35 / 58
第5章
視線
しおりを挟む最後の準備も順調にいき、結局シバスを出発したのは四日目の朝だった。
ここからは様々な丘陵が続く。
しかも、広大な乾燥地帯に湿地帯と森林地帯が点在するため、さらに道がうねる。
出発した最初の日は、予定通りに午後には野営場所へと着いた。
リュケイネイアスが、用心のため、剣の稽古にはアウレシアだけでなくアルライカとソイエライアを交互につけるよう指示したので、今日はアルライカを含め、三人で野営場所から少し離れた丘陵の影へと行く。
以前の約束通りアルライカと稽古をつけられることをイルグレンは喜んだ。
その様子に、アルライカもつられて笑った。
「準備はいいのか?」
「ああ。頼む」
しかし。
ほんの数分でイルグレンの剣はいとも簡単に弾き飛ばされた。
「――」
「どうした?」
「――なんだ、その強さは!? 反則だろう!?」
真面目に、イルグレンは怒った。
「そんなこと言われてもなぁ」
「だから言ったろ? べらぼうに強いって」
アウレシアが笑って、イルグレンに剣を渡す。
それから、イルグレンに小さく耳打ちする。
「――」
イルグレンはそれを聞いて頷くと、
「もう一度だ」
剣を構えて、向き直る。
「え、お、おい!?」
イルグレンが仕掛けるのと同時に、アウレシアも剣を抜いてアルライカに向かう。
二人に一度に攻撃されて、アルライカが慌てる。
「ちょっと待て、卑怯だぞ」
「このくらい余裕であしらえるだろ?」
アウレシアがにやりと笑う。
「そうだ、一人で勝てないなら二人がかり――理に適っている」
イルグレンも同調する。
「レシア、グレンに変なこと教え込むなよ」
「何言ってんだい。グレンが言ったとおり、理に適ってるだろが。こんな化け物じみた強さに正攻法で勝てるわけないだろ。押して駄目なら、押しまくる。今日こそ勝つからね」
「押して駄目なら引けよ!! ていうか、お前ら二人だと強いぞ!?」
さすがのアルライカも二人がかりは少々てこずる。
一月以上の稽古の成果で、イルグレンの腕はもとより、アウレシアの剣技にもさらなる磨きがかかったようだ。
「――ええぃ、畜生め。本気出すぞ、こら!」
「望むところだ!!」
「ライカの本気、見せてもらうよ!」
しかし、やはりアルライカは強かった。
あわや勝てるか、と思うような場面もあるにはあったが、アルライカは後ろにも目があるように隙がなく、どうしても、打ち負かすだけの技量は、アウレシアとイルグレンの二人がかりでもなかった。
悔しそうに、アウレシアが終わりを告げた。
二人とも、とっくに息が上がっていた。
アルライカもさすがに二人を相手にしたので、軽く息が上がっていた。
逞しい上半身が、息をついて揺れている。
「――」
同じ男から見ても惚れ惚れする。
戦士として申し分ない体躯、筋力、剣技。
こうでありたい男の鑑のようなアルライカを見て、イルグレンは素直に羨ましいと思う。
「ライカは何だってそんなに強いのだ?」
「この身体でお前に負けたら、俺のほうがおかしいじゃねぇか」
呆れたようにアルライカは笑う。
「まあ、方法としては悪くねぇ。二人がかりはさすがにきつい。何だよ、グレン。最初なんかより、ずっと強くなったじゃねぇか」
「――だが、二人がかりでも勝てん。ソイエもこんなに強いのか?」
「俺とどっこいどっこいだな。俺らよりケイのほうが、それこそべらぼうに強い。今度相手してもらうといい」
「本当か!?」
「ホントさ。悔しいことに、俺とソイエだって、まだ一回も勝ったことないんだよな」
肩を竦めてアルライカが言う。
イルグレンは驚いた。
こんなにも強いアルライカよりもリュケイネイアスは強いというのだ。
「まあ、グレンとレシアは経験の差だな。場数踏めば、強くなる。そう焦んな」
「あたしらが場数踏んでも、ライカも同じように踏んでたんじゃ、いつまでたっても追いつかないじゃん」
「わからんぞー。俺らが弱くなるってこともある」
「嘘くさい。よわっちーライカなんざ想像でもできないよ」
笑い合う二人は、そうしていることがとても自然に見えた。
仲間らしい気軽さを、見ているととても羨ましく思う。
場数を踏む。
そうできたら、自分もいつかアルライカのように強くなれるのだろうか。
だが、自分には時間がない。
この旅が、終わるまでなのだ。
自分に許された時間は。
そして、不意に気づく。
西に着いたら、自分は――?
「――」
そんな物思いに囚われて、イルグレンは気づくのがほんの少し遅れた。
「グレン、俺の後ろ見るんじゃねぇぞ」
低く短く言い捨て、それから、
「――少し休もうぜ。疲れて眠くなってきた」
いつもの調子でアルライカは大きくのびをした。
「そうしようか」
「ああ――」
気安く言われた科白だ。
だが、目が笑ってはいない。
突然の違和感に、一瞬戸惑うが、その理由にようやく気づいた。
アルライカの大きな身体に遮られた向こう側。
誰かが、見ている――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる