はちら、と後方へ視線を向ける。

そこにいるのは、金髪アップヘアの少女。

顔を真っ赤にして、両手を胸の前に合わせて、呼吸を止めている最中。

彼女がスキルで封印しているのは、俺の“竜泡ドラグ・スフェリオン”。

泡に包まれていたグェルくんとポメちゃんも、弾けて出てきた。

つまり、今この瞬間──封印はまだ継続中ってわけだ。

 

で、その彼女の隣にいるのが、インナーカラーが目立つツインテールの女の子。

金髪の子の腕に手を添えて、なにやら補助的なスキルを発動してるように見える。

 

(……なるほど)


ふたりの魔力の流れを見る限り──


(あっちのインナーカラーのツインテちゃんのスキルは、何らかのバフ能力みたいなやつか?)


金髪アップの子は、顔が真っ赤だったのに、どんどん顔色が戻ってきてる。

頬に汗が浮かび、でも苦しそうな様子はない。


(……なるほど。封印能力の子と二人セットで、封印効果を“延長”してる感じか)
 

たぶん、このペアで「封印」と「持続時間の強化」を兼ねてる。

なかなか面白いコンビネーションだ。

特に、俺……真祖竜のスキルの一部を封じ込めるなんて、普通じゃなかなかできない。

 

(……って、俺、けっこう本気で分析してるな)



自分でもちょっと苦笑いしそうになる。

相手は高校生(たぶん)。

たしかにスキルや構成は洗練されてきてる。でも、俺が警戒するレベルにはまだ遠い。

とはいえ、いきなり全力で叩き潰して終わり──ってのは、流石に気が引ける。

もし、俺の思う通り、彼らが日本からの──
俺の前世の故郷からの来訪者で、元の世界に帰るために動いているのだとしたら……

俺は、その力になってあげたいと、思ってしまったからね。

ライフルで狙撃されたり、サーベルで斬りかかられたりしてるけどね!!俺の方がザクみたいな扱いを受けてるな、これ!
 

(さて……どうしたもんかな)


指先を鳴らし、魔力の流れを少し変えながら、俺は次の一手を見定める。

 

この戦いは、まだ“戯れ”の域だ。


でも、油断すれば足をすくわれる可能性だって、ゼロじゃない。


……となれば、もう少しだけ様子を見るか。



 ◇◆◇



 「アルド坊ちゃん!!」


 背後から聞こえたグェルくんの声は、今にも泣き出しそうな勢いで、それでいて、どこか決意が滲んでいた。


 「ボクも……ボクも一緒に戦いますッ!」


 いつもはどこか頼りなさげなパグ顔の丸い瞳が、今は真っすぐ俺を見据えている。


 ……いや、マジでどうしたグェルくん。

 続けて、すぐ横からもう一人──いや、一匹。


 「た、隊長がやるなら、ウチも戦います~!」


 ポメちゃんこと、ポルメレフがふにゃっとした口調で言ってきた。

 そっちはもっとどうした。


 「えっ!? で、でも~……」


 言いながら、俺は自然と肩越しに迫る一条くんのサーベルを手刀で受け流し、久賀くんと西条くんの撃った対物ライフルの弾丸を指先で弾き飛ばす。

 金属音と魔力の爆ぜる音が混じって、夜気の中に響いた。


 そのまま、ちらっとグェルくんの方に目を向ける。


 グェルくんもポメちゃんも、こう見えてどっちもフェンリル族だし……

 特にグェルくんは、ヴァレンが”なかなか見所がある”とか言ってたくらいなのよね。

 フェンリルって本気出すと洒落にならないよね……相手、異世界から来た高校生だよ?たぶん。

 まだ若いのに、万が一……ってのが怖いんだけど……。

 そんな俺の迷いを察してか察しなくてか、グェルくんがさらに一歩前に出た。



 「ボクだって……ボクだって、リュナ様を守れるくらい──」



 パグの顔に似合わず、芯のある声だった。



 「──強いオスになるんだッ!!」



 ……あ、察して無かった。

 これ完全に誤解してるな。

 たぶん俺が「お前、弱いから任せられないよ」と思ってると勘違いしてる。

 でもそんなつもりじゃなくて、むしろ逆。君達が強すぎるからこそ、任せにくいんだよ。

 言うてもグェルくん、フェンリル族の王子だからね。そんじょそこらの魔物とは格が違うってのも事実。

 フォルティア荒野開拓団のメンツが、真祖竜とか咆哮竜とか魔王とか、とんでもないのばっか集まってるから、相対的にヘタレキャラみたいな扱いを受けてるけど──

 グェルくんだって、充分に強い。それは知ってる。



 「た……隊長~~!」


 ポメちゃんの声が震えた。涙すら浮かべてる。


 「ウチ、初めて隊長のことカッコイイと思いました~!」


 ……え? 今までは一度も思った事なかったの?

 ポメちゃん、サラッと辛辣じゃない?


