悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

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5章.妹君と辺境伯は時を刻む

218.お姉様は消えた①

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 リーゼロッテは国王の前、ちょうどユリウスの隣まで歩み寄るとその場に跪いた。

 これまで、国王の前にこうして跪いたことなど一度きりだ。

 奇しくもフリッツとディートリンデの婚約が決まった直後、それを祝う舞踏会が開かれた時以来だ。

 その時は饒舌な父の横で何も粗相をしませんように、と緊張と怯えで一言も喋れなかった。

 国王はテオとよく似た、目尻の垂れた穏やかな表情をリーゼロッテに向ける。

 ここ最近見続けた顔と似ているからか、幾分か解けた緊張に彼女は落ち着いた声を出した。

「まず……陛下、ご快癒したてのところ申し訳ございませんが……一つ、私の要望を聞いていただけませんでしょうか?」

「……よろしい、申してみよ」

 ゆっくりと頷いた国王に、リーゼロッテは顔を上げ、硬い表情を彼に見せる。

「時の魔力を一度……私自身のために使うことをお許しいただけませんか?」

「リーゼ……?」

 リーゼロッテのただならぬ表情に、ユリウスは眉を顰めた。

 彼だけではない。

 他の者も皆、リーゼロッテらしからぬ言葉に戸惑いを隠しきれない。

「……どういうことだ?」

「……その……話がかなり長くなってしまう上、皆さんの賛同が得られないとできないことなので、皆さんにご説明をさせていただきたいのですが……」

 口籠るリーゼロッテを、確かハイベルク家の次女だったか、と国王はまじまじと見つめた。

 彼がたった一度、彼女とまみえた時に抱いた印象は、どこにでもいる貴族令嬢だ。

 双子の姉は同じ顔でも派手な印象だが、リーゼロッテは地に足がついている。

 そういう意味でも、どこにでもいる控えめな令嬢だった。

 その彼女が自分のために特殊な魔力を使いたいと言っている。

 真意を測りかね、国王はその横にいるユリウスに視線を向けた。

『直感』のある彼ならば、少なくとも彼女が信用に値する人間か、その重要な一点だけは分かる。

 しかしユリウスと視線が交わることはなかった。

 彼女を気遣うように見つめる視線は深い愛情に満ち、何も知らない国王ですら彼らが特別な関係なのだということがすぐに分かるほどだ。

『直感』を持つ彼が選ぶほどの女性ならば、おそらくは大丈夫だろう。

 ──しかし、あのユリウスがあんな顔をするようになるとは、と、国王は思わず苦笑しかけた頬を引き締める。

 しかめっ面の国王を考えあぐねていると受け取ったのか、テオが口を開いた。

「父上、彼女は父上を助けた功労者の一人です。褒美として願いを叶えさせていただけませんか?」

「テオドール…………」

「私からもお願い致しますわ。リーゼロッテ様のお人柄は私が保証いたします。彼女は決して悪事に力を利用する方ではございませんわ」

「クリスタ……分かった。ただし、許可は詳しい話を聞いてからだ」

「ありがとうございます」

 リーゼロッテは再び頭を下げた。

 そしてテオの横にいる退屈そうに腕組みをしていたディートリンデに視線を移す。

「あの……お姉様」

「……私はあんたの姉さんじゃないわよ」

 吐き捨てるように言うと、ディートリンデは気まずそうに顔を逸らした。

 彼女はずっと、リーゼロッテに全てをなすりつけて楽に生きてきた。

 その結果がこれだ。

 リーゼロッテは時の聖女として味方に恵まれ、ディートリンデは全てを失い牢獄に入れられた。

 今更どんな顔をして彼女に向き合えばいいのか、ディートリンデには分からない。

 しかしリーゼロッテは、彼女との距離を伺うように歩み寄ると優しく語りかけた。

「……分かっています。貴女は……どなたですか?」
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