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5章.妹君と辺境伯は時を刻む
194.リーゼロッテは忠告される③
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一方その頃。
騎士団の牢獄の中から、上りきった月を見上げる瞳があった。
粗末な上掛けに敷いている意味がないくらい薄い布切れしかない小部屋──独房だ。
その上方に鉄格子の嵌った小さな通気口があり、ちょうど月がはまり込んだように浮かんでいる。
恐ろしく美しいが、鉄格子の無機質な線が入り、小さな籠の中に捕らえられた虫のようにも見えた。
囚人は壁に背を預けたまま動かない。
首に繋がれた鎖は、囚人の細い身体には不相応なほど太く、重々しい。
「やあ、ご苦労様」
「はっ」
不意に聞こえた暢気な声に、囚人は微かに眉を動かした。
また見物客、煩わしい。
そうひとりごちると、膝を抱えて小さく見せる。
客は全てを諦め、堂々としている囚人より、悲しみに打ちひしがれた演技をする囚人を好んだ。
望まれたように演じれば、客は満足して早く帰る。
今聞こえた男の声はいつもの客ではなかったが、どこか楽しむような声色から演技をすることを選んだ。
「ここはいいよ。君らは休憩してきなさい」
「で、ですが……」
「大丈夫だよ。僕はこう見えて剣術も魔法も長けている。鎖で繋がれた囚人なんかに傷つけられるわけがないさ」
面会に立ち会う騎士すら必要ないと言う声に、囚人は鼻で笑った。
今日の客は随分と自信家らしい。
「……それではお言葉に甘えて」
「はいはい」
呆れ返った騎士が去る気配と入れ違いに、男が入ってきた。
ややだらしなく伸びっぱなしの燃えるような赤髪に、軽薄そうな笑み。
身分を隠すような怪しい黒いマント姿の男は、囚人の前まで来ると顔を覗き込んだ。
その胡散臭い笑みに囚人は顔を顰める。
「さて……と」
不愉快そうに表情を歪めた囚人に満足したのか、男は小さく礼をした。
「はじめまして。僕はテオドール。僕の弟が世話になったね……ディートリンデさん」
張り付いたような完璧な笑みに、この男は好きになれないと囚人──ディートリンデは直感的に思った。
騎士団の牢獄の中から、上りきった月を見上げる瞳があった。
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その上方に鉄格子の嵌った小さな通気口があり、ちょうど月がはまり込んだように浮かんでいる。
恐ろしく美しいが、鉄格子の無機質な線が入り、小さな籠の中に捕らえられた虫のようにも見えた。
囚人は壁に背を預けたまま動かない。
首に繋がれた鎖は、囚人の細い身体には不相応なほど太く、重々しい。
「やあ、ご苦労様」
「はっ」
不意に聞こえた暢気な声に、囚人は微かに眉を動かした。
また見物客、煩わしい。
そうひとりごちると、膝を抱えて小さく見せる。
客は全てを諦め、堂々としている囚人より、悲しみに打ちひしがれた演技をする囚人を好んだ。
望まれたように演じれば、客は満足して早く帰る。
今聞こえた男の声はいつもの客ではなかったが、どこか楽しむような声色から演技をすることを選んだ。
「ここはいいよ。君らは休憩してきなさい」
「で、ですが……」
「大丈夫だよ。僕はこう見えて剣術も魔法も長けている。鎖で繋がれた囚人なんかに傷つけられるわけがないさ」
面会に立ち会う騎士すら必要ないと言う声に、囚人は鼻で笑った。
今日の客は随分と自信家らしい。
「……それではお言葉に甘えて」
「はいはい」
呆れ返った騎士が去る気配と入れ違いに、男が入ってきた。
ややだらしなく伸びっぱなしの燃えるような赤髪に、軽薄そうな笑み。
身分を隠すような怪しい黒いマント姿の男は、囚人の前まで来ると顔を覗き込んだ。
その胡散臭い笑みに囚人は顔を顰める。
「さて……と」
不愉快そうに表情を歪めた囚人に満足したのか、男は小さく礼をした。
「はじめまして。僕はテオドール。僕の弟が世話になったね……ディートリンデさん」
張り付いたような完璧な笑みに、この男は好きになれないと囚人──ディートリンデは直感的に思った。
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