宝石の花

沙珠 刹真

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間章

イルミネーション

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――花屋Morning Gloryにて


 ピンポーン。店舗二階の居住スペース側に来客が来た。
「誰だよ、こんな時間に」
 あのクソジジイでも帰ってきたか?
 いや、鍵持ってるはずだしチャイムなんて鳴らさないか。
 じゃあ普通のお客?
 いやでも九時回ってるしなあ……。
「はーい、どちら様でしょうか?」
 覗き穴から玄関の外の様子を見ようとしたが、青い瞳で阻まれた。
 この日本人離れした碧眼には覚えがある。
「やっほー、ホタルー」
「ルミィ、あんたさぁ、毎度こんな時間に迷惑なんだけど?」
 扉を開けて招かれざる客を部屋の中に入れる。
「何度も言ってるけど、店の入口からこんな時間に不審な影が出てきたら、絶対不審者と間違えられるからやめなさいって」
 ルミィはクラウスと同じく裏口の向こう側の人間だ。
 二階へは店の入口から出て、建屋横の外にある階段からしか来ることができない。
 つまり、ルミィは裏口から店内に入り、内側から入口の施錠を開けて戸を開き、外に出て階段を上がってきたということ。
「ごめんごめん、もっと早い時間に来る予定だったのに仕事終わらなくてさー」
「クラウスから聞いた予定はもっと遅めの日のはずだけど?」
 少し怒っている雰囲気を出してみる。
 どうせ注意しようと治す気がないのはわかっている。
「新しい宝石の花を見られるって思うとジッと待ってられなくてさー、明日やる予定だった仕事も終わらせてきちゃった。ということで一晩泊めて」
「どういうことであんたを泊めることになるんだか」
「私が頑張ったご褒美。いいじゃん女同士なんだからー」
 もうこうなったら聞く耳を持たなくなる。
 外に放り出しても店の中で寝るだろうし、しぶしぶ泊めることは認めよう。
 近所の住人に見られる方が面倒になる。
「アサガオだって?」
「そうだよ」
「お茶かなんか出してよー」
「自分でやれ」
 早速、ソファーに寝転がってくつろいでいる。
 ルミィが来たことで止めていた作業を再開する。
「ドライフラワー?」
「そうだよ」
「私もやるー」
 くつろいだまま動く気配すらないのによく言うわ。
「お茶はどうした」
「後でいい」
「さっさと飲んで寝ろ」
「シンラツー」
「よくその言葉を覚えたな」
「こっちの言語も知っておかないとねー、外で歩くとき不便だからさ」
「出歩くな」
「いいじゃん、観光客って思われる程度だよー」
 確かに金髪のクラウスと違って髪は黒で見た目はほとんど日本人と遜色ないけど、ルミィの目は青い。所謂、金髪碧眼とか言われるその碧眼。
 ルミィは黒髪碧眼だけどね。
 青い目なんて日本人にはいないでしょ、多分。
 まあ世間は広いし、もしかしたら居るのかもしれないけど。
「その手は何?」
「おこづかい」
 やっと自分で動く気になったかと、立ち上がればこれだ。
「上げない」
「なんで?」
「今度のやつ、おまけしてくれるなら諭吉を渡そう」
「おっけー」
「はい契約成立。ってことで今日はさっさと寝ろ、私ももう寝る」
「一緒に寝ようよ」
「押し入れから自分で布団出せ」
「いーやーだー」
「子供か」
「心はいつまでも子供だよん」
「私にそんな趣味はない」
「私もないよ?」
 なあー、この甘えん坊め。
 作業も終え、あとは寝るだけ。
「えー、もう寝るの? お酒は?」
「私は明日も仕事なんだよ」
「ろくに客なんて来ないのに?」
「お花のお世話も立派な仕事なの、接客だけじゃないの!」
 ほんとペース崩されるわ。
「あ、お酒あるじゃん」
 勝手に冷蔵庫漁ってるし、って自分でお茶注げって言ったの私だわ。
 プシュッ。カチャン。
「お茶はどうした、お茶は」
「ビアの方が魅力的」
「……はあ、一本だけね。私にも一本取って」
 仕方ないので付き合うことに。
 そう、仕方ないこと。
「お酒好きなのに土曜の夜だけにしか飲まないなんて、偉い偉い」
 もう頭を撫でられて嬉しい歳じゃない……はずなんだけどね。
「ほんとあんたには自分のペース崩されてかなわないわ」
「おお、もう酔っぱらってる」
 そう、私は下戸。
 と言っても、缶半分以上は飲める!
 調子よければ一缶もいける!
「顔真っ赤だよー、ホタルー」
「それより、今度のやつだけど、客は学校の先生だから」
「あー、アサガオ子ちゃん? それともアサガオ太くん? どっちでもいいやー」
「アサガオ子ちゃんだよ」
 あ、もう半分も飲んじゃった。今日は調子いいみたい。
「おー、じゃあ普段使いできるアクセサリーもありだね」
「あと一、二週間もすれば慌てて電話でもかけてくるんじゃないかな」
「お店の入口のアサガオも元気無くなってきてたもんね」
「もうそんな時期かって思うよ、毎年ね」
「そういえば今年は見られなかったな、元気なアサガオたち」
「そうだ、二人とも見に来なかった。このー、私が丹精込めて育てたアサガオを見に来ないとは、お小遣い没収だ」
 つい勢いよく、残った半分のその半分のビールを喉に流す。
「ぶー、けちー。仕方ないじゃーん。忙しかったのー」
「何してたのか、洗いざらい吐きやがれ、おら」
「ちょっとホタル、酔いすぎぃー、ビアこぼれちゃう」
「男でもできたんか? あ? 私の花よりも男か?」
「ちがうちがーう。ほんとに色々仕事が立て込んでたの。宝石の種だってミスターから届けられたでしょ?」
「ああ、あのジジイひょこっと現れてチューリップの球根だけ置いて、さっさと隠居に戻っていきやがった」
「種があったってことは花もあったってこと、しかもその案件、結構重めの依頼だったのー。二か月も掛かったんだよ? 中々デザインに納得してくれなくて、何回やり直したことか。しかもしかも、その間にも別の依頼も溜まって、もう倒れるかと思ったよー」
「そんなのよりも、私の可愛い花たちを見ろよー」
「おお、こんなに酔っぱらったホタル見るの久しぶりだー。もっと飲もー」
「うう、眠い」
「えー、じゃあ残り貰うよー」
「うい」
 眠い。寝る。


