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「とりあえず僕が夜新城に頼みたいのは基本的に家事だな。三食の飯に掃除、あと……ゴミ出し、それから……あ、悪いなんか雑用みたいだよな」
夜新城手作りのサンドイッチを食べながら、僕は夜新城に言う。食材は全て僕の家のものだからずいぶんとチンケなはずなのだが、夜新城が作ったこのサンドイッチは正直滅茶苦茶美味しい。こんなに家事出来るんだなぁ、しみじみ。なんというか、いつも『限界ぼっち』とか揶揄されてるのを知ってる身からすると、娘の成長を直に感じているようだ。これってもはやパパ活なのでは。
「あっ、い、いえいえ全然そんなこと……というか私にはそういう雑用とか、少女Bとかが似合っているので……」
何があった夜新城。完全に脇役のそれっぽいな少女B。まぁでも、本当外れ枠だよなあれ。主演たちが活躍してる中、裏方で小道具つくらされたり……。僕も少年Dだったから気持ちは分かるぞ夜新城。
「あ、そうか……まあ平たく言えば僕の生活のサポートをしてほしいってことだ。それから夜新城の部屋は二階の一番奥の部屋を使ってくれ。あそこは割と綺麗だし、自由にしてくれて構わない。布団も姉貴のがある」
「え、いやそんな……お姉さんに怒られます」
「いや、あいつはむしろ喜ぶんじゃないかな……『若い子のエキスだぁ……』とか言いかねんし」
「そ、そうなんですか……」
若干引き気味の夜新城は顔を引きつらせて笑っている。苦笑とはまさにこのことだろう。
「よし、んじゃとりあえず夜新城の生活道具買いに行くか」
僕はイスから立ち上がってバッグと財布を用意する。
「えっ? あ、え」
「お前、ここに来るときあまりにも軽装だったから。必要なもんとかあるだろ」
「いや、まあそれはそうですけど……わ、私がやりますよ……そんな申し訳ない」
「……夜新城」
「え、あ、はい」
これはあくまで僕の予想だが、学校での彼女を見る限りおおよそ外れない気がする。
「……お前、一人で買い物したことあるのか」
「うっ……!」
やっぱりか。
「……あ、ああ、ありますよ。そ、そのくらい……もう高校生ですし」
「あ、そうだったのか。悪い」
「い、いえ……と言ってもおままごとの中ですけどね、えへへへ……」
「……ああ、そう」
夜新城、僕は今笑ってるお前が怖いぞ。
「まあ僕も欲しいものあるし、駅近のショッピングモール行くか」
「あ、そういうことなら……分かりました」
そういうわけで、僕は何気に現実の女の子と初デートをかますことになった。二次元ではなんどもシミュレーションしたが、それを三次元に応用させるのは二流のやり方だ。歩幅を合わせたり、歩道で車両側に立つなんて僕がリアルで女の子にやっているのを想像してみてほしい。まず吐くことだろう。一流の僕はそもそも一緒に並んで歩いたりしない。……ん? それってデートって言うのか? 女の子の少し後ろを歩いて、女の子に気づかれないように適度な距離を開けてついて行く……。うん、これはまごうことなきストーカーだな。日頃から風評被害の多い僕だが、さすがに性犯罪者のレッテルは貼られたくない。
★
と、言うわけで。
「――夜新城、変なこと聞くけど大丈夫なのか。その、吐き気とか」
ショッピングモールに向かうべく、割と空いた電車の中で僕は夜新城の隣に座っているわけだが、決してこれはデートではない。さっきはちょっと自惚れていたが、これは……そう、引率だ。夜新城恋歌という問題児を僕がしっかりと面倒を見なけりゃならん。となればつまり、隣にちょこんと座っている彼女が、僕のせいで吐き気などを催していないかチェックするのも僕の仕事だ。なんだその悲しすぎる仕事。色んな意味でブラックだよ。
「あ……私乗り物酔いはしないんです。お気遣いありがとうございます」
「あー、そうじゃなくて、僕の隣にいて吐き気とか催さないのか? 大丈夫か本当に」
「え? あ、はい大丈夫ですけど……」
オマエ、ナニイッテンダ? と言わんばかりのビミョーな顔。多分変な奴だって思われてることだろう。
「あ、あの……ひ、柊くんのお姉さんは家に帰ってこないんですか」
「え?」
「あ、その……すみません家族の問題に私なんかが……」
「あー、いや別にいいけど」
それってつまり、「お前と二人? マジ無理なんだけど。姉貴連れて来いよ」ってことですよね。うわー分かってたけどめっちゃショック。やっぱ嫌われてんのね。
「姉貴は今、空手の日本代表合宿に遠征しにいってるな。唯夏三厘って知らないか?」
「あ、分かります……お姉さんだったんですね。すみませんちょっと気になったので」
「あー……ま、まあそりゃ男と二人暮らしは気にするだろうけど。僕は二次元オタクだから手は絶対に出さないぞ。安心してくれ」
なんとなくそういうことじゃない気がするのだが、一応無害だということを証明しておく。
