145 / 266
六 完全の家
23
しおりを挟む
そう言って楓は微笑む。
「そりゃあ傍から見てる人はさ、馬鹿にするのなんて簡単だけどさ。でも本人からしてみたらどうしようもなく大切なことだったりするわけじゃない。雪子ちゃんにとってはここに来ることがそれだったってだけでしょ?」
視線を上げる。楓の体勢が元に戻る。
「だったらさ。きっと雪子ちゃんはここに来るしかなかったんだよ。後はどうやって雪子ちゃんの一番大事なものを手に入れて、ここから出るかを考えるだけ! でしょ?」
楓は両手で僕の右手を握ってきた。右手に振動が伝わってくる。
「……楓?」
「ご、ごめんね。私、雪子ちゃんのこと守ってあげられるーとか偉そうなこと言ってさ。本当は怖くて、不安で、さっきまではなんとか我慢できてたんだけど、雪子ちゃんと話し始めたらなんか、一気に来ちゃって、だからお願い、ちょっとだけ手を握らせて? そうすれば、きっと大丈夫だから」
空いている左手で楓を抱き寄せる。
「え、ちょっ、雪子ちゃん!?」
「――僕は少なくとも楓よりはこういうことに慣れてる。だから、僕が楓を守るよ」
少しでも楓のことを安心させたいと思って口から出た言葉がそれだった。少しの間抱き締めていると、楓の体の震えが止まった。抱き締めるのをやめる。
「少しは落ち着いたかな」
「……ドキドキした」
「え」
「そりゃあ傍から見てる人はさ、馬鹿にするのなんて簡単だけどさ。でも本人からしてみたらどうしようもなく大切なことだったりするわけじゃない。雪子ちゃんにとってはここに来ることがそれだったってだけでしょ?」
視線を上げる。楓の体勢が元に戻る。
「だったらさ。きっと雪子ちゃんはここに来るしかなかったんだよ。後はどうやって雪子ちゃんの一番大事なものを手に入れて、ここから出るかを考えるだけ! でしょ?」
楓は両手で僕の右手を握ってきた。右手に振動が伝わってくる。
「……楓?」
「ご、ごめんね。私、雪子ちゃんのこと守ってあげられるーとか偉そうなこと言ってさ。本当は怖くて、不安で、さっきまではなんとか我慢できてたんだけど、雪子ちゃんと話し始めたらなんか、一気に来ちゃって、だからお願い、ちょっとだけ手を握らせて? そうすれば、きっと大丈夫だから」
空いている左手で楓を抱き寄せる。
「え、ちょっ、雪子ちゃん!?」
「――僕は少なくとも楓よりはこういうことに慣れてる。だから、僕が楓を守るよ」
少しでも楓のことを安心させたいと思って口から出た言葉がそれだった。少しの間抱き締めていると、楓の体の震えが止まった。抱き締めるのをやめる。
「少しは落ち着いたかな」
「……ドキドキした」
「え」
0
あなたにおすすめの小説
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、どうぞお好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる