離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています

みなつき菫

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【R18】afterStory happy honeymoon〜

その後のふたり3 ④

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「そういえば芽依ちゃん、今日、泊まっていくんだよね?」
 

 今度は子供たちの輪からは、そんな可愛らしい会話が聞こえて来た。

 辺りにはぷかぷかと大きなシャボン玉が浮かんでいる。

 会長が、何やら背中に機械を背負っていて、それから発射されているようだ……。
 相変わらずすごい……。
 まだうまく話せないひまりちゃんも、目を輝かせ見つめていた。

 だが、大好きな斗真君にそう尋ねられた芽依は、しゅんと視線をさげて。


「お泊りしたかったけど、朝、パパがダメだって」


 唇を尖らせながら答えた。
 

「えーー……!」


 斗真君が即座に悲しそうな声を上げる。

 立ち上がると一目散に千秋さんに駆け寄って「なんで……?」、潤んだ子犬のような眼差しを向ける。

 うゔ……っ!
 
 なんでも言うことを聞いてしまいそうなくらい、可愛く切実な眼差しだ。

 千秋さんはその輝きから目を逸らすと、若干間をおいて答えた。

 
「………………芽依はまだ小さいので、場所が違ったり、私がいなかったりすると夜眠れませんので」
 

 今度は反対隣に駆け寄ってきた芽依が「お家じゃなくても、パパがいなくても、寝れるもん!」と主張しているが、そこには聞こえないふりをしている。

 私も、他の理由もあるような気がしないでもないが、口にはしなかった。



「そっか……、残念だな」


 だが、斗真君はとても聞き分けが良く大人だ。

 やきもち……いやいや、きちんと状況を説明した千秋さんの言葉を理解したらしく、頷いてくれる。

 さすが、完全無欠の永斗さんと、真面目な来美さんの息子さんである。
 

「――なら大人になってからならいい?」


 しばし考えたあとに、斗真君から突然の提案をされた。

 お、おとな……?
 
 私も千秋さんもキョトンとする。
 

「大人になって、芽依ちゃんをお嫁さんにもらったら、いっぱいお泊りしていいよね?」


 千秋さんの背後でピシャン! ゴロゴロ! と派手な雷雨の嵐が見えたような気がした。
 
 そして、頭からから、すう……と魂が抜けていくような幻想が見えると、会長と永斗社長が声を上げて笑いだした。

 
「ははは!」
「くくく……!」
 

 斗真君の無邪気な質問は攻撃力もダメージも抜群だ。
 千秋さんのHPは即座にゼロになった。
 


「ちょっと、待ってください……」
 

 千秋さんはそこでの返事を保留した後に、心臓を抑えながら、よろよろと私の隣にやってきた。
 

「……大丈夫ですか?」
「眩暈が少し……」
 

 眩暈なんて言いながら胸を押えている矛盾は、指摘しないでおく。

 隣で顔を真っ青にした来美さんが「すみません! すみません……」と頭を下げているが、斗真君は何ひとつ悪いことしていない。
 
 むしろ、私はそんなことが実現したら、うれしいと思うけれど。
 
 そんな思いで隣の千秋さんをチラリと見やると、
 なんだかんだ言いながらも子供たちを見守る目はとても優しい。
 
 来美さんが永斗社長の隣に立つのを眺めながら、千秋さんに囁いてみた。
 

「私は、子供たちがとっても仲良くて嬉しいですよ」


 眼鏡の奥の、切れ長の綺麗な目が私を捉えた。


「俺も嬉しくないわけじゃないですが……複雑なんですよ」


 視線を逸らした千秋さんはぽつりと呟く。

 珍しく、素直な気持ちを教えてくれた。

 いつもなら、分かりやすい嫉妬心を隠してしまうのに。



「まぁ、芽衣は未来へ羽ばたいていくにしても……桜さんだけは、ずっと俺の傍にいますよね……?」


 澄んだ優しい双眸が、私を映してどこか納得したようにそう続ける。
 
 見つめ合うだけで、何度だって私を恋に落としてしまう、愛情深く静かな優しい眼差し。


「――もちろん」
 

 頼まれなくたって、一生、いやその次の来世だって、千秋さんから離れるつもりはない。


「なら、俺が寂しいと感じたときは、この前みたく、ちゃんと慰めてくださいね」


 顔を寄せた千秋さんが耳元で低く囁く。

 ドキッと大きく弾む心臓。

 同時に思い出したのは、やはり斗真君に芽依を独占していた少し前の夜のこと。


『桜、慰めて……』


 ふたりになった寝室。
 そう言われて、なぜかパジャマをひん剥かれて、声が枯れるほど愛され抱きしめられた。

 甘い記憶に、ぶるりと全身が震える。
 
「そ、それは……」

 もしや……これは……
 
「……今夜が楽しみです」
 
 艶を滲ませた色っぽい眼差しが、私を誘惑するみたいにじっと見つめる。

 くにゃりと、その場で全身の力が抜けてしまいそうな破壊力。
 
 今夜、私は、どうなってしまうんだろうか……。
 


 ――結局のところ、何年たっても私たちは変わっていない。

 単純でどうしようもなく千秋さんに惚れている私がいて、そんな私を何枚も上手な彼が甘やかしながら翻弄して――これからも変わることはないだろう。
 

「パパ! ママ! お肉焼けたって~!」
 

 だけど、互いと同じくらい……ううん、それ以上に大切なモノは増えていく。
 駆け寄ってきた芽依を抱きしめながら、私たちは見つめ合って、微笑み合った。
 
 きっと、これからもっともっと、増えていく。
 
 じっとりした夏風の先に、そんな未来が待っているような気がした。




 END――
 
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