 かあー、やってしまったー。
「ほらルミィ、起きて、てか起きろ」
 くそー、酔っぱらって布団も出さずにそのまま寝ちゃったよ。
 おかげで妙に寝苦しいと思ったら、ルミィの顔が目の前に。
 何度も言うけど、私にそんな趣味はない。
 起きてる時は無邪気で、寝ている時は子供みたいな寝息立てて、それなのに仕事と向き合っている時は凛として、そのどの顔も本当に綺麗で美人。だから変な虫が寄ることも多いらしい。
 向こうではクラウスや同じ工房の人たちが面倒みられるけど、こっちにいる間は私が見るしかない。
 こっちの常識とかルールとか全く知らないから、教えないといけない。
 そりゃ独身だから、子育てなんてしたことないけど、ルミィの監視は子育てしてる気分だよ。
 いつだか、昼間店を空けていた時に勝手に外を出歩いていた。挙句、電車に無賃乗車で改札通れず旭川駅から電話がかかってきた時は肝が冷えに冷えた。
 その事件以降は、少ないけどある程度日本円を持たせている。
 てか、あれからさらに二本も飲んだのかよ……いやそれよりも片付けろよ。
「ぅー。まだ、寝る」
 ……久々の休みだろうし、寝かせてやるか。
「さて、水やりしなきゃ」
 ひどく酔っぱらっても記憶は残るもので、とりあえず最低限伝えておくことは伝えた気がするから、あとは放置しておけば勝手に帰って、勝手にデザイン考えておいてくれるはず。
 さあ仕事、仕事。
 あー、今日老人ホームまで花の配達あるんだった。
 昼からにしてもらおう。
 今日も今日とて、客は来なくても、何かと忙しいのが私なのです。
 そりゃ、ルミィやクラウスと比べたら優しい方だろうけど。
 偶にクラウスも合わせて飲みたいなー。
 次来た時に予定合わせるように言ってみるかなー。
 今度のアサガオ、大漁の予定だし。
 ふへへ。
 おっといけない、営業スマイル、営業スマイル。
 入口の掛け札を『CLOSE』から『OPEN』にひっくり返し、今日もひっそりと花屋Morning Gloryは開店する。


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