十字架の女学生

奥住卯月

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十字架の女学生

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 午後8時。帰宅ラッシュは少し落ち着いてきたものの、まだまだ混雑している急行電車に、俺は揺られていた。

「久しぶりの家だな…」

 この1ヶ月間、クライアントから無茶な条件で投げつけられた業務を、会社の近所のサウナ屋で仮眠をとるだけで、必死に取り組んできた。そして、納期直前になって先方の重大なミスに気づき、この4日間は会社に泊まり込み、不眠不休で業務を仕上げたのだ。無事先ほど納品し、帰宅の途に就いたのである。

 無精髭を生やし、しわしわになったワイシャツを着た俺は、吊革を握りながら、少し眠りかかっていた。

 と、そのとき、電車が駅を通過し、車両が激しく左右に揺れた。

「うっ!く!」

 俺は、斜め前に立っていた若い女性がよろめいた弾みで、思いっきり足を踏まれてしまった。

「あ!ごめんなさい!」

 その女性は顔を赤くして謝った。

 か、かわいい。

 彼女は、恐らく女子大生だろうか?セミロングの栗毛に少し大きな丸縁メガネ、色白で、決して目立つタイプではない、いや、地味なタイプだが、細いながらも肉付きが悪いわけではなく、独特の色気を持った女の子だった。

「いえいえ、大丈夫ですよ!」

 なぜか俺まで顔を赤らめて、そう答えた。

 そう言えば、さっきからほのかにいい香りがしてたなぁ…

 それは彼女の香水の匂いだった。少し暑い車内で汗ばんでいる彼女の体臭とも混ざりあって、その香りは実に欲情的だった。

 うっ!

 俺の股間が、ムクムクと勃起を始めた。と、同時に、俺は彼女の裸体を想像し始めた。

 彼女に触れたい…触れたい…触れたい……

 極度の疲労と眠気のせいで、思わず理性が霧散しそうになったが、俺は必死で踏みとどまった。

 いかん!いかん!

 しかし、また俺を睡魔が襲ってくる。それとともに、俺の頭の中は彼女の裸体でどんどん占められていく…



「きゃっ!」

 小さな叫び声と共に、俺の手首がグイと握られた。

 そう、俺は強烈な睡魔と、それによって消え去った理性によって、やってしまったのだ、痴漢を。

 先ほどの若い女性が、俺の手首を握りながら、大人しく可愛らしい顔からは想像できない鋭い眼光で、俺を睨み付けているのだ。俺は彼女の手を振り払おうと抵抗を試みたが、ダメだった。細い身体からは想像できないような強い力で俺の手首に握ってるのだ。

 周囲の乗客は、誰一人として俺の痴漢行為に気づいていない様子だったが、そういう問題ではなさそうだ。

 終わった…

 電車はほどなく停車駅に滑り込んだ。

 俺は彼女に手を引かれるまま、力なくホームに降り立った。

「大人しく私についてきてくださいね」

 小さな声だが、彼女ははっきりと言った。

 俺はコクリと頷くと、彼女に導かれるまま、改札をくぐった。

 きっと俺はこのまま交番に連れていかれるに違いない

 俺はそう思った。人生が詰むというのには色々なパターンがあると思うが、痴漢というのは、かなり恥ずかしい部類の詰み方だと思う。しかも、必死で取り組んだ業務が終わって、過労で理性が吹き飛んでおよんだ行為、今までの努力は何だったんだろう?と、自分でも思ってしまう。いや、それどころではない。今まで生きてきた26年間の努力を、全て棒に振ってしまうのだ…



 彼女に連れられて駅前通りを歩いていく。交番がどんどん近づいてくる。

 ああ、俺はここで警察に突き出されるのか…

 当然だが、足どりはどんどん重くなり、気持ちはどんどん暗くなっていく…

 が、しかし、彼女は交番を通過して、どんどん歩いていく。

「あ?」

 俺は呆気にとられたが、ここは彼女の後ろをついて、歩いていくしかない。

 しばらく歩くと、彼女は暗がりの路地に入って立ち止まった。そして、俺のほうに振り向いて言った。

「ここであなたに目隠しをします。ですが、このまま私についてきてください」

 そう言うと、彼女はカバンの中から、やや大きい黒いハンカチを取り出した。

 俺は訳が分からなかったが、彼女の言う通りにするしかない。

 俺はハンカチで目隠しをされると、彼女に手を引かれて、さらに歩いていった。

 気持ち悪さに、俺は心臓がバクバクいい始めた。

 ひょっとして、俺は彼女の彼氏にボゴられるのか?

