悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

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5章.妹君と辺境伯は時を刻む

177.リーゼロッテは迫られる②

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「……リーゼロッテ様は夢、ってありますか?」

 ふと、話題が途切れた時、マリーが静かな口調で尋ねてきた。

「夢?」

「将来の夢とかそういうものです」

(夢……聖女としての、でしょうか……?)

 リーゼロッテは戸惑った。

 聖殿に上がる前ならば、ユリウスとの未来を想像していた。

 しかし聖殿に上がって日が浅い彼女には、聖女として何を成すか以前に聖女の勤めも漠然としすぎていて掴みきれていない。

 お披露目もまだなリーゼロッテは毎日二回祈る他、クリスタと会う以外はほぼ聖殿の自室でただ無為に時間が過ぎていくのを待っているだけだ。

 ここに長居したいとはあまり思えないが、それでも聖女として祭り上げられている以上は何か目標のようなものは必要なのではないか。

 ひとしきり考えてはみたものの、夢を設定するにしても判断材料が乏しすぎる。

 リーゼロッテは頭を左右に振った。

「……よく分かりません。この力が皆さんの役に立てば、とは思いますが、それ以上具体的なことは考えたこともなくて……マリー様は?」

「私は……最近できたんです」

 マリーはそう言うと、自らの手をじっと見つめた。

「……私、亜人さんたちの治療で辺境を回っているじゃないですか。それで色々な方のお話を聞くんです。怪我で苦しんでいる方には悪いけど……こういう……治療して回る仕事っていいなって思って」

「それは素敵ですね」

 リーゼロッテの肯定にマリーは照れ臭そうに笑った。

 かと思えばすぐにその笑みは消え、曇った表情で虚空を見つめる。

「聖殿にいると一切魔力を使わないですし、祈りがどこまで通じてるのか実感も湧かない……」

「………………」

 それはリーゼロッテも薄々感じていたことだ。

 聖殿に上がってからというもの、ドレスの染みを消すのに水魔法を使った程度で魔力を一度も使っていない。

 朝晩の祈りでさえ魔力を使わないのだ。

 特殊な魔力を持つ者を聖女と呼び聖殿に上げているのならば、聖女の魔力を使う聖女にしかできない何かがあるのではないか──と思っていたのだが、今のところそれがない。

 たった数日でリーゼロッテが気づいたくらいだ。

 十数年もここにいるマリーはとっくにその虚しさを何度も経験していることだろう。

「昔、戦争が起きたのも私の祈りが足りないからだ、とかまだ幼いからだ、とか散々言われて……」

「それは……辛かったですね……」

「……テオドール様だけです。私を責めることも変に労わろうとすることもなく、フリッツ様の目を盗んで会いにきてくださって……他愛もない話をしてくださっていたのは」

 マリーは懐かしむように目を細めた。

 その瞳がうっすらと潤み出す。

「嬉しかったんです。あの方がいらっしゃったから、どんなに辛くても頑張ってこれたんです」

「マリー様……」

 マリーの悲痛な想いが口から溢れ出る。

 リーゼロッテは居ても立っても居られなくなり、彼女の肩を抱いた。

 華奢な肩は微かに震え、俯き加減の彼女の口からはしゃくり上げるような吐息が漏れる。

「……だから、たとえ私が……フリッツ様と……そうなったとしても、その思い出だけで頑張れます。リーゼロッテ様のように……」

「マリー様……でも……」

「私には……それしかないんです」

「マリー様……」

 聖殿に上がることでユリウスと別れなくてはならなかったリーゼロッテには、マリーの気持ちは痛いほどよく分かった。

 しかし──。

(マリー様は……お断りすればまだ間に合います。どうしてここまで頑なにフリッツ様の求婚を受け入れなければならないとおっしゃるのでしょう……)

 微かな疑問に頭をもたげるが、それをマリーに直接確かめるのはこくすぎる。

 彼女は肩に置かれたリーゼロッテの手に自らの手を重ねた。

 酷く冷えたそれは、とても湯浴みした後のものとは思えない。

 リーゼロッテの手をやんわりと肩から離すと、マリーは立ち上がった。

「……話を聞いてくださってありがとうございます。私のささやかな夢……たとえ叶わなくても、リーゼロッテ様に聞いていただけただけで十分なのです」

 背を向けた彼女がとても寂しそうで、それ以上に拒絶されていると感じたリーゼロッテは声がかけられない。

「…………」

 その孤独な背が見えなくなるまで、彼女は身動きができなかった。
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