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悪夢狼

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ミーアが目覚める前の話。

「使徒様とは存じ上げず、大変失礼致しました!」

 リシュフィーを含む6人の成人メンバーが土下座していた。この世界にも土下座なんてあったんだな。

 いや、怒ってないから顔をあげてほしい。

 本当に怒ってないから。のっぺりした顔は日本人の特徴だから。ハイエルフとデスパンサーも、威嚇はやめてあげて。

 彼らは森からほど近い街にある伯爵家に雇われた冒険者なのだそうだ。

 しかしまあ、よくここまで無事に来られたものだな。

「魔除けのアイテムがありましたので、途中までは何事もなかったのですが⋯⋯奥深くの魔物には効果が無かったようで、この有り様です」

 がっくり項垂れるリシュフィーたち。だけど俺の意識はすでに彼にはない。

 魔除けのアイテムだと? それがあれば、俺も簡単に街に行って食べ歩きしたり買い物したり出来るんじゃないか?

 そんな事を考えている様子が、リシュフィーには使徒である俺が彼らを憐れんでいるように見えたらしい。なんか、すまん。

 リシュフィーの街に現れたのは、悪夢狼ナイトメアウルフの群れ。

 昼間は田畑を荒らし、家畜を襲い、行商人や街から逃げようとする者を歯牙にかける。

 おかげで他の街や国に応援を頼むこともいまだに出来ていない。

 夜になるとその能力で街の住人に悪夢を見せ、精神を削る。

 心身共にボロボロになったところで群れの全てで襲撃し、街を根絶やしにする。

 それがナイトメアウルフ。

「かなり頭がいいみたいだな。厄介そうだ」

 それが俺の感想。

 しかしハイエルフたちは違ったようだ。

「ナイトメアウルフですか。5匹程度なら一斉に向かってこられても余裕ですね」

「その程度? わたしなら10頭はかたいわね」

「まわりの被害を気にしなくていいなら、20はいけるかと」

 彼女たちの声の感じから、舐めているわけではなく本当に自信があるということが伝わってきた。

 しかし、いちばんやる気を見せたのは彼だ。

「ふしゃー!!」

 死黒豹デスパンサー家族の父、ウィップ。

 俺の顔を見て、ぜひ殺らせてくれとせがんでくる。

 でもな、お前って豹だから猫の仲間だよな?

 相手は狼なんだぞ。危ないからやめて⋯⋯やめそうにないな。

 分かった。

「冒険者3名とアチュチュをリーダーにうちの森チームと畑チーム、メイドチームから数名、それとウィップとパイチェ。ミーアが目を覚さなくても朝になったら先行して街へ向かってくれ」

 フルスタ? お前はまだ駄目だ。小さいからな。
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