悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

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5章.妹君と辺境伯は時を刻む

195.お姉様は答える①

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「テオドール……また名前だけのモブ……」

「何か言ったかい?」

 吐き捨てるように呟いたディートリンデの言葉を、テオはわざとらしく聞き返す。

「……いいえ。それで、継承順位の低い第一王子様が一体何の用かしら?」

「いやね、君が捕まる前、ユリウスに言った言葉を詳しく聞きたくなってね」

「言葉?」

 前世の知識を駆使した渾身の嫌味を軽く流され、少々苛つきながらも聞き返した。

 酔っていたとはいえ、ユリウスに言った言葉は大体覚えている。

 しかしそれらは全て、騎士団の取り調べでも話したことだ。

 わざわざ王子が夜分遅くに訪ねてきて聞かれるようなことではない。

 それに話したところで信じてもらえるわけがないことは、拘留されて刑がまだ確定していないことからも明らかだ。

 テオは勿体ぶるように頷いた。

「君が神と同じ世界の人間だ、と。君が酔ってたから流したってユリウスは言ってたけど、君の供述も合わせてあれは本気だったんじゃないかと思ってね」

「だったら何? あなたに詳しく話したら王子特権で騎士にも供述は全部本当だとでも言ってくれるわけ?」

「いや、彼らを納得させるのは無理だろうね。話が突飛すぎる」

「ならこの面会は無駄ね。とっとと帰れば?」

 ディートリンデは素っ気なく言い放つとそっぽを向いた。

 囚われの身でも気の強さを隠そうともしない彼女に、テオは笑いを堪えきれない。

「なるほど、なかなか強情な御令嬢と見える」

「令嬢? はっ……笑える。私は令嬢なんかじゃないわよ」

「確か……身体はディートリンデ嬢だが、意識が別人、という話だったね」

「そうよ」

「お嬢さんの本当のお名前は?」

 思いがけず真名を問われたディートリンデは答えに詰まった。

(こいつ……私の話をホントに信じてるってこと?)

 今まで会ったこともない変人だと戸惑いつつも、彼とは目を合わせずに答えた。

「教えないわよ。名乗ったところでその名前の女は前世で死んでるわ。今だって追放寸前でしょ?」

「いや……」

 テオは首を振ると一段声を落とす。

 その瞳が珍しく哀れみを映し出したことに、肝心の彼女は気づいていなかった。

「フリッツは君を死刑にする。おそらくマリーとの婚儀の前に、結婚の正当性を得るために公開でね」

「は?」

 死刑、の一言に、ディートリンデは驚きの声を上げた。

 元の話では聖女迫害の罪でディートリンデは辺境に追放されるはずだった。

 使用人を殺害したところで、その罪はそこまで重くならない。

 せいぜい国外追放か強制労働だろうし、追放先が自分の墓場だと考えていた。

 しかし聴衆の前で死に様をさらされるとは。

 意味が分からない、と呟いた彼女を見下ろしたテオは口を開く。

「罪状は聖女迫害と……の殺害だね」

「神官……どういうことよ?」

「あの火事で焼け死んだのはただの使用人じゃないってことさ」

「…………? コルドゥラに神官をやってる双子がいて火事の日入れ替わっていたとか?」

 思いがけないディートリンデの発言に、テオは目を見開いた。

 固まったままの彼に、「なによ?」と悪態を吐こうとした時だった。

「…………ぷっ」

 堪えきれず吹き出す音が頭上から聞こえる。

 怪訝な表情で上を見上げれば、テオが口元を手で押さえ肩を震わせていた。

「な、なによっ!」

「いやいや……君面白いね。なかなかいないよ、死刑になるって時にそんな暢気な発想する人」

「わ、悪かったわね! あんたこそ王子様っぽくなくて調子狂うわ!」

「ははは。よく言われるよ」

 大笑いするテオを前に、ディートリンデは顔を真っ赤にしながら小さく地団駄を踏んだ。

 しかしそれとは裏腹に不思議と不快感はない。

 むしろ見栄と虚構ばかりの社交界とは違い、本来の自分を晒して軽口を叩き合うなど彼女の前世から通して見ても久しぶりだ。

 懐かしい思いにすら駆られる。

 ひとしきり笑い切ったのか、幾度か深呼吸をしたテオは話を進めた。

「君はフリッツの元婚約者だっただろう? 一応ね、慣例的にあるんだよ。王太子の婚約者に護衛という名の監視を極秘裏につけることが」

「どう、え……? でも神官って……?」

 説明を受けても理解が追いつかないディートリンデを、テオは苦笑いを浮かべながら見つめる。

「コルドゥラ、だっけ? 彼女は正真正銘の神官だよ。もちろん双子じゃない。そして神官は聖女の身の回りの世話をする他にいくつか役割があってね。その一つだとでも思ってくれたらいいよ」

「……この国の神官ってどうなってんのよ」

 大体の察しがついたディートリンデはため息混じりに呟いた。

「ははは。聖女が長く空位の時代があってね。神官に暗殺者の訓練をさせたことがあってその名残さ。僕も詳しくは知らないけど」

「さすがゲームというかなんというか……いや、ゲームじゃないわね。ここは現実……」

「ゲーム?」

「なんでもないわよ。言ったところで信じてくれないだろうしこっちも説明するのが難しいから」

「…………」

 突き放すような物言いの彼女をテオはじっと見つめた。

 正直言って、彼はここに来るまで転生や異世界などという言葉は信じていなかった。

 ただ自分の疑問に答えてくれる極々小さな可能性におびき寄せられたに過ぎない。

 しかし令嬢とは思えないあけすけな言動や妙な言葉が、彼女は本物だと認めざるを得ない。

「ま、そんなわけで、聖女と神官に害をなしたってことでフリッツは死刑にするつもりだよ。その日取りもおそらくそろそろ決まる。前ハイベルク伯爵失踪の件も君になすりつける気満々だろうねぇ」

「……そう……」
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