黎明の邪龍建国記 ~魔法を使えない私と最強邪龍、なぜか結託しましたが、最後は殺そうと思います~

PolaritY

文字の大きさ
17 / 22
フォルシア国編

第17話 洞窟へ

しおりを挟む
 朝。
 日の出より少し早く、私たちは動き始めた。

 まず荷台に乗せた木枝をなるべく遠くへ、分散させて木陰に捨てる。
 次にベッドを荷台に載せ、地面の痕跡を消していく。
 ウサギの死骸は土に埋め、足跡や馬車の轍を足で擦る。

 そして太陽が顔を出した頃、馬車は南東へ向けて走り出した。
 私はローゼスさんに、これからの道のりを確かめる。

「このまま南東へぐるっと回って、森林を抜けて洞窟に……でしたよね」

 彼は気楽そうに答える。

「はい。ここからしばらくは平野で、魔物との戦闘は恐らく無いかと思います。安心してください」

 そうして、一日と半分かけて、馬車に揺られていく。
 途中、ローゼスさんの鼻歌をきっかけに、ライルに人の文化を教えたり……
 鳥の魔物に襲われかけたり……と、まあ色々あったが、無事洞窟に辿り着いた。

(うわあ……教科書の絵で見たのより、ずっと大きく感じる)

 その入り口の大きさはまさに想像以上で、馬車どころか一軒家が丸ごと入りそうなほど。
 しかし沢山の柵がそれを拒むように、真昼の太陽の下で「立ち入り禁止」と主張している。

 そして馬車を降りると、私は二人の後ろにぴったりとくっついて動いた。

「あの……本当に大丈夫なんですよね? 魔物いませんよね?」

 私は執念深く辺りを見回す。
 木々は涼しげに揺られ、そのざわめきの奥、少し遠くには川も見えた。
 ローゼスさんも、辺りを見回しながら答える。

「そうですね……ちょっと、まだ分かりませんね」

 私は怯えながら、ライルの影に隠れる。
 そんな私の様子を見て、彼は無茶を言った。

「私が先に中を見てきます。お二方はここで馬車を見ていてもらえますか?」

「えっ大丈夫なんですか? 全員で、特にライルを連れて行ったほうがいいんじゃ……」

「あなたを巻き込んでしまったら大変でしょう? ……大丈夫です、すぐに戻りますから」

 彼は柵を軽々と飛び越え、魔法の光を手に灯す。
 躊躇せず遠ざかっていくその背を見て、私は心配でおどおどしていた。
 一方でライルは興味深そうに、洞窟の周囲をあちこち見て回っていた。

 ……数分経っただろうか。
 私は馬車の荷台に座って待っていると、ローゼスさんが戻ってきた。

「大丈夫でした! 一旦荷台を中に入れましょう」

 そう言われても心配な私は、一番気にしていることを彼に聞いた。

「あの、奥にいる強い魔物っていうのは……」

 彼は半分笑いながら、冗談混じりに言った。

「それは大丈夫です。最深部の魔物はここまで上がって来られませんし、もしいたら私はもう死んでますよ」

(ほ、本当ならいいけど……?)

 私は半信半疑ながら、彼の指示に従う。
 彼と共に、二頭の馬を川のほとりへ連れてくると、隠すように木々へ繋ぎ止めていく。

「あの、なぜ馬だけここに?」

「あそこの魔素濃度が高すぎるんです。人と魔物以外は適応できないんですよ」

「なるほど……そんなに凄いんですね」

 一方、ライルは荷台を動かし、洞窟奥の平坦なところへ持って行った。

 その後私たちも、彼女の後を追って洞窟に入る。
 内部は、天井の高さをそのままに、緩やかな下り坂になっていた。

(本当に何もいないみたい……でもちょっと気味が悪いなぁ)

 不思議なくらい静かなのは、先程の話通りだろう。しかし、何度も反響する足音を聞いていると、他に誰かいるのでは、と心配になってくる。
 さらに、少しひんやりとした空気からは、何か体に悪そうな雰囲気が漂ってくる。

 縮こまりながら拠点へたどり着くと、ライルが全体に明かりを灯す。日中と同じくらい明るければ、少しはましな気分かもしれない。
 ただ動植物の気配が微塵も無いというのは、やはり不気味だった。

