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2章.妹君と少年伯は互いを知る
42.妹君は思いつく①
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「ここだ」
しばらく大通りを進んだところで、ユリウスは立ち止まった。
大きな商店が立ち並ぶ中でも一際大きい店だ。
ショーウィンドウには鮮やかで彩り豊かな布地がかかり、手のひらほどの糸巻きに巻かれた糸がグラデーションを描くようにいくつも並べられている。
アクセサリーの取り扱いもあるらしく、小さな木工細工や螺鈿細工のイヤリングなどもあるようだ。
この辺りの店の雰囲気や看板の様子からして、おおよそ高級なものを取り扱っていそうな店に、リーゼロッテは一瞬気後れする。
(こんな大きなお店、入ったことないわ……)
ハイベルク家にいた当時、嫌がらせを受けていたせいで針仕事が多かった彼女だが、自分の裁縫道具は全て使用人たちのお下がりだった。
そのため手芸店に来たことも無ければ、これだけ大量に布地を扱う店にも入ったことはない。
「ここは……」
「舶来品の中でも布地を中心に扱う店だな。その関係で国内の布や糸、装飾品などそれ関連の商品も大体のものを揃えている。頼まれれば仕立てもする」
「は、はあ……」
ユリウスの説明でさらに気後れするリーゼロッテ。
というのも、彼女が今着ているのはハイベルク家から追い出された時に着ていた紺の古い半袖ワンピースだ。
このような高級店では場違いな格好すぎて、かえってユリウスの迷惑になってしまいそうだと思った。
「いらっしゃいませ」
ドアベルの音に、店の奥から顔を出したのは意外にも初老の男性だった。
店主と思しき男性は、すらりと背が高く、落ち着いた雰囲気の男性だ。
彼はユリウスを見て一瞬目を見開くと、人の良さそうな顔をくしゃりとさせた。
「お久しぶりでございますね、ユリウス様。今日はどのようなご用件で?」
「糸を買いにきた。彼女にいくつか出してもらえるだろうか?」
「かしこまりました。ではお嬢様、こちらへ」
奥へと促す店主に、リーゼロッテはユリウスの方を振り返る。
どこか頼りなげな表情だったのか、彼は安心させるように穏やかに笑うと「好きに見させてもらえ」と手を振った。
「さ、お嬢様。こちらへ」
店主が先ほどよりも嬉しそうな笑みを浮かべているように見える。
スマートな身のこなしで店の奥へと案内する店主についていくと、ショーウインドウに飾られていたよりもさらに多くの糸や布が、壁付けの棚の中に所狭しと並べられていた。
さらに奥には製作スペースなのか、裁縫道具が置かれている。
「すごい……」
「気になるものがございましたら申し付けください」
「わかりました。ありがとうございます」
それでは、と一礼をし、退出した店主から再び棚に目を移す。
棚一杯に並ぶ様は壮観だ。リーゼロッテは久しぶりに心躍る思いだった。
はやる気持ちを抑え、買い物リストの中から条件に合ったものを選んでいく。
あらかた選び終わったところで、ユリウスの待つ入り口あたりに目をやると、なにやら店主と話し込んでいる様子が見えた。
(商人さんとお話しされるとおっしゃられてたし、もう少し見ていようかしら)
針仕事を嫌でも覚えなければならないような環境で育ったリーゼロッテだが、その実、裁縫は嫌いではない。むしろ好きな部類だ。
これだけたくさんの布地や糸、裁縫道具に囲まれると流石に浮き足立ってくる。
糸の棚の手前には、無地や柄物の布地が何本も巻かれたものが鎮座している。
模様は国内でよく見られる花や植物が描かれたものから、正確無比な幾何学模様や蔓なのか波なのかよく分からない異国のものもあった。
布地を眺めていると、ふとその隣にある物が気になった。
色ごとにまとめられた細い布の束──布紐という物だろうか。
(こんなものもあるのね……束ねると綺麗だわ……)
それらをじっと見つめているうちに、彼女はあることを思いついた。
しばらく大通りを進んだところで、ユリウスは立ち止まった。
大きな商店が立ち並ぶ中でも一際大きい店だ。
ショーウィンドウには鮮やかで彩り豊かな布地がかかり、手のひらほどの糸巻きに巻かれた糸がグラデーションを描くようにいくつも並べられている。
アクセサリーの取り扱いもあるらしく、小さな木工細工や螺鈿細工のイヤリングなどもあるようだ。
この辺りの店の雰囲気や看板の様子からして、おおよそ高級なものを取り扱っていそうな店に、リーゼロッテは一瞬気後れする。
(こんな大きなお店、入ったことないわ……)
ハイベルク家にいた当時、嫌がらせを受けていたせいで針仕事が多かった彼女だが、自分の裁縫道具は全て使用人たちのお下がりだった。
そのため手芸店に来たことも無ければ、これだけ大量に布地を扱う店にも入ったことはない。
「ここは……」
「舶来品の中でも布地を中心に扱う店だな。その関係で国内の布や糸、装飾品などそれ関連の商品も大体のものを揃えている。頼まれれば仕立てもする」
「は、はあ……」
ユリウスの説明でさらに気後れするリーゼロッテ。
というのも、彼女が今着ているのはハイベルク家から追い出された時に着ていた紺の古い半袖ワンピースだ。
このような高級店では場違いな格好すぎて、かえってユリウスの迷惑になってしまいそうだと思った。
「いらっしゃいませ」
ドアベルの音に、店の奥から顔を出したのは意外にも初老の男性だった。
店主と思しき男性は、すらりと背が高く、落ち着いた雰囲気の男性だ。
彼はユリウスを見て一瞬目を見開くと、人の良さそうな顔をくしゃりとさせた。
「お久しぶりでございますね、ユリウス様。今日はどのようなご用件で?」
「糸を買いにきた。彼女にいくつか出してもらえるだろうか?」
「かしこまりました。ではお嬢様、こちらへ」
奥へと促す店主に、リーゼロッテはユリウスの方を振り返る。
どこか頼りなげな表情だったのか、彼は安心させるように穏やかに笑うと「好きに見させてもらえ」と手を振った。
「さ、お嬢様。こちらへ」
店主が先ほどよりも嬉しそうな笑みを浮かべているように見える。
スマートな身のこなしで店の奥へと案内する店主についていくと、ショーウインドウに飾られていたよりもさらに多くの糸や布が、壁付けの棚の中に所狭しと並べられていた。
さらに奥には製作スペースなのか、裁縫道具が置かれている。
「すごい……」
「気になるものがございましたら申し付けください」
「わかりました。ありがとうございます」
それでは、と一礼をし、退出した店主から再び棚に目を移す。
棚一杯に並ぶ様は壮観だ。リーゼロッテは久しぶりに心躍る思いだった。
はやる気持ちを抑え、買い物リストの中から条件に合ったものを選んでいく。
あらかた選び終わったところで、ユリウスの待つ入り口あたりに目をやると、なにやら店主と話し込んでいる様子が見えた。
(商人さんとお話しされるとおっしゃられてたし、もう少し見ていようかしら)
針仕事を嫌でも覚えなければならないような環境で育ったリーゼロッテだが、その実、裁縫は嫌いではない。むしろ好きな部類だ。
これだけたくさんの布地や糸、裁縫道具に囲まれると流石に浮き足立ってくる。
糸の棚の手前には、無地や柄物の布地が何本も巻かれたものが鎮座している。
模様は国内でよく見られる花や植物が描かれたものから、正確無比な幾何学模様や蔓なのか波なのかよく分からない異国のものもあった。
布地を眺めていると、ふとその隣にある物が気になった。
色ごとにまとめられた細い布の束──布紐という物だろうか。
(こんなものもあるのね……束ねると綺麗だわ……)
それらをじっと見つめているうちに、彼女はあることを思いついた。
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