 俺はますます気持ちが暗くなった。警察に突き出されるのももちろんイヤだが、輩からリンチを受けるのは、もっと酷い目に遭うかもしれない…

 と、彼女は歩を止めると、ガチャガチャとどこかの鍵を開け始めた。そして、ギーッと扉が開くと、

「入りなさい」

と、彼女に冷たく言い放たれた。

 そうか、ここで俺はリンチを受けるのか…

 俺はそう思いながら、2歩3歩と歩きだした。

 扉が閉まったその時、何かのスイッチがパチッ!と音を立てると、

「!!!!!」



※※※※※



 あれからどれくらい時間が経っただろうか?無くなっていた意識が、少しずつ明瞭になってきた。

「うぐっ!」

 手足の自由が利かない。俺は、首を左右に振って、周りの様子を見渡した。

 ここはどこなのだろう?よく分からないが、彼女に連れてこられた、マンションかどこかの一室らしい。室内は薄暗く、インテリアは一応に黒で統一されており、真ん中にやけに不釣り合いなダブルベッドが鎮座していた。

 そして俺はというと、全裸で手足を十字架にくくられてるらしい。



 薄明かりの中から、黒いレースの下着を身につけた、色白の若い女性が現れた。先ほどの彼女だ。その妖艶な姿に、俺の肉棒は不覚にも勃起した。

「おやおや、こんな状況でも勃起するなんて、やはりお前はそういうヤツなんだね?」

そう言うと、ククッと笑った。

「それなら、存分に楽しませてもらうよ…」

と、彼女の手から、何か黒いものが飛んできた。

「うっ!」

 鞭だ。俺は鞭で打たれたのだ。

「おや?何でここはますます大きくなったの?」

 俺は右肩にみみず腫れを作りながら、肉棒はますます硬くなっていたのだ。

「私が見込んだ通りだよ」

 彼女はそう言うと、俺の左右の肩に立て続けに鞭を入れた。

「うぐっ!」

 痛さのあまり、俺の頭の中は痺れていた。が、しかし、俺の股間は別の意味で痺れ上がっていた。

「くーっ!楽しみだね!」

 大人しめで可愛らしい顔には似つかわしくない台詞が、彼女の口から次々と放たれる。

 ビシッ!バシッ!ビシッ!!

 俺は何発鞭で打たれただろうか?上半身は赤く腫れ上がり、痛いとも熱いともよく分からない感覚に覆われていた。一方で俺の肉棒も、別の意味で赤く腫れ上がっていた。

「いよいよだね…」

 彼女が壁に取り付けられたハンドルを回すと、俺をくくりつけた十字架が、ふわりと浮き上がった。よくは分からないが、十字架はクレーンか何かで動かせるようになっているのだろう。俺は十字架に磔になったまま、ベッドへと横たえられた。

