【タイトル回収いつすんの?】汝、魔王に任ず。

十輪かむ

文字の大きさ
31 / 38
五章

1話

しおりを挟む
 廻冥の主の姿は歩き鳴らす地響きと共に大きくなり、まっすぐこちらへ近付いて来ていると分かった。

 アディとエイラは、地面に杖を突き立てて念じ、森を駆けて立ち止まってまた同じように念じを繰り返していた。そこへ廻冥の主の分体である黒い獣が襲いかかった。まるで、この魔法使いの師弟の意図が分かっているかのようだ。前方を何体かで取り囲んで行手を塞ぎ、後方の死角から攻撃する。明らかにこの行動は妨害だ。

「やっぱ、魔法使い狙って来るよね。精霊ちゃん達! 最初から遠慮しなくていいよ!」

 精霊達の動きは素早く統率が取れていた。狩人が弓矢で牽制して黒い獣の動きを止め、そこへ戦士が突撃して蹴散らす。更に魔法使いの魔法で追撃と補助。シンプルなパターンだが、そんなのが大概最も強力だ。歴戦の軍隊のようだ。黒い獣達を圧倒していく。

「あはは、これは俺の出番ないかも」

 と俺が呟く矢先だった。影と同化し潜んでいた一体の黒い獣がアディへ向けて忍び寄るのが見えた。スニーキング。あんなことする個体もいるのか。だが、俺から丸見えだ。

雷砲らいほう

 俺は掌を突き出し、水平に雷を放出した。威力は充分。これは捉える。が、俺が甘かった。雷が鳴らす爆音で気付いたのか、黒い獣は身を翻した。外した。そう思った瞬間だった。雷砲の軌道上にシルバーウルフのゼルがいた。

「フン!」

 ゼルはその身に雷を受けると、それを黒い獣へ向けて放った。躱す間はない。電撃に身を小刻みに踊らせると、黒の獣は絶命し消え去った。

「今のは……」

 ゼルは雷を弾いたように見えた。だけど、そんな力技じゃない。もっと何かある。

「貴様ラ、オニノ親子へノ対抗策ダ。我ハ我ノ特性ヲ活カシ、体表デ自在二雷ノ流レヲ変エラレル魔力操作ヲ体得シタ」

「特性?」

「シルバーウルフの体、特に長い体毛には銀が大量に含まれてる。銀は雷を最も抵抗なく通しやすい物質。魔力で抵抗率を僅かに変えるだけで、雷を体内へ通さず体外へと自在に流れを変えられるのかもしれない」

 いつものようにアディが解説と考察をしてくれる。

「すごいな。一瞬で雷の流れを変える。とんでもない魔力操作技術だ。ってことは……ゼルに雷効かないってことじゃん」 

「ソノ通リダ」

「そっか。でも、その雷伝導操作使えば敵の意表突ける面白い攻撃出来るかも」

 俺の中に閃くアイディアがあった。

「リデルは魔力出力が高い。だから、シンプルに放出する技が活きる。だけど、精密さはあまりなくシンプルな分読まれやすい。そこでゼルが雷の軌道を転換するなどすれば的中率も上がる」

「アディ……俺の頭の中覗いたの?」

「覗かなくても分かる」

「そう……だよね」

 単純なアイディアだし、誰もが思い付きそうなことだもんな。

「ナルホドナ。面白ソウダ。試シテミロ。我ガ合ワセテヤル」

「え、うん」

 意外だ。俺は、ゼルはもっと堅苦しい奴でこんなアイディア子供騙しだって一蹴すると思ってた。柔軟で話の分かる魔物なのかもしれない。

 ゼルが精霊軍団が布く戦線を超えて駆けていく。馬二頭分は優に超える巨体のはずなのに、凄まじい速度だ。俺が魔装・雷式を纏っても追い付けるかどうかだ。彼へ襲いかかる黒い獣も一噛みで千切っている。改めて思う。ゼルは、強い。

「来イ!」

 ゼルが俺へ向けて叫ぶ。俺の中に湧き立つものがあった。

雷砲らいほう!」

 さっきより魔力出力を上げて雷を放った。面白そう、試したいと言う好奇心が一番だった。だけど、混じり合って湧き立ったこれは、ゼルへの対抗心だ。俺にもあったんだ。こんな感覚。

「オオオン!」

 ゼルが雄叫びを上げながら雷砲を受ける。ほぼ同時にその体表から幾筋もの雷が放たれた。拡散だ。何体もの黒い獣が雷撃に貫かれて消えていった。

「そんなことも出来ちゃうんだ……」

 なんだろう。素直にすごいって感覚もあるけど、ちょっと悔しい。俺の技をあんなに簡単に捌くなんて。

「うほー、ゼルちゃんすごいね!」

 エイラがその様子を遠くから見ていたのか、奇声が聞こえた。

「ソンナモノカ、リデル。天カラ落チル稲妻ハ、コンナモノデハナイゾ」

(生意気な犬め。だが、良い余興だ。困難の前の肩慣らしには丁度いい)

 こいつもゼルに触発されたのだろうか。その声と共に、闇神の武者震いが伝わって来た。いつもとは違う。前までのあいつは、俺の魂の底で寝転がってテレビのリモコンでも弄るかのように影響を与えてくる感覚だったが、今は側に立っている。神霊魔法、神威融合ディヴァイン・フュージョンの影響か。

「煽るよね。なら乗ってあげようじゃないの」

 俺は、双穂槍弐禍喰を手に取り、雷の刃を為した。前に試してみたんだ。この刃からも雷砲は放てる。しかも、出力増幅されてだ。更に、これだ。

「魔装・雷式」

 俺の全身を雷が覆う。肉を血を骨を、構成する細胞全てが雷で活性化されていくのが分かる。

「行くよ」

(ああ)

 俺は地を蹴り駆けた。同時に、雷で体中を震わせてトップスピードへ達する。体が軽い。闇神の力が俺の身体へ流れ込んでいるんだ。これでも神威融合ディヴァイン・フュージョンは発動していない。自動車で例えたらアイドリング状態みたいなもんか。アクセルを全開してみたい。そんな衝動が湧いた。でも、今じゃない。

 精霊軍団の攻撃を掻い潜って、黒い獣達が俺へ襲いかかった。おそらくこいつらの習性、脅威度の高いものから排除しようと動いてる。

白吼びゃっく

 雷に乗ってジグザグに突進する。魔力出力が高くて魔力操作が下手な俺は、雷に乗っても真っ直ぐ進めない。母ライカ曰く、この技はそんなオニ族向けらしい。複数体の敵中をド派手に斬り進む。黒い獣が弐禍喰の刃で喰い殺されていった。

双刃雷砲そうじんらいほう

 連撃だ。俺は弐禍喰の二つの刃から続けざまに雷を放った。ゼルはそれを分かっていたのか? 既にその先へ銀色の巨体がいた。一つ、二つと軽く飛び移るかのように雷撃をいなして黒い獣を貫く軌道へと導く。雷に撃たれた廻冥の主の分体達は次々に滅せられていった。

「こら、子供達! 本体来る前に魔力使い過ぎないようにね!」

 エイラの注告が飛んで来た。それを背に、俺達は雷を飛び交わせた。楽しい。不覚なのか、これがオニ族由来の感覚なのか。きっと後者だろうなって思いつつ、俺はエイラの小言を無視し続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...