僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――承【1】―――――

5話「君は、知らない。」㉕

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 その日の夜。



「…ただいま。」


「おかえり。」

バイトから帰ってくると、
母さんが
ダイニングから、顔を向けてきた。

「…疲れてない?
 大丈夫?」

「…大丈夫。
 今日はちょっと…寝たし…。」

答えながら、ダイニングへ入っていき。


「…母さん。」

母さんの顔を、見て。


「……次からは…
 …シフト、

 ……無理じゃない程度に…
 入れるから…。」


「…心配かけて……ごめん。」


そっと、声に出すと、


母さんは、表情を緩めて。



「やっぱり碧は、
 …良太くんの言うことが、
 1番きくね。」


穏やかに笑って、言った。


「……
 なんでもかんでも…
 良太に話すなよ…。」

そんな母さんに、つぶやく。


「ふふ…ごめんごめん。

 …でも、
 碧と良太くんって、いいよね。」


母さんは、穏やかな声で、



「…気の許せる




  …“友達”って、感じで。」




そう、

言葉を、落とし。





俺、は、


母さんから、



目を
そらして。








「…そうだな」




口から、


文字を、こぼした。


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