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四章 嫉妬で狂いそう
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――ぁ……
視線を上げると、そこには私の肩を抱いて静かに浩太を見据える彼の姿があった。
「そう、君……」
――なんで、ここに……
今日は帰宅すると言っていたけれど、凄まじいスケジュールに追われている彼は本省で仕事中のはずだ。なのに浩太を鋭く睨みつけていた。
浩太は一瞬、ひくりと顔を引き攣らせたが構わずに噛みつく。
「なに? あんたが楓の旦那? テクニックの不足って俺に言ってるの? バカだな~、あんたイケメンだしそれこそすぐにでも後悔――」
「自分こそがバカなことを言っているのに、まだ気づかないのか?」
「は?」
奏君は、吠え散らかす浩太を遮り、余裕の表情を崩さず続けた。
「あまりこんなところで言いたくないが……俺は毎晩彼女の可愛い声と顔を堪能してる。可哀そうな君は見たことが無いようだがな……」
浩太が小さく「え……」と呟く。
「気持ちのいいセックスが出来ないのは、誰のせいだ? よく恥ずかしげもなく喚けるよ」
奏君が不敵な笑みを浮かべそう告げると、周囲からクスクスを笑い声が沸き起こる。
「な……っ!」
ようやく自分のしていることが恥ずかしいと気づいた浩太は、顔を真っ赤にした。
「未練があるなら責任転嫁し責めるのではなく自身を改めろ。壊れた関係はそうでなきゃ戻ることはない――……もっとも、もう楓は誰にも渡さないがな――」
奏君は強い口調で言い切ると、私の肩を抱いて人が集まりかけたその場をあとにした 。
最後の最後に「楓……」と弱弱しく呼んだ浩太に、警備員が近づくのが見えた。
◇◇◇
エントランスには、すでに私が予約したタクシーが待っていた。奏君はそれに私を促すと、続いて自分も乗り込んでくる。
「奏君……お仕事は……」
彼が運転手に自宅の住所を告げると、タクシーはスムーズに動き出した。言いたいことも、聞きたいこともいっぱいあったが、言葉が渋滞した先にようやく出てきたのは、この一言だった。
「この前、楓が何か困っているようなのに隠したのが気になって、仕事を急いで片付け立ち寄ったんだ。同じ会社に元カレがいるのは聞いていたから想像はついていたがな……行っておいてよかった」
うう……っと、言葉に詰まる。彼はどこま察しがいいのだろう……結局、心配かけたのが申し訳なくて、小さな声で謝罪した。
「ごめん……私のことに、時間を割いてもらうのが申し訳なくて……」
多忙な奏君に個人的な事情……それも元カレのことで手を煩わせるのは、気が引けると考えてしまったことを正直に伝えた。
「申し訳ないなんて、そんなことを思う必要はないだろう。俺達は夫婦なんだから」
迷いなくそう返してくれた奏君を、目を張って見つめる。
「情報を共有して、解決に努める……それが物理的なものでも感情的なものでも、俺は楓の傍で一番の理解者であり夫になりたいと思ってる。……どんなにくだらないことでもいい。一緒に考えさせろ。俺は、はじめに言ったように、君より大切なものなんてないからな」
「そう、くん……」
包み込むような優しい言葉に触れ、お腹の底から熱く込み上げる感情が湧き上がってくる。
『――俺は、君以上に大切なものなんてない。離れていた間もずっと楓だけを思いながら過ごしてきたし、君を誰より幸せにすると誓える――』
確かに……彼は結婚話を持ち掛けてくれたとき、言ってくれていた。私はずっと、七年前に聞いた彼の本心ばかり気にしていて、今の奏君を見ているようでいて、ちゃんと見ようとしていなかったのかもしれない。滲みそうな涙をこらえながら、心から「ありがとう」と述べた。
「それにしても、あいつは何なんだ……」
奏君は我慢ならないと言ったふうに切り出す。
「あ、あいつ?」
きっと浩太のことだろうと思ったが、あえて名前を言うのは避けた。
「ああ。楓の会社に迷惑をかけないためにも、ホテルの警備員を呼んでもらうくらいで済ませてやったが……どうにも怒りが収まらない。楓には俺しかいない? あんな自分勝手で貶めているくせに、どうしたらあんな台詞が吐けると言うんだ。自分が一番知っているとでも言いたげな偉そうな口調も気に入らない……楓はもう俺の妻だと言うのに――」
こんなに怒っている奏君ははじめて見た……彼は一気に思ったことを口にすると、怒りを逃がすようにフー! と息を吐く。冷静に浩太を黙らせてくれた裏で、そんなことを考えていたとは……。独占欲を剥き出しにするような口ぶり驚きながらも、スッと心が晴れるような気持ちになった。
「奏君が言い返してくれて、私、すごくスッキリしたよ。人目のあるところであんなこと言われるとは思わなかったから――」
周囲に見られていると思ったら、怖くて頭が真っ白になって何も言い返せなかった。事態が拗れる前に助けてもらえて、本当に良かったと思う。
奏君は、何度も「ありがとう」と感謝を伝える私をじっと見つめ、やがて、そっと耳元に顔を寄せてきた。
「楓、今すぐ抱きたい……」
ふいに、密やかに耳に届く。
「え……?」
突然のことに、心臓の音が一気に加速した。
急にどうして? と尋ねようと思ったが、奏君の瞳にはすでに燃えるような情熱が秘められていて、私はなにも言えなくなってしまう。
「君が俺のものだって今すぐ実感したい。あの男じゃなくて、俺しかいないって――」
ふたりの眼差しが絡み合って、温度をあげる。