 彼女はゆっくりとベッドの上にのると、俺の肉棒を掴み、一瞬上目遣いで俺を見ると、唇からツーッと亀頭に唾液を垂らし、口でじゅぽじゅぽと肉棒をしごき始めた。

 俺の頭の中は苦痛でいっぱいのはずなのだが、なぜか頭の芯だけは薄赤色の快感に痺れていた。

 部屋の中は、じゅぽじゅぽといやらしい音だけが響く。



 と、そのとき、彼女は急に口から俺の肉棒を放した。

 彼女は一瞬うつむき、それからいたずらな目付きで俺を睨むと、ゆっくりを俺の股間を跨ぎ、俺の肉棒を彼女の蜜壺へと、じゅぷじゅぷと沈めていった。

 と、彼女は強い膣圧で、俺の肉棒を締め付け始めた。

「お前、こういうの、好きかい?」

 そう言うと、彼女は一切腰を動かさず、ただ膣圧だけで、俺の肉棒を脈動させた。時に優しく、時に激しく…

「うっ、うっ、うっ…」

 俺は快感で、思わず声を漏らした。

 彼女の眼光が鋭くなったと思うと、彼女はこれでもかという膣圧で俺の肉棒を締め付けると同時に、俺に強い鞭が入った!

「うっ!くっ!」

 その刹那、俺はありったけのザーメンを彼女の中に放出し、肉棒はゆるゆると力を失っていった。

「チッ!」

 彼女は舌打ちをすると、蜜壺から俺の肉棒を抜いた。



 彼女の唾液と愛液で濡れた俺の肉棒は、まだ大きさはあるものの、完全に力は失っていた。

「お前の力はこんなものかい?」

 彼女はそう言うと、例の握力でカリ首を握り、舌先で尿道口をチロチロと舐め始めた。

 俺の肉棒は再び力をみなぎらせ、赤黒く立ち上がった。

 彼女は「ククッ」と笑うと、亀頭を舌で舐めながら、右手で俺の肉棒をしごき始めた。さっきまではヌトヌトに濡れていた俺の肉棒だが、彼女がしごくうちに乾き始め、そのうちヒリヒリと痛み始めた。

 そんな痛みを無視するように、彼女は俺の肉棒を激しくしごいた。

ふと、そのとき、俺は彼女のほうを見た。黒いレースのブラジャーから、ピンと立った、やや大きいピンク色をした彼女の乳首が透けて見えた。俺の肉棒は、不覚にもグッともう一つ大きくなった。彼女はその瞬間を逃さなかった。

 彼女は俺にひらりと跨がると、俺の肉棒を彼女の蜜壺に埋めた。俺は一瞬でなけなしのザーメンを放った。



「もしかして、これで終わりかい?」

 彼女は不敵な笑みを浮かべて、俺を見た。

 俺は背筋に寒いものが走った。上半身は、相変わらず赤く腫れ上がり、痛みと熱さで充満している。そして、今まで俺の意志とは無関係に動いていた肉棒も、精根尽き果て、ヒリヒリと痛みも走っていた。

 と、彼女は西洋風の銀のナイフを取り出した。そして、ナイフの腹で俺の頬をぴたぴたと叩いたのち、切っ先を俺の亀頭に突きつけた。

「うっ!」

 ナイフで軽く突かれた俺の肉棒は、俺の心の中の恐怖を無視して、再びムクムクと勃起し始めた。

「なかなかのモノだね?」

 彼女はナイフを亀頭に突きつけたまま、再び肉棒を右手でしごき始めた。

 俺の肉棒は、ささくれ立ちそうな感覚で、ヒリヒリと痛む。そして、時々ナイフの切っ先が亀頭に当たり、これもチクチク痛む。

 彼女が急に右手の動きを止めると、ナイフを強く亀頭に押し付けてきた。

「ううっ!」

 股間に激しい痛みが走るが、それを無視して、俺の肉棒はあらんばかりの大きさに膨れ上がった。

 その瞬間、彼女は肉棒を口でぬっぽりと咥えた。

「!!!!!」



※※※※※



「…う…うぅ…」

 薄れていた意識が、徐々に徐々に戻ってきた。ゆっくりと目を開けた。視界にかかっている霞が、少しずつ晴れてきた。薄暗いが、さっきまでいた部屋とは違うようだ。

「わぁっ!」

 小さな叫び声が聞こえたと思ったら、視界に大きな丸メガネをかけた、栗毛の若い女性の顔が、ピョコンと入ってきた。

「わ!わ!わ!わ!わ!!」

 俺はびっくりして、思わず手足をバタバタさせた。先ほどの彼女だ!

