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4章.妹君と辺境伯は揺れ動く

160.二人はしばし、いとまを告げる①

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 言葉少なにハイベルク家に帰った二人を、ユリウスが出迎えた。

 微かにほっとしたように息をついたリーゼロッテを、アンゼルムは悲しそうな微笑みで見つめている。

 あとから来たナターリエに、「今日はできるだけ二人にしてあげよう」と言うと、アンゼルムは継母を連れ立って離れに向かっていった。

 フリッツとの約束の手前、本来なら彼女から離れるべきではないだろう。

 しかし、彼女は近しい人間の命を犠牲にしてまで聖殿に入ることを拒む人間ではない。

 その確信があったからこそ、ユリウスとの最後の時を過ごしてもらいたいと思った彼は退いた。

 玄関ホールで二人きりになったリーゼロッテとユリウスは、遠慮がちに視線を交わす。

「……あの、私……」

 ややあって、意を決してリーゼロッテは口を開いた。

 しかし、その次の言葉が出ない。

 帰ったら自分の口から直接伝えたいと思っていた、『明日入殿することになった』という言葉が出てこない。

 唇が拒むように震える。

(ただ……私の処遇を伝えるだけなのに……)

 焦るように視線を巡らせた彼女を、ユリウスは落ち着かせようと声をかけた。

「……疲れただろう。夕餉ゆうげにしよう」

「……はい」

 差し出された手をおずおずと取ると、二人は食堂へと歩みを進めた。
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