竪琴の乙女

ライヒェル

文字の大きさ
5 / 78
二章

ラベロアの王宮

しおりを挟む
旅支度を終わらせて、ようやくベッドに入ったのは、真夜中を過ぎた頃だった。
早朝にアンリと二人で出発することになっている。ヘレンが牧場のご主人にお願いして、馬を二頭、貸してもらう手配をしてくれてたらしいのだが、馬なんて、生まれてこの方乗ったこともないので、不安で堪らなかった。
ロバだったらまだ乗れたかもしれないが、それでも、せいぜいテクテク歩きくらいだろう。大体手綱の扱い方も知らないのに、馬に乗って、野山を駆けるなんて、どう考えても出来るはずはない。
自信が全くないと二人に打ち明けたけれど、他に移動方法がないから、なんとかして慣れるしかないという結論に至る。
あれもこれも心配で不安しかない。
なかなか寝付けずに何度も寝返りを打ち、窓から差し込む月光が枕元のライアーを照らすのをぼうっと見ているうちに、ようやく眠気が訪れる。
ふうっと息を吐いて、眠りに落ちた。



どこか遠くで騒がしい足音が聞こえたような、それが、夢の中の音なのかわからないぼんやりした意識の中、「セイラ!」と私を呼ぶヘレンの叫び声が聞こえた。
ハッと目を開き、身を起こそうとして真っ先に視界に入ったのは、縛り上げられているアンリとヘレン。いくつものランプで昼間のように明るい部屋を埋め尽くす兵士達に度肝を抜かれ、驚いてベッドから飛び出した。
「な……」
驚愕のあまりに言葉を失う。
一体、何が起きたの?!
「傷をつけてはならんぞ!」
荒々しい足音と共に、居並ぶ兵士達の背後から、聞き覚えのある声と共に現れたのは、栗色の巻毛をなびかせた大柄な青年。
見上げるような長身に、がっしりした肩を覆う濃紺のマント。
これが、あの、暴君カスピアン王子だ!
直感で気がつく。
あの夜、湖畔で白馬に乗り、私達を追いかけてきたやつだ。
どうしてここがバレたのだろう!?
まさか、昼間のルシア王子から聞いたのだろうか?
縄できつく縛りあげられ苦しげなアンリとヘレンが兵士に囲まれている。私はカッとなり怒りに任せてカスピアン王子に食ってかかった。
「私達が何したというの!縄を解いて!」
二人に駆け寄り、縄を解こうと結び目に手をかけたけれど、きつく縛られていてとても指では解けそうにはない。
「解いて欲しければ、まず二人から離れろ」
威圧的な声に仕方なく、二人から離れ、数歩、後ずさりした。
「いいだろう」
カスピアン王子の一言で、兵士が小刀で縄を切り、ヘレンとアンリが解放された。
ホッとして二人に駆けよろうとした途端、片腕をがっしりと掴まれる。
「今回は逃さんぞ」
「わ、私をどうする気なの?!」
「王宮へ連れて行く」
「えっ、イヤ!行かない!」
「お前の意思など聞いてはおらん」
「離してっ!」
掴まれている腕を引っぱり振りほどこうとしたが、ただ痛いだけでその大きな手は巨大な手錠のように全く緩まない。
「……っ!」
頭に来て、空いている手でカスピアン王子の胸を押したり叩いてみたが、まるで巨大な彫像を相手にしているようにビクともしない。
視線を感じて周りを見ると、強面の兵士達があきれ顔で私の様子を眺めていた。
どうやら、抵抗してみたところで私なんかが太刀打ち出来る相手じゃないことは明らかだった。
しかも、これだけ兵士はいる。
無駄な抵抗をしても何の得にもならない。
それに、今はとにかく、ヘレンとアンリにまで危険が及ぶことだけは避けなくては。
背に腹はかえられない。
暴れるのを止め、せめてもの抵抗のつもりでカスピアン王子を見上げ、キッと睨んだ。
「諦めたか」
観念した私を満足げに見下ろすカスピアン王子。
その横柄な態度に更に腹が立ち、明後日の方向を向いて無視すると、ふん、と鼻で笑われる。
「さぁ行くぞ。安心しろ、小人達には害は与えないとは約束してやろう」
「絶対に……?」
こんな闇討ちをするような輩は到底信用出来ないと思いつつ、そう念を押すと、カスピアン王子はにやりと笑みを浮かべた。
「しかし、それはおまえが逃げ出さなければの話だ」
「……っ」
悔しさに唇を噛み締めた。
なんて横暴なヤツ!
泣き叫ぶヘレンをなだめ、きっと戻ってくるからと励ましつつ、兵士に囲まれて表に出る。
そこには、ずらりと並んでいるかなりの数の馬。たかが私一人を捕らえるのにこんな大勢で押しかけるなんて!
背中を押され、1番前に立つ白馬の前に来る。近くで見るとその大きさに驚き、怖くなって思わず後ずさりしてしまう。
フレンドリーな草食動物だと思っていたけど、実際に至近距離で見るとこれほど巨大だとは。
「う、馬は、乗れないから……」
見上げるような大きさの馬の迫力に怖じ気づいていると、背後に居たカスピアン王子の手が私の腰に回る。あっと言う間に抱え上げられ白馬の背に乗せられていた。
あまりの高さに怖くなり、声が出ない。
硬直していると、続けてカスピアン王子が私の後ろに飛び乗り、その勢いで馬が足踏みするように数歩動く。
「これを」
兵士が私にライアーを差し出した。
私の大切な宝物だ。
両腕でライアーを抱きしめる。
こんなとんでもないことになっているけれど、きっとなんとか乗り越えてみせる。
家の前で涙を流しているアンリとヘレンを振り返った瞬間、白馬は身を仰け反らせ一瞬嗎きをあげると、一気に山道を駆け下り始めた。
「!」
落ちるかと悲鳴をあげそうになったが、カスピアン王子の片腕がしっかりとお腹周りに回っていた。
ガクンガクンと激しく揺れ、冷たい夜風を切る猛烈な勢いが、経験したことのないレベルのジェットコースターのようだ。今にも振り落とされそうに、体が繰り返し宙に浮いては鞍に落ちる。
馬が絶叫マシン並みに怖いなんて!
恐怖のあまり声も出ず、ただ必死でライアーを落とさないように抱き締め、目をきつく閉じた。
「案ずるな、落としはせん」
頭上で高らかな笑い声が聞こえる。
片腕に私を抱き、もう片方の手だけで手綱を操り全速力で山道を駆けるとは、文字通りの暴れん坊将軍。いつまでこの恐怖のジェットコースターが続くのかと、正気を失いかけたころ、ようやく馬の速度が落ちた。激しい揺れで脳震盪が起きたのかと思うほど、頭がふらふらする。ぼやけた視界の向こうに、城壁に囲まれた巨大な王宮が見えてきた。重々しい巨大な門の周りに兵士達がずらりと並んでいる様子から、かなり重厚な警備が敷かれているのは間違いないようだ。
ゆっくりと開く大きな門。
白馬が王宮内へと進む。
まるで刑務所へ連れ込まれるような暗い気持ちの中、背後で門が閉まる重々しい音を聞いた。
一体どうなってしまうのだろう。
至る所に灯されたランプや松明の火の明かりに照らされ、暗闇の中に浮かび上がる王宮は360度見渡せる巨大さで、こんな所に放り込まれたら、迷って永遠に出口に辿り着けそうにない。
私はどこへぶち込まれるのだろうか。
馬に揺られながら不安が一気に押し寄せてくるのをなんとか隠そうと、唇をきつく噛み締め感情を押し殺す。
やがて馬が止まり、背後にいたカスピアン王子が馬を下り、ライアーを抱きしめ固まっている私を馬から下ろした。石畳の上に下ろされたものの、膝がガクガクして立つのもやっとだ。真夜中の初乗馬での爆走体験で、腰が抜けそうになっている。
ライアーを抱えたまま転ぶわけにはいかないと、バランスを取ることに必死になりながら、女官に連れられ王宮内をよろよろ歩いているうちに、ある部屋の前まで来ていた。
中に入ると彼女がテキパキと私の寝支度を整え、また朝にお迎えにあがります、と言うと下がっていった。
ガチャン、と扉の外から鍵をかける大きな音が真夜中の王宮に響き、ゾッとする。
逃亡防止の施錠は、予測範囲のことだから驚きはしなかったが、やはり監禁された事実に恐ろしくなる。
しかし、大きな鏡の前に灯された燭台のぼんやりした明かりの中であたりを見渡すと、この部屋は、牢屋ではなく一応客室らしい。
窓辺にライアーを置くと、ヨロヨロと天蓋付きのベッドに潜り込む。
昼間から連続した一連の事件にすっかり疲れ果ててしまった私は、寝返りを打つまもなく気を失うように眠りについた。



鐘のなる音に目が覚め、慌てて身を起こし、視界に入った見慣れぬ部屋に呆然とする。
昨夜、あんなことがあったのに、ふかふかのベッドが心地良く何故かぐっすり眠ってしまった自分が情けないやら、悔しいやらでいたたまれない気持ちになりながら、ベッドから抜け出した。
部屋の中央に立ち、再度ぐるりと見渡すと、この客室は、さすがに王宮の中に居ると納得するような、豪華絢爛なデコレーションや家具が備えつけられており、その煌びやかさに圧倒される。
牢屋に入れられなかったのにはホッとしたが、逆に、こんな客室に通されているのもその目的が計りかねられて気味が悪い。絶対に何か企みがあるに違いなかった。
悶々としていると、ノックの音がして、鍵を開ける音がした。
思わず身構えると、昨晩見た女官が、若い女官二人を引き連れて入ってきた。
「朝のお支度に参りました」
目の前で跪かれうろたえていると、若い女官二人に両手を取られ奥の別室へ連れていかれ、驚いているうちに着ていたナイトドレスを脱がされ、湯船に押し込まれる。素っ裸になってしまうとさらに抵抗のすべもなくなり、止む無く成されるがまま、手取り足取りで着替えまで彼等のやりたい放題。
オフホワイトの薄絹に金糸の唐草模様があしらわれた美しいドレスを着せられた己の姿を鏡で見て、ますます不安に煽られる。若い女官の一人が、私の濡れた髪を丁寧に布で乾かしながら、目の細かい櫛でゆっくりと梳かしているのを、昨晩の女官が厳しい目で監視しているのが鏡に写っていた。
心臓がドクン、ドクンと大きな音を立てて鼓動するのが自分で聞こえるほど、居ても立っても居られない焦りに襲われ始めた時、バタン、と音がして部屋の扉が開いた。
女官達が即座に後ろに控えたのを見て、驚いて振り返ると、カスピアン王子が大股で室内に入って来た。ちらりとこちらを見たが、そのまま真っ直ぐに窓辺に行く。何事かと思って見ていると、半開きになっていたカーテンを勢いよく全開した。朝日が部屋全体に差し込み、全てがはっきりと見える。
眩しさに思わず片手で目元を覆う。
一体、何を考えているんだか。
しかも、女性のいる部屋に、ノックもせず入ってくるなんて、マナーもない!
なんて無神経なヤツ!
後方に控えた女官達がカスピアン王子に朝の挨拶の言葉を述べるのを聞きつつ、目の前にやってきたカスピアン王子と沈黙のまま対峙する。
誘拐された被害者の私が、誘拐犯に朝の挨拶なんてする義理はない。
相手を挑発するほどの肝は座っていないけれど、ひれ伏すような謙虚な気持ちなんか1ミリもなかった。
深い緑色のカスピアン王子の両目が、食い入るようにこちらを見下ろすのを、平静を装いじっと見返す。何故か、絶対に弱気になっているなんて気取られてはならないと必死になっていると、無表情だった王子が、挑戦的な笑みを浮かべた。
「名前はなんという」
答えるべきか一瞬迷ったが、名前も告げないようでは意思疎通も困難と思われたため、渋々返答した。
「……セイラ」
カスピアンはじっと私の顔を見た。
「セイラ」
早速名前を呼ばれ、思わずムッとして言い返す。
「あなたは」
知っているが、人を名乗らせておいて、自分は名乗らないつもりなのかと、反発心で聞き返すと、意外にもあっさりと名乗る。
「カスピアン」
生意気な娘だとか罵られると身構えていたので、びっくりしていると、カスピアンが手に持っていた薄いベールを女官に投げた。
