文明トカゲ

ペン牛

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十 文明と影

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 僕の言葉で、真奈さんが失望したことがはっきりとわかった。自己嫌悪にはもう慣れたつもりだったのに、それでも胃を抉るような痛みが走る。
「待ってよ、楓。私のことを頼むって、真奈ちゃんに何を――真奈ちゃん!?」
 真奈さんは背後から梓に抱きつき、動きを封じようとしていた。とはいえ真奈さんは特に体格のよくない梓と比べても圧倒的に華奢だ。梓がその気になれば振り解くことも十分に可能だろう。
(あぁ、だから梓にはできない。力に恵まれていない自分よりも、更に恵まれていない真奈さんを無理矢理振り解くなんてことは)
 自分の意思で梓と真奈さんの優しさにつけ込み、利用している――その事実を直視すると吐き気が込み上げてきたが、それでも、
「楓、待って――真奈ちゃん、離して! 離してくれないと楓を止められない! わかるでしょ!?」
 思った通り、梓は真奈さんを力づくで引き剥がすようなことはしなかった。それらしい素振りは見せているが力は込められていない。そして、僕と梓では僕の方が力が強い。
 ――僕の左手から、梓の右手が外れる。
「待って! 楓行かないで! 何も話してくれなくてもいい! だから、ここにいてよ!  
 ねぇ!!」
 歯を噛み締める。アパートの扉を開けて外に出る。
「――せんせーって、本当に最低」
 涙の混じった声が、背後から追いかけてきた。
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