「あ~、ダメですよ、いきなりそんなに動いたら~」

 俺の焦りを全く関知していない、聞き慣れない男の声がした。俺はその声の主のほうを見た。

 そこには、白衣を着た、小柄な若い男が立っていた。医者?

「点滴してますからね~、暴れるとダメですよ~」

 若い男の声は、何だか呑気なものである。

「あなたはね?電車で倒れて、救急車でここに運ばれてきたんですよ。あなたと同じ電車に乗っていた彼女はたまたま医学生で、あなたを介抱して、この病院にも付き添ってくれたんですよ~」

「は、はぁ…」

 そう曖昧な返事をしながら、ベッドサイドにいる彼女のほうを見た。彼女は可愛らしい顔を少し赤くして、「うふふっ」と笑うと、俺に向かって話し始めた。

「そうですよ。電車で急に私に寄りかかるように倒れちゃうから、ビックリしましたよ」

 そう言うと、彼女はまた「うふふっ」と笑った。

 俺は少し恥ずかしくなった。電車の中で過労で倒れた俺を介抱してくれた女性に対して、いくら意識を失っていたとは言え、あんな破廉恥な夢を見ていたのか…

 一瞬、俺の股間が勃起しそうになり、俺は慌てて彼女から視線をはずした。

「あ~、点滴終わりましたね~。検査結果も特に異常なしで、若干栄養失調気味でしたが、問題ないです。ただの過労ですよ。家に帰って休まれますか?」

 若い医師は、相変わらず呑気に話す。

「今、何時ですか?」

「夜中の2時ですよ。帰れますか~?」

 やっぱりこの医者は他人事のようだ。

「とっくに終電終わったなぁ…。タクシーで帰るには、ちょっと痛い距離だし…。この辺りに、カプセルホテルとかありますか?」

 と、その時、

「ダメですよ!」

 彼女が叫んだ。

「ホテルで一人で泊まって、また何かあったらどうするんですか!」

「と言っても、家に帰っても一人なんだけど…」

「それじゃあ、うちに泊まっていったらどうですか?それだったら、万が一夜中に何かあっても私が対応できますし!」

 彼女が強く主張した。俺はうろたえた。

「いやいや!若い女性の家に、いきなり泊まるわけにはいきませんよ!あ!もちろん何もしませんよ?!でも、えーっと!あの!その!…」

 俺はあたふたして、顔を赤らめながら答えた。そして、意識を失っている間に見ていた夢を思い出して、再び股間が熱くなってきた。彼女は「うふふっ」と笑うと、

「はいはい、病人は人の言うことを聞くの!いいですか?」

 そう言うと、彼女は俺の鼻先に人差し指を突き出してきた。

「はぁ、それではお言葉に甘えて…」

「それじゃあ、点滴をはずしますね~。看護士に点滴をはずしてもらったら、会計を済ませてお帰りくださいね~。あ~、うちの病院、救急の方は身分証明ができたら支払い猶予もできますので、お支払いが難しそうだったら、受付で相談してくださいね~」

 やっぱりこの医者は、どこまでも呑気だ。



 会計を済ませると、俺は真夜中の街を、彼女と一緒に彼女の家へと歩いていった。しばらく歩いた後、薄暗い路地に入ると、俺たちはさらに歩いていった。

 と、彼女が少し古いが、なかなかおしゃれなマンションの前で止まった。そこでカバンからキーを取り出すと、それを鍵穴に差し込み、ガチャガチャとやった。どうやら鍵が開いたようだ。扉を開けると、

「散らかってますけど、どうぞ」

 彼女はそう言うと、俺を先に部屋に通した。

 ギーッと扉が閉まり、一瞬視界が真っ暗になった後、彼女がパチッと照明のスイッチを押した。

 薄暗い照明の中に浮かんだ彼女の部屋は、一応に黒のインテリアで統一されており、部屋の中央には、彼女には不釣り合いなダブルベッドと大きな十字架が不気味に鎮座していた。

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