「これはお前つきの女官、サリーだ。必要なことは全てサリーに任せろ」
昨晩から私の世話をしているベテランっぽい女官が、ベールをふわりと持ち上げると、私の髪を覆うように被せた。目元が隠れるほど深くベールを引き下ろし、金色のピンを使って留めていく。
すっかり髪が隠れたのを確認するように、カスピアンが片手で私の頰に触れたので、反射的にその手を払いのけ数歩後ずさる。一瞬、怒りを帯びた目に睨まれ、慌てて目を逸らし俯いた。
忘れてはいけない。
この人が、傍若無人で暴君と恐れられる相手であったことを。
こんな大男に殴られたら、骨の一本二本が折れるだけじゃ済まないだろう。それに、私が怒りを買うことで、アンリやヘレンにまで害が及ぶことがあってはならない。
以後、軽率な言動はしないよう、注意せねば。
後方に控えた女官達も身動きせず、沈黙と静寂の時間が居心地悪い。
ドキドキと自分の心臓の音だけが脳裏に響く。
3分ほどその緊迫した状態が続き、耐えられなくなった私はついに声をあげた。
「私を、どうするつもり?」
そうだ。私を伝説の、エランティカの乙女と勘違いしているんだった。
「言っておきますけど、完全に人違いですから」
「人違いだと?」
「たまたま髪の色が同じみたいだけど、ご覧の通り、私はただの普通の人間です。あなたが探している伝説の乙女、ましてや女神ではないですから!」
この際、真っ向から誤解を解く努力をせねばと思い、真剣にそう伝えたところ、カスピアンは、ほう、と意味有りげに微笑んだ。
「確かに血の通った人間であることは認めてやる」
「だったら……」
「だが、それは俺にとってはもはや、どうでもいいことだ」
「えっ?」
「おまえがエランティカの乙女であろうとなかろうと、ここからは出さん」
ぎょっとして目を見開くと、カスピアンが高圧的な眼差しで私を見下ろした。
「セイラ、おまえがただの町娘であれば、とっくの昔に不敬罪でその首を跳ねていただろうが……」
そこまで言いかけたカスピアンが、ふと黙る。
首を跳ねる?!
その言葉にゾワッとして、思わず自分の首に手をやる。
首跳ねなど、そんな残酷な処刑が日常茶飯事な国にいることに心底恐ろしくなる。
カスピアンは、青ざめている私の様子を注意深く観察するように見ていたが、やがて、サリーに、後で私をどこかに連れてくるように言いつけると、部屋の外で控えていた側近を従えて去って行く。
荒々しい足音が過ぎ去るのを聞きながら、私は開いた扉の前で呆然と立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

この裏切りは、君を守るため

島崎 紗都子
恋愛
幼なじみであるファンローゼとコンツェットは、隣国エスツェリアの侵略の手から逃れようと亡命を決意する。「二人で幸せになろう。僕が君を守るから」しかし逃亡中、敵軍に追いつめられ二人は無残にも引き裂かれてしまう。架空ヨーロッパを舞台にした恋と陰謀 ロマンティック冒険活劇!

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

会長にコーヒーを☕

シナモン
恋愛
やっと巡ってきた運。晴れて正社員となった私のお仕事は・・会長のお茶汲み? **タイトル変更 旧密室の恋**

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...