奏君のおかげで気持ちが晴れた一方で――私はもうこの熱い感情から逃れられないかもしれない。
――ぁ……
視線を上げると、そこには私の肩を抱いて静かに浩太を見据える彼の姿があった。
「そう、君……」
――なんで、ここに……
今日は帰宅すると言っていたけれど、凄まじいスケジュールに追われている彼は本省で仕事中のはずだ。なのに浩太を鋭く睨みつけていた。
浩太は一瞬、ひくりと顔を引き攣らせたが構わずに噛みつく。
「なに? あんたが楓の旦那? テクニックの不足って俺に言ってるの? バカだな~、あんたイケメンだしそれこそすぐにでも後悔――」
「自分こそがバカなことを言っているのに、まだ気づかないのか?」
「は?」
奏君は、吠え散らかす浩太を遮り、余裕の表情を崩さず続けた。
「あまりこんなところで言いたくないが……俺は毎晩彼女の可愛い声と顔を堪能してる。可哀そうな君は見たことが無いようだがな……」
浩太が小さく「え……」と呟く。
「気持ちのいいセックスが出来ないのは、誰のせいだ? よく恥ずかしげもなく喚けるよ」
奏君が不敵な笑みを浮かべそう告げると、周囲からクスクスを笑い声が沸き起こる。
「な……っ!」
ようやく自分のしていることが恥ずかしいと気づいた浩太は、顔を真っ赤にした。
「未練があるなら責任転嫁し責めるのではなく自身を改めろ。壊れた関係はそうでなきゃ戻ることはない――……もっとも、もう楓は誰にも渡さないがな――」
奏君は強い口調で言い切ると、私の肩を抱いて人が集まりかけたその場をあとにした 。
最後の最後に「楓……」と弱弱しく呼んだ浩太に、警備員が近づくのが見えた。
◇◇◇
エントランスには、すでに私が予約したタクシーが待っていた。奏君はそれに私を促すと、続いて自分も乗り込んでくる。
「奏君……お仕事は……」
彼が運転手に自宅の住所を告げると、タクシーはスムーズに動き出した。言いたいことも、聞きたいこともいっぱいあったが、言葉が渋滞した先にようやく出てきたのは、この一言だった。
「この前、楓が何か困っているようなのに隠したのが気になって、仕事を急いで片付け立ち寄ったんだ。同じ会社に元カレがいるのは聞いていたから想像はついていたがな……行っておいてよかった」
うう……っと、言葉に詰まる。彼はどこま察しがいいのだろう……結局、心配かけたのが申し訳なくて、小さな声で謝罪した。
「ごめん……私のことに、時間を割いてもらうのが申し訳なくて……」
多忙な奏君に個人的な事情……それも元カレのことで手を煩わせるのは、気が引けると考えてしまったことを正直に伝えた。
「申し訳ないなんて、そんなことを思う必要はないだろう。俺達は夫婦なんだから」
迷いなくそう返してくれた奏君を、目を張って見つめる。
「情報を共有して、解決に努める……それが物理的なものでも感情的なものでも、俺は楓の傍で一番の理解者であり夫になりたいと思ってる。……どんなにくだらないことでもいい。一緒に考えさせろ。俺は、はじめに言ったように、君より大切なものなんてないからな」
「そう、くん……」
包み込むような優しい言葉に触れ、お腹の底から熱く込み上げる感情が湧き上がってくる。
『――俺は、君以上に大切なものなんてない。離れていた間もずっと楓だけを思いながら過ごしてきたし、君を誰より幸せにすると誓える――』
確かに……彼は結婚話を持ち掛けてくれたとき、言ってくれていた。私はずっと、七年前に聞いた彼の本心ばかり気にしていて、今の奏君を見ているようでいて、ちゃんと見ようとしていなかったのかもしれない。滲みそうな涙をこらえながら、心から「ありがとう」と述べた。
「それにしても、あいつは何なんだ……」
奏君は我慢ならないと言ったふうに切り出す。
「あ、あいつ?」
きっと浩太のことだろうと思ったが、あえて名前を言うのは避けた。
「ああ。楓の会社に迷惑をかけないためにも、ホテルの警備員を呼んでもらうくらいで済ませてやったが……どうにも怒りが収まらない。楓には俺しかいない? あんな自分勝手で貶めているくせに、どうしたらあんな台詞が吐けると言うんだ。自分が一番知っているとでも言いたげな偉そうな口調も気に入らない……楓はもう俺の妻だと言うのに――」
こんなに怒っている奏君ははじめて見た……彼は一気に思ったことを口にすると、怒りを逃がすようにフー! と息を吐く。冷静に浩太を黙らせてくれた裏で、そんなことを考えていたとは……。独占欲を剥き出しにするような口ぶり驚きながらも、スッと心が晴れるような気持ちになった。
「奏君が言い返してくれて、私、すごくスッキリしたよ。人目のあるところであんなこと言われるとは思わなかったから――」
周囲に見られていると思ったら、怖くて頭が真っ白になって何も言い返せなかった。事態が拗れる前に助けてもらえて、本当に良かったと思う。
奏君は、何度も「ありがとう」と感謝を伝える私をじっと見つめ、やがて、そっと耳元に顔を寄せてきた。
「楓、今すぐ抱きたい……」
ふいに、密やかに耳に届く。
「え……?」
突然のことに、心臓の音が一気に加速した。
急にどうして? と尋ねようと思ったが、奏君の瞳にはすでに燃えるような情熱が秘められていて、私はなにも言えなくなってしまう。
「君が俺のものだって今すぐ実感したい。あの男じゃなくて、俺しかいないって――」
ふたりの眼差しが絡み合って、温度をあげる。
奏君のおかげで気持ちが晴れた一方で――私はもうこの熱い感情から逃れられないかもしれない。
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