僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――承【1】―――――

5話「君は、知らない。」㉔

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「……ん…。」



 目を開けると、




 「…あ、起きた?」



 良太の顔が、ぼんやりと見えた。




後ろ頭や、背中に当たる感触から、

ベッドで寝ていることに気付いて。

俺は、
ゆっくり上体を起こした。




「よく眠れた?」

ベッドの傍に立つ良太が、
顔を覗き込んでくる。

その良太の後ろに、
閉められたカーテンレールが
目に入った。


「…ああ。」

ぼんやり答えつつ、

最近ずっとあった、
重たい感じが、
少し、スッキリしたように感じた。


「…今、何時?」

「昼休み入ったばっかだよ。」

「…1時間くらい寝てたのか…。」


ふと、顔を下に向けると、

シャツの第二ボタンが
閉まっているのが見えて。

そこで、
ソファーで体温を測ってからの
記憶がないことに気付いた。

「…俺、
 自分でベッド来たんだっけ…?」

訊くと、

良太は少し、苦笑いした。

「あっくん、
 ソファーで寝ちゃったから、
 俺が運んだ。」

「…えっ。
 ……あ、ご……悪い。」

「大丈夫だよ。」

良太は、優しく微笑んで。


しゃがんで、

目線の高さを、合わせてきて。



「…昨日の夕方、
 あっくんママに会ってさ。」


小さな声で、話し始めた。




「え…
 そうなのか…?」

「うん。
 ちょっと土手走った後…
 …6時半くらいかな。
 仕事帰りのあっくんママに、
 1階のエレベーターホールで。」

「…そうなのか…。」

「うん…
 それで…
 ちょっと、あっくんの話して…。

 …最近あっくん、
 バイトいっぱい入れてて、
 疲れてるって。
 すごい、心配してたよ。」


 良太は、
 優しい声を、紡いで。






  キュ…と、





   俺の

   右手を、


   握ってきた。















  そして、


  もう片方の手も、
  重ねられて、



  両手で、

  包み込まれて。





 「…あっくんがさ。」


 良太は、


 真っすぐ、

 自分を、見てきて。






 「…あっくんが
   元気じゃないの、

   俺、

   …嫌だからさ。」



 目を細めて、

 優しく、笑った。






 それに、

 すごく、


 自分の中が、






 …熱く、なってきて。









 「…だから、
   無理しないでね。」




 ジッと合わせてくる、
 その、茶色い瞳に、


 上手く、

 言葉が、
 出てこなく、なって。




口を閉じたまま、



 小さく、

 頷いた。


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