(でも今は、やるべきことをやらなくちゃ)

 私は指示通り、残りの食料を確認し始める。
 ローゼスさんは外へ木材を採りに、ライルは……私の護衛が担当だ。

「それでは行ってきますね」

 私は彼の背を見て返事する。

「分かりました! 気を付けてくださいね」



 そうして二人きりになった私たち。
 私が手を動かしていると、ライルが話しかけてきた。

「レイル、例の弾のことなんだが……ピストルを出せ」

 いつの間にか、弾の形をした石がライルの手の上にあった。
 私は鞄に仕舞ってあったピストルを出し、ライルに渡す。

「はいこれ。もうできたの?」

「ある程度な。確か──こうだったか」

 彼女は石を銃口に落とし、慣れた手つきでレバーを動かす。

「あの時は『引き金を引けばいい』って言ってたけど、なんかしないといけないの? ──というか、なんで知ってるのよ」

「この仕組みは昔にも見たからな。フォルシアのものは、弾が特殊なだけに過ぎん」

「えっ……?」

 昔……つまり、邪龍が封印された300年前よりも、さらに前のことである。
 これを聞いた瞬間、私は不思議に思った。

「なんか、おかしくない? 300年以上経ってるのに、それほど変わってないなんて」

「……確かにな。他の技術と比べても、明らかに進歩が遅い。とはいえ、私に聞かれても知らんぞ。気にはなるがな」

「本当に何も知らないの……?」

「昨晩お前らが寝ていた頃、私は弾丸を作っていた。だが、お前はそれを知らなかっただろう? それと同じだ」

 彼女はそう返事しながら、壁に向かって引き金を引いた。
 だが弾丸が飛ぶことはなく、破裂音と共に零れ出たのは……砂利。

「なんなんだろう……」「なぜうまく行かんのだ……」

 モヤモヤとして、互いに黙り込む。
 私の方は考えても仕方ないのだが、気になって頭から離れなかった。

(──魔法の進歩は、生活の要だから。医療は、魔王との戦争で人がたくさん死んだからでしょ? 長い間戦争をやったなら、武器も強くなっていいはずなのに……。魔法の方が強いから、研究されなかったのかな?)

 私なりにその謎を考えていると、突然ライルが呟く。

「この洞窟の先……やはり気になるな。ちょっと行ってくる」

「ええ⁉ 私のことは⁉」

「安心しろ。私じゃなくてコイツが行く」

 彼女が後ろに親指を向けると、ライルと似た少女がひょっこりと顔を出す。
 でも、なんというか……全体的にカクカクしている。

「え? 分身? ……いや、なんか変じゃない?」

 顔は点2つと曲線しかないし、髪や服も、板が貼り付けられたような見た目だ。
 私の言葉に、カクカクしたライルが自ら答える。

「コイツは人とのやり取りを想定してないからな。遠くから見て、それらしくあればいいだろう」

「いや……というか、洞窟に潜るだけなら、人の形である必要もないんじゃ」

「あ、そうか。でもまあ、動かし慣れてる形だからこれでいい!」

 呆れるような話を終えると、ライルは洞窟の下へパタパタと走っていく。
 その様子はなんだか滑稽で、まるで小さい子供がはしゃいでいるようだ。
 一方、普通のライルの方は地べたに座ると、一言だけ言って静かになった。

「じゃ、何かあったら呼べ。複数同時に動かすのは無理だからな!」

「わ、分かった……」

 そして静かになると、反響した声や自分の足音が耳に残る。
 ……なんだか、置いていかれたような気分だ。

「まあ、自分のことをやるかぁ」

 一人になった私は、残りの食料で何日過ごせるか、計算し始めた……。


 しばらくして──


 作業も終わり、ベッドで横になっていると、いつの間にか夕方になっていた。
 入り口周りは橙に染まり、肌寒くなってくる。

 私はただただ、二人の帰りを待っていた。
 いつ帰って来るのかと心配し始めた頃、突然私の足の方から、ライルの声が威勢よく響いた。

「おい、面白いものを見つけたぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...