〜幼馴染みの執着は甘く蕩ける〜私をフッた外交官が、結婚したら毎夜猛愛を貫いてきまして……?

みなつき菫

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九章 すべての答え

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◇◇◇

 
 タクシーに乗って数分。奏君は近くにあった格式の高いシティーホテルに私を連れてきた。


「わぁ……これって――」


 歓喜のため息を吐いて、部屋の真ん中にあるミニトルソーを見つめる。

 トルソーに飾られているのは、小花柄総レースのホルターネック型のエレガントなドレス。とても上品なのに可愛らしくもあって、私の好みの真ん中を打ち抜いデザインだった。


「五日後のチャリティー音楽祭で、これを着て同行して欲しい。楓のことを思って、仕立ててもらったんだ」


 てっきり前回、浩太と話したあと『嫉妬で狂いそう』と言って激しく求められたことから、今回もそんな流れになると思っていたら、そんなことは至らなかった。察しのいい奏君はニヤニヤしているが……見ないフリしておく。

 トルソーに近づいて、部屋の照明に反射する繊細なレースに触れる。
 
 日程が決まってすぐに、奏君はお世話になっているオーダーメードのブランドショップに依頼をしてくれていたようだ。どうしてサイズがわかったのかと聞きたい気持ちになったが、卒ない奏君なら、触れた感触や服のタグを見ただけでわかってしまいそうだ。

 今日立ち寄るはずの、同窓会の行われたホテルのスイートルームで披露するはずが、こんなじたいとなってしまいこちらに移すように手配してくれたらしい。

 色々と、手際が良すぎる……


「この前も用意してもらったのに……」


 大使公邸のパーティでも薄藤色の色留袖を贈ってもらったのに、またこんなに素敵な贈り物をいただいてしまうなんて……いくら夫婦とはいえ、少しだけ恐縮した。


「何を言っている。足りないくらいだ、楓の肌に触れるものは、俺がすべて選びたいくらいなのに」


 奏君は私の頭を撫でて、さも当然のように言い切る。


「当日はこれを着て、俺の隣に立ってくれ」


 受け取らなきゃ承知しないと言う熱い視線で見つめられ、思わず笑みがこぼれた。そこまで言われてしまったら、断れるわけがない。


「ふふっ……ありがとう、自慢の奥さんになれるよう頑張るね」
「楓は頑張らずとも最高に自慢の妻だけどな」


 それは甘やかし過ぎだと思うけれど……奏君がそう思ってくれるのは素直に嬉しくて、また声を上げて笑ってしまった。
 奏君はそんな私を見つめながらソファに深く腰掛けると、自分の隣をポンポンと叩いて私のことを呼んだ。


「――それと楓、音楽祭の前にひとつ話をしようか」


「話?」と首を傾げて誘われるがまま隣に座ろうとすると、着地する前に奏君の腕の中に掻っ攫われてしまった。奏君は自分の膝の間に私を座らせると、背中からぎゅうっと抱きしめる。


「なんの話……?」


 肩に奏君の頭がもたれかかって、柔らかな癖毛が頬に触れる。くすぐったい。


「俺は、言葉でしっかり伝え合うことの大切さを知った。もう間違いたくないから、これからはきちんと気持ちを楓と共有していきたいんだ」
「……今までも十分奏君は私の気持ち聞いてくれたよ?」


 何を言いたいのかは分からないけれど……奏君はいつも私の意見を聞いてから物事を勧めてくれる。これは昔からで、確信を持って言えることだ。気持ちを伝え合った今、確認することなどないような気がする。


「そう見えていたならいいが、実際はどうだろうな? 七年前の渡欧のとき、楓と離れたくないからといきなりプロポーズするような男だぞ?」


 からかうように耳元で囁かれ、息が止まった。


「え……?」


 ――ぷ、ぷろぽーず……?

 そこまで聞いて思い当たる言葉は、ひとつしかない。

『楓。俺と一緒に、フランスへ行こう。――……ずっと、俺の傍にいくれ』

 両親を亡くした私に、奏君がかけてくれた言葉。拒んでしまった瞬間を何度も思い返した、あの言葉だ。

 けれども、ちょ、ちょっと待って欲しい。
 脳内で何度も復唱したあと口にする。


「そ、それって、フランスに行こうって、私を誘ったことだよね……? あれが、プロポーズ……⁉ いや、嘘だよね? 肝心なこと言ってないよね?」


 〝大切〟とか〝ずっと〟とは言ってくれたが、〝結婚〟なんて一言も言っていない。


「……いくら可愛がっていても、海外に連れていってまで面倒なんて見ないだろう? 医者の兄がいるのに」


 そうかもしれないが……あの言い方では、両親が亡くなって心配な私を気遣う意味としか思えない。衝撃的は事実に信じられない気持ちになるが、奏君は至って真面目な顔だ。

 ――っていうと私は、奏君が勇気を出して伝えてくれたその台詞を……全力で拒んでしまったの……?

 そう気づくと、胸が掴まれたように苦しくなった。


「……まあ、伝わっていなかったことにはなんとなく気づいていた。楓も俺の知らない間に気持ちを伝えてくれていたようだから、お互い様だな」
「っ!」


 ハッとした。
 
 ――そうだ。さっき、夢中で話しているうちに、「告白しちゃった」なんてうっかり口走ってしまった気がする。

 じわりと頬が熱くなりそうになるが、今はそこではない。彼の言いたいことは、別にある。奏君の綺麗な瞳がそう言っている。

 私の告白も届いていないことは想定内だったけれど……私たちはふたりとも一番大切な気持ちをお互いに伝えきれていなかったんだ。
 確かに奏君の言うように、しっかり言葉で気持ちを確認し合うことが必要かもしれない。
 納得して視線をあげると、奏君は今は話の軌道を戻した。

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