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三 雷鳴の猫
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意識を取り戻す。寒くもないのに、全身が吹雪の中にいるように震えている。
(――僕は、死んだのか)
理性が理解するより先に、体が理解していた。僕はさっき、確かに死んだ。黒い影のトカゲに殺された。ふと、辺りを見回す。
(ここは――梓が黒い影のトカゲを見てしまった喫茶店)
何故。
一体どうして。
向かい側の席に梓が座っている。
顔は青ざめ、僕よりもずっと激しく震えている。
「――あ」
梓、と声をかけようとして、
気づいた。
気づいてしまった。
交差点で、あの黒い影が、
――僕達に向かって大きく手を振っている――
「――――――――――――――――ッッッッッッッ!!」
僕は人生で初めて、声にならない声を上げた。
(ふざけるな――ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!)
あのトカゲは、僕達の心がいつ壊れるのかを確かめるつもりなのだ。
殺して、元に戻す。
何度殺しても、元に戻す。
それをひたすらに繰り返して、動かなくなったら、終わりだ。
お気に入りの玩具でいつまでも遊んで壊してしまう子供と同じだ。
僕と梓は、あいつにとってのお気に入りの玩具になってしまった。
僕は梓を連れて逃げようと手を伸ばし――その手は、見えない壁にぶつかったように止まった。
(――無駄だ)
何をしても、無駄。
あのトカゲは僕達にいつでも追いつける。
僕達にはあのトカゲをどうにかする手段はない。
助けを呼ぶことはできない。
僕達の他に動くものはない。
生きていても助からない。
死んでも助からない。
(それじゃあ――ここでじっとしているしかないじゃないか)
頭は冷静に、自分がどうしようもないということを理解する。けれど体はそうではない。
死の恐怖に怯え、震える。目から涙が伝って、服に染みを作る。黒い影が、死が迫ってくる。
――だが、僕達に迫る死の前に、
『いや~、思ったより面倒だったにゃ。おぉ、よかったよかった、二人とも生きてるにゃ』
ニャン太が、どこからともなく立ち塞がった。
(――僕は、死んだのか)
理性が理解するより先に、体が理解していた。僕はさっき、確かに死んだ。黒い影のトカゲに殺された。ふと、辺りを見回す。
(ここは――梓が黒い影のトカゲを見てしまった喫茶店)
何故。
一体どうして。
向かい側の席に梓が座っている。
顔は青ざめ、僕よりもずっと激しく震えている。
「――あ」
梓、と声をかけようとして、
気づいた。
気づいてしまった。
交差点で、あの黒い影が、
――僕達に向かって大きく手を振っている――
「――――――――――――――――ッッッッッッッ!!」
僕は人生で初めて、声にならない声を上げた。
(ふざけるな――ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!)
あのトカゲは、僕達の心がいつ壊れるのかを確かめるつもりなのだ。
殺して、元に戻す。
何度殺しても、元に戻す。
それをひたすらに繰り返して、動かなくなったら、終わりだ。
お気に入りの玩具でいつまでも遊んで壊してしまう子供と同じだ。
僕と梓は、あいつにとってのお気に入りの玩具になってしまった。
僕は梓を連れて逃げようと手を伸ばし――その手は、見えない壁にぶつかったように止まった。
(――無駄だ)
何をしても、無駄。
あのトカゲは僕達にいつでも追いつける。
僕達にはあのトカゲをどうにかする手段はない。
助けを呼ぶことはできない。
僕達の他に動くものはない。
生きていても助からない。
死んでも助からない。
(それじゃあ――ここでじっとしているしかないじゃないか)
頭は冷静に、自分がどうしようもないということを理解する。けれど体はそうではない。
死の恐怖に怯え、震える。目から涙が伝って、服に染みを作る。黒い影が、死が迫ってくる。
――だが、僕達に迫る死の前に、
『いや~、思ったより面倒だったにゃ。おぉ、よかったよかった、二人とも生きてるにゃ』
ニャン太が、どこからともなく立ち塞がった。
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