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5章.妹君と辺境伯は時を刻む
176.リーゼロッテは迫られる①
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数日後。
相変わらずクリスタは細々とした雑用を押し付けてきたが、リーゼロッテは全て難なくこなしていた。
彼女が完璧に仕事をこなす度に、クリスタは困惑したように小首を傾げては帰っていく。
(嫌がらせ、とデボラさんはおっしゃられてましたが……)
リーゼロッテは中庭のベンチに腰掛け、息をついた。
ディートリンデから受けた嫌がらせに比べれば、クリスタの頼みは可愛らしいものだ。
『このお茶に合う菓子を作れ』と言われ、焼き菓子を次の茶会に持ち寄ると、クリスタは難しい顔のまま完食していた。
『窓から景色を見たいからピカピカになるまで磨け』と頼まれた時は、水魔法や古紙を使って曇りひとつない窓を披露した。
『内庭にカエルが出た。駆除を願う』と言われて即座にカエルを掴んだ時は、さすがのクリスタも小さく悲鳴を上げていたが。
(幼い頃、よくディートリンデと庭師を驚かせようとカエルを捕まえてたことを思い出しました……そのあと二人でお母様に怒られましたけど……)
苦笑いを浮かべたリーゼロッテは空を見上げた。
心地よい風がリーゼロッテの頬を撫でる。
陽が高く登り、木々の合間から薄浅葱の空が覗いていた。
これまでクリスタの依頼をこなす上で分かったことがいくつかある。
その内のひとつが、クリスタはディートリンデとは違い、むやみやたらにリーゼロッテを否定しないということだ。
結果を出せば褒めはしないものの、その結果を不承不承ながらも受け入れてくれている。
その素直な姿がどこか憎めなくて可愛らしいと感じているリーゼロッテは、クリスタの依頼をむしろ楽しんで引き受けていた。
そろそろ部屋に戻ろうと腰を上げかけたその時だった。
「リーゼロッテ様」
噴水の奥から聞き覚えのある声が聞こえ、彼女は顔を綻ばせる。
視線の先にいるのはマリーだ。
身体を清めたばかりらしく、ほのかに湿ったピンクゴールドの髪が普段より艶めいて見える。
「マリー様、おかえりなさいませ。辺境はいかがでしたか?」
「ええ……その……」
躊躇いがちに顔を覗かせたマリーは言い淀む。
なにやら言いたいことがある様子の彼女をひとまずベンチに座らせると、リーゼロッテは首を傾けた。
「……あの日は申し訳ございませんでした。その、少し、気分が優れなくて」
ようやく口を開いたマリーは勢いよく頭を下げる。
リーゼロッテから表情は見えないが、押し殺したような声色から自責の念に駆られていることが分かる。
「いえ、そんな謝らないでください。私も少し不躾すぎました」
リーゼロッテが首を振ると、マリーもまた同様に首を振り返す。
しばらくそんな問答が続き──。
「……なんだか私たち、テオドール様の言う通り謝ってばかりですね」
「そうですね。似たもの同士なのかもしれません」
苦笑混じりのマリーの言葉に、リーゼロッテは笑いながら同意する。
(よかった……マリー様、お元気そうで)
内心ほっとしつつ、マリーと様々な話をした。
相変わらずクリスタは細々とした雑用を押し付けてきたが、リーゼロッテは全て難なくこなしていた。
彼女が完璧に仕事をこなす度に、クリスタは困惑したように小首を傾げては帰っていく。
(嫌がらせ、とデボラさんはおっしゃられてましたが……)
リーゼロッテは中庭のベンチに腰掛け、息をついた。
ディートリンデから受けた嫌がらせに比べれば、クリスタの頼みは可愛らしいものだ。
『このお茶に合う菓子を作れ』と言われ、焼き菓子を次の茶会に持ち寄ると、クリスタは難しい顔のまま完食していた。
『窓から景色を見たいからピカピカになるまで磨け』と頼まれた時は、水魔法や古紙を使って曇りひとつない窓を披露した。
『内庭にカエルが出た。駆除を願う』と言われて即座にカエルを掴んだ時は、さすがのクリスタも小さく悲鳴を上げていたが。
(幼い頃、よくディートリンデと庭師を驚かせようとカエルを捕まえてたことを思い出しました……そのあと二人でお母様に怒られましたけど……)
苦笑いを浮かべたリーゼロッテは空を見上げた。
心地よい風がリーゼロッテの頬を撫でる。
陽が高く登り、木々の合間から薄浅葱の空が覗いていた。
これまでクリスタの依頼をこなす上で分かったことがいくつかある。
その内のひとつが、クリスタはディートリンデとは違い、むやみやたらにリーゼロッテを否定しないということだ。
結果を出せば褒めはしないものの、その結果を不承不承ながらも受け入れてくれている。
その素直な姿がどこか憎めなくて可愛らしいと感じているリーゼロッテは、クリスタの依頼をむしろ楽しんで引き受けていた。
そろそろ部屋に戻ろうと腰を上げかけたその時だった。
「リーゼロッテ様」
噴水の奥から聞き覚えのある声が聞こえ、彼女は顔を綻ばせる。
視線の先にいるのはマリーだ。
身体を清めたばかりらしく、ほのかに湿ったピンクゴールドの髪が普段より艶めいて見える。
「マリー様、おかえりなさいませ。辺境はいかがでしたか?」
「ええ……その……」
躊躇いがちに顔を覗かせたマリーは言い淀む。
なにやら言いたいことがある様子の彼女をひとまずベンチに座らせると、リーゼロッテは首を傾けた。
「……あの日は申し訳ございませんでした。その、少し、気分が優れなくて」
ようやく口を開いたマリーは勢いよく頭を下げる。
リーゼロッテから表情は見えないが、押し殺したような声色から自責の念に駆られていることが分かる。
「いえ、そんな謝らないでください。私も少し不躾すぎました」
リーゼロッテが首を振ると、マリーもまた同様に首を振り返す。
しばらくそんな問答が続き──。
「……なんだか私たち、テオドール様の言う通り謝ってばかりですね」
「そうですね。似たもの同士なのかもしれません」
苦笑混じりのマリーの言葉に、リーゼロッテは笑いながら同意する。
(よかった……マリー様、お元気そうで)
内心ほっとしつつ、マリーと様々な話をした。
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