 「えっ」


 グェルくんも聞こえてたらしい。こっちも小さく呟いてて、ちょっとだけ目が泳いでる。かわいそうに!


 ──でもまあ、そこまで言うなら。


 (手加減しながら戦うの、俺一人だと案外面倒だし……)


 俺は静かにうなずき、グェルくんに声をかけた。


 「分かった。それじゃ──手伝ってもらおうかな!」


 グェルくんの尻尾がぶわっと持ち上がり、耳がピンと立った。


 「ただし! この相手の子たちはまだ子どもみたいな年齢だから、殺さないように……できれば、なるべく傷つけないように、優しく倒してあげてね!」


 ……うん、無茶言ってるのはわかってる。でも、頼むよ?

 グェルくんは、一瞬だけパァッと嬉しそうな表情になり──すぐに真剣な顔に戻った。


 「おまかせをッ!! アルド坊ちゃん!」


 その返事はもう、騎士団の一員って感じだった。

 いや、あれ? むしろ、こっちが隊長感出てきてない?


 「行くぞ、ポルメレフ!」


 グェルが振り返って叫ぶ。


 「アルド坊ちゃんを援護するんだッ!!」

 「はいな~! ウチは隊長に合わせますね~!」


 ポメちゃんがふにゃっとした笑顔で応じた。

 2匹のフェンリルは、それぞれの魔力を練り始めた。空気がぐぐっと重たくなり、トンネル内の空気が淡く色づく。

 その魔力は──たしかに、伝説の魔獣フェンリルに相応しい、濃くて強い波動だった。


 (ま、頑張ってもらおうかな。)


 ──俺は、そっと笑った。



 ◇◆◇



 雷の刃が唸る。一条くんのサーベルが、目の前で弧を描くように煌めいた。

 俺は体をひねってかわす。

 スレスレだった。サーベルが通り過ぎた直後、一条の視線がふいに背後へと逸れる。



「気をつけろ! 犬型のモンスター達が動くぞっ!!」



 声が鋭く、凛としていた。

 俺の背後──あの2体の巨大フェンリルが、ゆっくりと爪を鳴らして歩き出していた。



「高崎! 恐らく、キミのスキルはこの相手には! 藤野のサポートに回ってくれ!」



 指示を飛ばす一条の声に応じて、茶髪をゆるく巻いたギャルが顔を上げる。



「りょーかい! 藤野!! アレ出して!! ハトのやつ!!」



 ……ハト?



「了解ですぞ、高崎氏!!」



 返したのは、ぽっちゃり体型のメガネ男子。

 いかにも“オタク”という雰囲気の彼が、腰から赤白の球体を取り出す。

 いや、ちょっと待て。その見た目、そのサイズ、その配色……。

 まさかとは思うけど、投げて使う系のアイテム?

 俺が思わずちらりと視線を向けたその瞬間、彼──藤野マコトが嬉々とした笑みで俺に向かって語りかけてきた。


「……これが気になりますかな!? 拙者のスキルは“召喚獣ファミリア・マスター”……! 従えたモンスターをこの『サモン・ボール』、略して『モンボ』に封印し、解放することで使役するのですぞ!!」


 すごい早口。



「説明とかいいから早く出せって!!」



 高崎ミサキの鋭いツッコミに、藤野は「はっ!」と気合いを入れてボールを投げた。



「キミに決めたっ!!」



 やめなさい。決め台詞が決定的にアウトだ。

 次の瞬間、モンボから赤白の光が走り、煙と共に何かが現れる。


 タキシードを着た、長身の紳士のような魔人。


 ただし──


(……顔、鳩じゃねぇか)


 フォルムは完璧。細身でスタイリッシュなタキシードが似合う。動作も優雅、姿勢も凛々しい。

 ──なのに、顔面だけリアルな鳩。

 鳩顔魔人は「クルックー」と鳴きながら、静かに首を左右に振って周囲を見回す。


(何、この鳥人とりじん……これはキモい。というか……怖い)


 藤野が得意げに説明する。



「この魔人こそ、拙者がスレヴェルドでゲットした主力サモモン……強欲魔王四天王の一角、『ピッジョーネ』ですぞ!」

「名前だけならカッコいいのに!!」



 高崎と呼ばれた女子が全力でツッコミを入れていた。

 というか、魔王四天王って、どっかで聞いた事ある響きだな。



「藤野とペアなのはマジで嫌なんだけど、仕方ねーからやるよ!」

「感謝ですぞ、高崎氏!」



 鳩顔魔人──ピッジョーネは、タキシードの襟を直し、ビシィと姿勢を正す。



「……クルックー」



 その音に応えるように、グェルとポルメレフが、同時にピッジョーネへと歩を進める。



「行くぞッ、ポルメレフ!」

「はいな~! 隊長ぉ~!」



 5m級のパグとポメラニアンが、低く唸りながら突進を始めた。

 対峙するは、顔面鳩のタキシード魔人。


 いや、なんなのこの戦場。


 一条の雷刃をかわしながら、俺は一瞬、思わず笑いそうになった。
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