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廃病院

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七病目「狂依存」

七病目「狂依存」

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『れい』

うるさい
『なぁ、れい』
その名前で呼ぶな
『れいちゃん』
うるさい
『れいくん』
黙れ
『れーちゃん』
うるせぇ僕はそんな名前じゃない!!

「黙れって言ってんだろ!僕は『凜々也』なんだよぉ!!」
呼吸が乱れ肩で何とか息を整える。気付けば僕はベッドの上で汗だくになっていた。肌寒いのに汗ばんで気持ち悪い。そんな自分自身も気持ち悪かった。
「ねぇ」
声がする方を向くと隣りで寝ていた筈の螺燈が真っ暗な部屋でこちらを見て微笑んでいた。
「風呂入ろうよ」
もう何も考えたくなかった。それに全て洗い流したかったのもある。
「ああ...」
そう返事をしてベッドから降りる際にチラリと窓の外を見る。夜だ。寒い夜は嫌だなぁ。『震えて眠れ』って言葉は何処で見たんだっけか。ネットだったか漫画だったか、僕もあの時は震えて眠ったよ。恐怖とかではなくひたすら寒さに震えて眠ったんだよ。地域にもよるけど僕の住んでた所は十数年前よりずっと暖かくなったと思う。あの時はお金かからないから図書館にお世話になったな。ああ、大型の電気屋さんにも行ったか。色々家電が置いてあってそれをひたすら見てまわってたな。流石にマッサージチェアで寛ぐ勇気は僕にはなかったしそんな心境でもなかった。あの時僕は楽観的だった、アイツらが明らかにおかしな事をしているし間違ってるから僕はちゃんと家に戻れると思っていた。でも結局戻れていないし戻らなくてよかったと思う。あの女に出て行くように言われた時は一応近くの交番に行って警察の人に助けを求めたけどあの時来てくれた二人組の男性の警察の人は控えめに言って頼りなかったな。ヒステリー起こして怒鳴る母親にもっと強く出れなかったのかな、今目の前で親が未成年者を寒空の下放り出そうとしてるのに呑気だなぁ。唯一の楽しみにしてたアニメが丁度その日の深夜に放送する日だったからヒスる母親と宥める警察官を後ろから眺めながらこのまま家に入れなかったらあのアニメ観れないじゃないかと考えていた僕も呑気だったけど。眺めてたら母親がそんなことよりあの猫をどうにかしろと怒鳴っていたので警官が「じゃあ猫をどうにかすればあの子を家に入れてくれますか?」とか何とか言い出したんだよな。あ...

そうだ... 僕はあの時ほんの少しだけ心の中でスコットを犠牲にすれば自分が家に入れて貰えるかもと期待していたんだ... ああ、そうか。僕がこんなに苦しいのは家族同然のスコットを犠牲にして自分だけ助かろうとした罰だったのか。なんだ、僕も同罪じゃないか。でもよかった、あの女は警官の問いに首を縦に振ることはなかったから。なんかいいわけないだろっ!!みたいなこと怒鳴ってたな。あの時あの女がスコットを犠牲にすれば僕を捨てないでやると言い出さないでくれたのは本当にありがたかった。

スコットは僕を恨んでいるだろうか。
お前があの女に暴言吐かれたり蹴られたりしてるのを自分にあの女の怒りの矛先が向くのを恐れて見て見ぬふりした僕を。
僕が追い出された際にお前を置いていったせいでゴミ袋に詰められて捨てられたことを。
お前を犠牲にすれば自分が助かるかもと少しでも心の中で思ってしまった僕を。

...違うか。スコットがどうこうじゃない、僕が勝手にスコットを理由にして自分を許さないで自分で自分の首を絞めていただけだったのかも知れない。全部僕のエゴだったんだ、スコットの為に家族に復讐したいと思ってることもスコットを見捨てた自分を許さないで自ら苦しめ続けていることも、中学一年生だった僕が母親に許可取ってあんな家に仔猫だったスコットをもらってきたことも全部僕のエゴだった。ああ、そうだったのか、ダメな飼い主でごめんな。じゃあ僕は苦しんでも文句言えないよな。結局僕は都合よくスコットを理由に使って勝手に自滅してただけだったわけだ。僕、お前に可愛いは言ったこと何回もあるけど「愛してる」は伝えたことなかったな。あはは...日本じゃあんま日常的に愛してるなんて言わないかな?

