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4章.妹君と辺境伯は揺れ動く

116.お姉様は画策する③

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「もうすぐです」

 御者席からイーヴォが張りのある声を上げた。

 ユリウスの屋敷を発って四日。

 王都に着いた彼らは貴族の屋敷が立ち並ぶ、所謂貴族街の中を馬車で走っていた。

 本当は昨日の時点で着いていたのだが、さすがに約束の前日にハイベルク家に行くわけにもいかない。

 王都の宿屋で一夜を明かし馬車に乗り込んでいる。

 ちなみに宿屋に泊まる前に、リーゼロッテはユリウスに聖女の力を使い青年化させている。

 聖女の力も安定はしてきたが、まだまだ思い通りにとはいかない。

 特にユリウスは、彼自身の少年化に向かう魔力と拮抗するため、微妙な年齢調整がうまくいかない。

 うまくいかなかった分を彼の吸魔キスでなんとか補っているが、婚約者となるとは言えさすがに毎回吸魔をしてもらうのも忍びない。

(今度こそはうまくできるようにならなければ……!)

 人知れず頷いたリーゼロッテは、ユリウスに話しかけた。

「ユリウス様、お疲れではないですか?」

「いや、リーゼこそ長旅は疲れただろう」

 などと話していると、突然馬車が止まった。

 もうすぐ、と言いながらもまだハイベルクの屋敷は見えない。

 ユリウスがイーヴォに声をかけようと小窓に手をかける。

「…………」

 手をかけたままの姿勢で止まった彼を不審に思い、リーゼロッテも小窓から少し顔を出した。

「アンゼルム?」

 彼女が声を上げたのと、アンゼルムが視線に気づいたのはほぼ同時だった。

 見習い騎士の訓練か、と思ったが、鎧でも甲冑でもなく、貴族が身につけるごくごくスタンダードな平服だ。

 今日の食事会はそこまでかしこまらなくて良いということなので、おかしくはないのだが、こんなところで一体どうしたのだろう、と彼女は首を傾げた。

 姉の表情に人懐こい笑みを浮かべ、アンゼルムは二人の乗る馬車に近づいてくる。

「お待ちしておりました。ユリウス様、姉さん」

「どうしてアンゼルムがここに?」

 馬車の外から声をかけた彼に、リーゼロッテは戸惑いつつも聞く。

 彼は意味ありげに微笑むと、ユリウスに向け小さく頷いた。

「お出迎え、ですよ」
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