恋愛代行業者

ぼたもち。

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2度目のご依頼

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「あの…どうして今井様が昨夜のことを…?」

僕は不審げに顔を顰めながら尋ねた。

「葵の部屋に忘れ物を取りに行ったら上裸な上、ご機嫌だったから何があったのか問い詰めたら狸塚さんを無理やり襲ったって言うから居ても立っても居られなくて思わず来ちゃったわ。正直、別れた私には関係のないことだけれど、楽しそうな葵を久々に見たら気になって仕方がなかったの。」

なんだかよく分からないけれど、葵さんを問い質したみたい。
 正直まだ腰やお尻は痛いけれど、そこまで気にしてない。そんな風に思いながらチラリと葵さんを見ると、申し訳なさそうに眉を下げていた。

「昨日はごめん。」
「いえ、気にしてませんよ。」
「それはそれで複雑……」

葵さんがポツリと何か呟いた。

「何か言いました?」

コテンと首を傾げると、真剣な顔をして両手僕の手を葵さんの大きな手で包まれた。

「葵さん?」
「俺、瑠衣くんのこと本気だよ。」
「は、はいっ」

突然の告白にピシッと背筋が伸びて、声が裏返る。

「出会って一日も経ってないけど、こんなにも惹かれたのは初めてだよ。」
「はいっ」
「瑠衣くんは俺のこと本気じゃないみたいだし俺は本気になって貰えるように頑張る。」

チュッと可愛い音を立てて頬にキスをすると葵さんはニコリと爽やかに微笑んで、『さぁ席へ案内して?』と言った。

「え…な、何故ですか?」

返って頂きたいのですが…。葵さんがいるとなんだか変にドキドキして集中できない。

「ん?君への依頼だよ。」
「っあ、なるほどです!でしたらこちらへどうぞ。」

パーテーションで作られた簡易個室へ案内して、葵さんが座ったのを確認すると、僕も椅子「腰掛けた。

「それでは、本日はどのようご依頼ですか?」

僕はペン立てからボールペンを取り出して、白紙も用意した。

「デートの依頼」

やっぱり。葵さんは僕のことは遊びなんだ。分かっていたことだけれど、何故か針で刺されたように胸がチクリと痛んだ。

「か、かしこまりました。…差し支えなければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

ジッと葵さんを見詰めると、葵さんはニコニコと楽しそうにしながら言った。

「御子柴 葵」

みこしば…柴犬からか、柴がつくと可愛く見えるのは僕だけ?

「今年23歳。しがない社会人です。」

しがないってそんなことはないと思う。
こんな僕のことを好きだって言ってくれて、昨夜だって大切にしてくれた。

でも多分、人間達の言う、“せふれ” というものだと思う。だって葵さんはこれから誰かとデートする。その人がきっと本命なんだと思う。
 チクチクと胸の奥が痛むけれど、こんな素晴らしい人と一夜を共にできたんだ。それで満足しなきゃ。
 僕は気持ちを押し殺してニコリと微笑んだ。

「お相手のお名前や住所をお伺いしてもよろしいですか?」

声が震える。聞くのが怖い。聞きたくない。でもお仕事だからーー……

だんだんと目の前がぼやけ滲んで、鼻がぐじゃぐじゃいいだした。
僕は泣かない。泣くともっと迷惑かけちゃうから。
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