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第3章
深まる疑惑
しおりを挟む皇子の毒殺未遂事件の次の日からは、アウレシア達は四六時中皇子と一緒にいることになった。
事の顛末は知らされているだろうに、相も変わらずのほほんとした天然皇子は、渡り戦士の一行と行動をともにできることを却って喜んでいた。
生まれたときから命を狙われている所為か、動揺することもなく、この二週間の様子となんら変わりもない。
それどころか、馬で移動することに喜び、何を見ても嬉しそうにしている。
おしゃべりの相手は、もっぱらアルライカだったが、言葉少なげにソイエライアも相手をしている。男同士ということもあってか、イルグレンはあっという間に二人と打ち解け合ってしまった。
普段は他人と距離を置きたがるソイエライアがあのように皇子の相手をしている所を見ると、個人的に気に入ったのだろう。
同じ金の髪に、同じ護衛の服――身代わりとなるため、ソイエライアが同じものに着替えた――一見した所、歳の離れた兄弟のように見えなくもない。
もしも、毒が北の町で買った食料にあらかじめ入れられたものであるなら、当面は皇子の命は無事かもしれないが、護衛の中に刺客がいるのなら、事は厄介だ。
宰相のエギルディウスは、この人選には慎重に慎重を重ねたらしいが、人のよさげなあの護衛達の中に皇子の命を狙う者が紛れているのだとしたら――
もっとも、国が滅ぶ前に国元を出たのだから、この中に刺客がいるというのも妙な話だ。
皇子を狙っていたのは、皇后派の筈。
厄介払いできたのだから、命を狙う必要などないではないか。
しかも、内乱時、皇族は姻戚も含めてそろって処刑されたのだから、今更命を狙われるとはどういうことなのか。
しかも、銀に反応する毒を使うなど、見つけてくれと言わんばかりだ。
ずさんすぎる。
運よく死んでくれたらいいとばかりのこの無計画さは何を意味するのか。
「――」
いくら考えてもわからぬ謎に、アウレシアは苛々して大きく息をついた。
「レシア、どうしたのだ? ため息などついて」
能天気な声が前からかかる。
「なんでもないよ」
顔を上げたアウレシアに、さらに能天気な言葉がかかる。
「ライカから聞いたのだが、お前は酒も強いそうだな。今度私と勝負してくれ。どんなに強いのか見てみたい」
さらりと言われて、アウレシアがアルライカをきっと睨みつける。
「ライカ、何よけいなこと言ってんだよ!!」
「だってよう、グレンも酒はいける口だって聞いたから、レシアの酔った時のおもしろ話をだな」
にやにや笑うアルライカに舌打ちして、矛先をソイエライアに向ける。
「ソイエも、ライカが変な話する前に止めろよ! 何のための相棒だい?」
心外だと言うように、ソイエライアが眉根を寄せる。
「俺にふるのか。ライカの口を止められるなら、俺だって、苦労はしないさ。この口がなければ、そもそも借金など当の昔になくなっているからな。いっそ縫い付けて、喋れないようにしようか本気で考えてるところだ」
恐ろしいものを見るように、アルライカはソイエライアを見た。
「お前、さらりとひでえこと言うなよ。縫い付けるとか、どんな拷問だ」
「ひどい?」
ソイエライアが唇の端を上げて、冷笑した。
ぴき、という音がこめかみから聞こえてきそうな笑みだった。
「借金の額をこの場で言ってやってもいいんだぞ、ライカ。俺の言葉とどちらがひどいかレシアとグレンに聞いてみるか」
「うお、そ、それはご勘弁を」
ソイエライアの冷たい一瞥に慌ててアルライカが低姿勢になる。
「借金? なんだ、それは?」
興味津々のイルグレンを、さらに慌ててアルライカが誤魔化す。
「お、そうそう、グレン、今度レシアだけじゃなく、俺も剣の相手をしてやるよ。剣には相手の癖もあるからな。もちろんレシアの剣技は抜群だが、いろんな相手と稽古をするのもいいもんだぞ」
「本当か? ぜひ頼む!」
ころりと誤魔化され嬉々としているイルグレンに、アルライカは上手に話題を振ってその場を収めた。
ソイエライアとアウレシアは顔を見合わせたが、それ以上何も言わず、心の中だけで互いを慰め合った。
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