「あっ……い、いえいえそういうことではなく!! 本当に単純に気になっただけです……すみません勘違いさせちゃって」
「あーそういうこと。危ねえてっきり自殺しちゃうところだった」
「ええっ!? な、なななんでですかっ!?」
『間もなく――』
車掌さんのアナウンスがよく耳に入ってくる。久々に休日に出かけたけど、電車こんなに空いてるんだな……。まあもっと驚きなのは、そんな休日に一緒に出掛ける女子が三次元に存在していたことだな。
「んじゃ降りるぞー」
「あ、はい」
最寄駅から二駅なので、ぶらり電車旅はここで終わりとなった。
ドアが開いて、ホームに降り立つ。僕が伸びをしている間に夜新城は改札に切符を通す。やけに急ぐんだな……もしかして、ちょっと楽しみだったのか? いや、けど夜新城って基本いつも早足だし、やっぱ気のせいか。
見失わないように、僕は少し急ぎ足で改札を出た。
「あ、夜新城。そこ段差気を付け――」
夜新城の足元にはいかにも罠って感じのでっぱりが。
お、今のセリフなんとなくエスコートっぽい、と僕がちょっと嬉しくなっていたのも虚しく。
「うぎっ……!!」
夜新城は見事なフラグ回収をかました。
「おい大丈夫か……あ」
パンツも水色なのか……。
さて、ここで『女子高生×転倒=パンチラ』という全男児大絶賛の腐りきった方程式が完成した。
この方程式『パンチラ方程式』と名付けよう。これをいったい誰が覆すことが出来ようか、いいやこれはきっとアインシュタインにだって出来っこない。
「――ッ!!」
僕の視線の先に気づいたのか、夜新城はスカートを押さえる。
「あ、悪い見えた。ていうか見てた」
正直な男はモテるというらしいし、ここは一つ、男らしさってものをみせておいてやろう。これもきっとエスコートの一種だ。なにか間違ってる気がするがそれは気がするだけだ。
「……す、すみません、お見苦しいものを。記憶から消しておいてください……」
そう言って立ち上がった夜新城は、猫背のまましゅたたたっと駅を出ていった。
「……あれ、なんか思ってた反応と違う」
なんつーか、もうちょっと可愛らしい反応を期待してたな、僕。
普段三次元に期待したりしないのだが、珍しく理想を望んでいた自分に驚きつつ、僕は彼女を追いかけるべく歩みを進めた。
「そういえば、何気に初体験じゃないか?」
先の夜新城のパンツが、何気に三次元で初めて見た親族以外のパンツだったことに気が付いた。
初めての相手は夜新城か。
夜新城手作りのサンドイッチを食べながら、僕は夜新城に言う。食材は全て僕の家のものだからずいぶんとチンケなはずなのだが、夜新城が作ったこのサンドイッチは正直滅茶苦茶美味しい。こんなに家事出来るんだなぁ、しみじみ。なんというか、いつも『限界ぼっち』とか揶揄されてるのを知ってる身からすると、娘の成長を直に感じているようだ。これってもはやパパ活なのでは。
「あっ、い、いえいえ全然そんなこと……というか私にはそういう雑用とか、少女Bとかが似合っているので……」
何があった夜新城。完全に脇役のそれっぽいな少女B。まぁでも、本当外れ枠だよなあれ。主演たちが活躍してる中、裏方で小道具つくらされたり……。僕も少年Dだったから気持ちは分かるぞ夜新城。
「あ、そうか……まあ平たく言えば僕の生活のサポートをしてほしいってことだ。それから夜新城の部屋は二階の一番奥の部屋を使ってくれ。あそこは割と綺麗だし、自由にしてくれて構わない。布団も姉貴のがある」
「え、いやそんな……お姉さんに怒られます」
「いや、あいつはむしろ喜ぶんじゃないかな……『若い子のエキスだぁ……』とか言いかねんし」
「そ、そうなんですか……」
若干引き気味の夜新城は顔を引きつらせて笑っている。苦笑とはまさにこのことだろう。
「よし、んじゃとりあえず夜新城の生活道具買いに行くか」
僕はイスから立ち上がってバッグと財布を用意する。
「えっ? あ、え」
「お前、ここに来るときあまりにも軽装だったから。必要なもんとかあるだろ」
「いや、まあそれはそうですけど……わ、私がやりますよ……そんな申し訳ない」
「……夜新城」
「え、あ、はい」
これはあくまで僕の予想だが、学校での彼女を見る限りおおよそ外れない気がする。
「……お前、一人で買い物したことあるのか」
「うっ……!」
やっぱりか。
「……あ、ああ、ありますよ。そ、そのくらい……もう高校生ですし」
「あ、そうだったのか。悪い」
「い、いえ……と言ってもおままごとの中ですけどね、えへへへ……」
「……ああ、そう」
夜新城、僕は今笑ってるお前が怖いぞ。
「まあ僕も欲しいものあるし、駅近のショッピングモール行くか」
「あ、そういうことなら……分かりました」
