悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

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5章.妹君と辺境伯は時を刻む

211.王太子は弁明する③

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 テオはマリーの前に出していた腕を下げると、ゆっくりと口を開く。

「……時の聖女の弱みであるユリウスの進退をちらつかせ、陛下を殺させて即位したら一生飼い殺し。マリーとの結婚も法や不文律を捻じ曲げるつもりだったのだろうね。王子の身では法は変えられないけど、国王になれば変えようと思えばいつでも変えられるんだし」

「……兄上、違います……私は聖女と陛下の身を案じて……こちらに」

 やっと絞り出すようにフリッツは言うも、未だ放心状態から抜け出せていない。

 マリーに向けられた瞳は焦点が合わず、空虚な色を見せていた。

「聖殿の警備が手薄の日にたまたま侵入者が入ってきて、いつも厳重に警備を敷いているここになぜか警備が一人もいないんだものねぇ……そりゃ心配にもなるよね。ところで、なんで警備が薄い場所に時の聖女を案内したのかな?」

「私は聞いた。時を早めろと。そっちの神官には暗殺を依頼していたな」

 間髪入れずユリウスの証言が飛ぶ。

 彼に同意するように、リーゼロッテとヘッダは首を縦にした。

「そ、それは……陛下はずっと苦しんでいて……苦しみから解放するために……」

「だからって聖女を利用しちゃダメでしょ。やるなら君の手を汚しなさい。とかいって、ホントにやっちゃダメだけど」

 苦し紛れの言い訳にテオは肩をすくめた。

 ここまで後手に回り続けているフリッツだが、それでも暴かれそうになった時のために色々と準備してきた。

 それも全て水泡に帰したが、言い訳だけでもと事前に考えていた言葉を捻り出す。

 しかしそれも不発に終わり、四面楚歌の絶望感から彼の中に怒りが沸々と湧き上がってきた。

「そ、そもそもなぜ陛下ではなくユリウスがここに? どうやって忍び込んだんだ!?」

 少しでも自分に非が無いことを証明するため、フリッツはユリウスを槍玉に挙げる。

 こんなことをしても大して意味はない、とは分かっていても、マリーの前でこれ以上の醜態は晒したくなかった。

「あ、そうか。君は知らないのか。ユリウス、見せてあげて」

「……分かった」

 ユリウスは面倒そうに瞬きした。

 彼の姿が霞に飲まれるようにぼやけ、次の瞬間──。

「なっ……?! わ、私っ!?」

 ユリウスがいたそこに、フリッツにそっくりな人物が現れる。

 フリッツと違う点といえば、無表情で冷たい雰囲気を纏い、彼に剣を突きつけているところだろうか。

「……幻影魔法だよ。彼しか使えない。だから呼んだんだ。君のフリしてこの中に侵入し、陛下と入れ替わってもらうためにね」

「声までは流石に真似できないが、普段から兵にあまり声をかけてないことはテオからも聞いていた。案の定、何の疑問も持たずに持ち場から離れてくれたから助かったが」

「君が話すのはマリー様か近衛兵長か、最近じゃ宰相くらいだものねぇ……」

 テオの皮肉が届いているのかいないのか、フリッツは目を白黒させている。

(……そうでした……ユリウス様は私が辺境に追放される前にずっと、こうして少年化の事実が漏れないように凌いでいらっしゃったのですもの……)

 テオの言葉とフリッツの様子を見るに、彼は王族の中でもユリウスの事情を知らない人間だったのではなかろうか。

 王太子となれば国内の貴族事情を把握しているはずだろうが、国王がそれを教えていないとなると、ますますクリスタが後継として推されている予想が真実味を帯びてくる。

 その証拠に、クリスタはユリウスの変身を見てもさして驚く様子もなく、会食の時のように静かに動向を探っているように見えた。
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