スコットのことは確かに愛してたけど僕自身は僕を愛せないんだよなぁ。自分を許せなくて愛せないのにひとから愛されようなんて最初から無理な話しだったか。

『その人どっかにやって下さいもう顔を見たくない!』
あの女が警官に言ってたなぁ僕の目の前で。僕は母親にとって『その人』なのか。『どっかにやって』なのか。

僕は確かに『愛されたかった』
螺燈に愛してると言ってもらえた。結婚して夫婦とかいうのにもなった。でもこれは僕の望んだ愛だったのだろうか?僕は『恋人同士』や『夫婦』とかの愛ではなく親から保護されて守られる子供が受け取れる『無償の愛』が欲しかっただけなのかも知れない。

『凜々也、お前は心がガキのままだな』
螺燈が僕に言ってたことはこのことだったのかな。
親からの無償の愛なんて僕には永遠に手に入らないものじゃないか。本当に救いようがないな。昔聴いた曲の歌詞に『生まれ変わるならまた自分になりたい』みたいなのがあったけど僕もそう思う。なんか崇高な理由とかまた苦しみたいとかそういうのではないんだ。ただ、シンプルに他の『普通』の家庭や人生が分からないし上手く想像出来ないから自分に成るしかないなと思っただけなんだ。こんな人生でもきっとまた僕はこの人生を選んでしまうだろうなとふと思ったよ。

もう毎日白米に醤油かけたものを食べなくてもいいしアニメグッズだって人並みには買えると思う。毎日何処からお金を工面して母親のタバコ代とかを用意しようかとかも考えなくていい。せっかく自由になれたのに僕自身が心を自由にしてあげなかったんだな。

ただただ僕がバカだったんだな


「君は僕のものだよ」
なんか色々考えてたらいつの間にか螺燈と一緒に風呂に入ってた。また螺燈が何か言ってる。
「...そっか」

この不安を取り除きたい

「...なぁ螺燈」
「なに?なんでも言って」
胸が圧迫されてるみたいで苦しい。でも言わないと...
「僕の名前を、呼んでくれないか...?」
「うん、いいよ...」
螺燈は微笑みながら僕に優しく囁いた。
「『ユウ』、僕の大切な人...」
は...はは、あはは...
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!僕は『凜々也』だぁぁぁー!!!」
涙を流し絶叫する僕を螺燈が困ったように心配そうに見ている。
「どうしたの?凜々也...」
「頼む...キミの手で僕を殺してくれ...キミに認識されないならいっそのこと殺してくれ...!」
僕は螺燈の肩を掴んで泣いて懇願した。螺燈は悲しそうな顔をしているように見える。なんでキミがそんな顔をするんだよ...!
「......そんなこと出来ないよ...」
「なら二度と間違えるな!誓え!!」
すると螺燈は僕の手を取って手の甲に口付けをした。
「この命に変えて二度と間違えないことを誓うよ」
なんかもう疲れたな...
「...約束だぞ」
ああ、このまま消えてなくなってしまえたらこれ以上の幸せはないんじゃないだろうか。せめて消える前にあの時買えなかったままにしていたゲームをプレイしてから...いや、独りでやっても仕方ないか。
「...お湯、温くなってきたからそろそろ上がるぞ」
「うん、入ろうか、温まろうね」
「...上がるぞ」
「うん、上がろうね」
螺燈は微笑んでいる。ただ、ずっと微笑んでいた。
僕は自分が求めていた『愛』を考えてみる。人の心には敏感なのに自分の心には鈍感なんだよな。



寝巻きに着替えて二人でベッドの上で寛ぐ。すると螺燈が後ろから僕を抱き締めて耳元で囁いてきた。
「凜々也、死ぬまで、いや死んでも一緒だよ...」

ああ... そっか。

これは『狂依存』だ

七病目  オワリ



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