そういうわけで、僕は何気に現実の女の子と初デートをかますことになった。二次元ではなんどもシミュレーションしたが、それを三次元に応用させるのは二流のやり方だ。歩幅を合わせたり、歩道で車両側に立つなんて僕がリアルで女の子にやっているのを想像してみてほしい。まず吐くことだろう。一流の僕はそもそも一緒に並んで歩いたりしない。……ん? それってデートって言うのか? 女の子の少し後ろを歩いて、女の子に気づかれないように適度な距離を開けてついて行く……。うん、これはまごうことなきストーカーだな。日頃から風評被害の多い僕だが、さすがに性犯罪者のレッテルは貼られたくない。
★
と、言うわけで。
「――夜新城、変なこと聞くけど大丈夫なのか。その、吐き気とか」
ショッピングモールに向かうべく、割と空いた電車の中で僕は夜新城の隣に座っているわけだが、決してこれはデートではない。さっきはちょっと自惚れていたが、これは……そう、引率だ。夜新城恋歌という問題児を僕がしっかりと面倒を見なけりゃならん。となればつまり、隣にちょこんと座っている彼女が、僕のせいで吐き気などを催していないかチェックするのも僕の仕事だ。なんだその悲しすぎる仕事。色んな意味でブラックだよ。
「あ……私乗り物酔いはしないんです。お気遣いありがとうございます」
「あー、そうじゃなくて、僕の隣にいて吐き気とか催さないのか? 大丈夫か本当に」
「え? あ、はい大丈夫ですけど……」
オマエ、ナニイッテンダ? と言わんばかりのビミョーな顔。多分変な奴だって思われてることだろう。
「あ、あの……ひ、柊くんのお姉さんは家に帰ってこないんですか」
「え?」
「あ、その……すみません家族の問題に私なんかが……」
「あー、いや別にいいけど」
それってつまり、「お前と二人? マジ無理なんだけど。姉貴連れて来いよ」ってことですよね。うわー分かってたけどめっちゃショック。やっぱ嫌われてんのね。
「姉貴は今、空手の日本代表合宿に遠征しにいってるな。唯夏三厘って知らないか?」
「あ、分かります……お姉さんだったんですね。すみませんちょっと気になったので」
「あー……ま、まあそりゃ男と二人暮らしは気にするだろうけど。僕は二次元オタクだから手は絶対に出さないぞ。安心してくれ」
なんとなくそういうことじゃない気がするのだが、一応無害だということを証明しておく。
「あっ……い、いえいえそういうことではなく!! 本当に単純に気になっただけです……すみません勘違いさせちゃって」
「あーそういうこと。危ねえてっきり自殺しちゃうところだった」
「ええっ!? な、なななんでですかっ!?」
『間もなく――』
車掌さんのアナウンスがよく耳に入ってくる。久々に休日に出かけたけど、電車こんなに空いてるんだな……。まあもっと驚きなのは、そんな休日に一緒に出掛ける女子が三次元に存在していたことだな。
「んじゃ降りるぞー」
「あ、はい」
最寄駅から二駅なので、ぶらり電車旅はここで終わりとなった。
ドアが開いて、ホームに降り立つ。僕が伸びをしている間に夜新城は改札に切符を通す。やけに急ぐんだな……もしかして、ちょっと楽しみだったのか? いや、けど夜新城って基本いつも早足だし、やっぱ気のせいか。
見失わないように、僕は少し急ぎ足で改札を出た。
「あ、夜新城。そこ段差気を付け――」
夜新城の足元にはいかにも罠って感じのでっぱりが。
お、今のセリフなんとなくエスコートっぽい、と僕がちょっと嬉しくなっていたのも虚しく。
「うぎっ……!!」
夜新城は見事なフラグ回収をかました。
「おい大丈夫か……あ」
パンツも水色なのか……。
さて、ここで『女子高生×転倒=パンチラ』という全男児大絶賛の腐りきった方程式が完成した。
この方程式『パンチラ方程式』と名付けよう。これをいったい誰が覆すことが出来ようか、いいやこれはきっとアインシュタインにだって出来っこない。
「――ッ!!」
僕の視線の先に気づいたのか、夜新城はスカートを押さえる。
「あ、悪い見えた。ていうか見てた」
正直な男はモテるというらしいし、ここは一つ、男らしさってものをみせておいてやろう。これもきっとエスコートの一種だ。なにか間違ってる気がするがそれは気がするだけだ。
「……す、すみません、お見苦しいものを。記憶から消しておいてください……」
そう言って立ち上がった夜新城は、猫背のまましゅたたたっと駅を出ていった。
「……あれ、なんか思ってた反応と違う」
なんつーか、もうちょっと可愛らしい反応を期待してたな、僕。
普段三次元に期待したりしないのだが、珍しく理想を望んでいた自分に驚きつつ、僕は彼女を追いかけるべく歩みを進めた。
「そういえば、何気に初体験じゃないか?」
先の夜新城のパンツが、何気に三次元で初めて見た親族以外のパンツだったことに気が付いた。
初めての相手は夜新城か。
応援ありがとうございます!
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