乙女ゲームのモブ令嬢に転生したので、カメラ片手に聖地巡礼しようと思います。

見丘ユタ

文字の大きさ
10 / 36

10.カメラで、撮りたいと思ってしまった①

しおりを挟む
「ミレディ嬢、今日もまた大量ですね」

 アルはどっさりと積まれたアルバムの奥でいつもの微笑を浮かべた。

 あれから、よくふたりで会うようになった。

 ある時は聖地を巡り、ある時は攻略対象を撮影する。またある時は、こうして男子寮近くのテラスで写真を眺め合う。

 おかげでほんの少しだが、アルの感情がわかるようになってきた。嬉しい時は声が弾み、沈んでいる時は顔を見せまいとする。
 モブといえど、生きている人間。ポーカーフェイスの中にも感情の変化は当たり前にある。

 ちなみにリアは留守番だ。

 連れてきてもいいかな、とも思ったのだが、主人あるじの婚約にヤキモキしてる彼女のことだ。きっとアルを質問攻めにするだろうし、わたしにもスッポン級に食らい付いて尋問してくるに違いない。
 そうなったら、ちょっとどころじゃなくめんどくさい。

 そもそもアルはカメラに理解があり、聖地巡礼にも付き合ってくれる友達、いわば同志なのだ。
 婚約だのなんだのという契約上の関係になるなど今更考えられない。うんうん、そうだそうだ。

 ──そんな楽しい日々が続き、わたしたちは学院で2年目の春を迎えていた。

 春といえば、『告白の丘』で満開の大樹を見れるはずだった。
 が、残念ながら満開前に大雨が続き、花の季節が過ぎてしまった。
 ゲームのクライマックスシーンがシャッターチャンスということらしい。まったく、粋なことをしてくれる。

「しかし、きょうはいつにも増して多いですね……」
「ええ、いつも同じような風景ばかりでしたので、きょうは趣向を変えてみました」

「それは楽しみですね」と言う口元の笑みは相変わらず変わらない。
 ただ、声色が少し弾んでいるように感じられたので、多分これは彼の本心からの言葉だろう。

 ぱらり、とアルバムをめくった彼の瞳はわずかに開かれた。驚いたようだ。

「きょうのアルバムは攻略たいしょ……じゃなくて、人物を写したものを主に持参しました」
「……なるほど、確かにこれは今までと趣向が違いますね……」

 うなずきながらめくり続けるアルの手は、とあるページでぴたりと止まった。息を呑むような音が聞こえ、何か真剣に考え込むようにじっと写真を見つめている。

 ページをめくる時は、いつも同じペースでテンポ良く見ていくのに珍しい。

 なにがそんなに引っかかるのか、とそっとのぞきこんでみると、どうやらハノンとローランが一緒に写っているページのようだ。
 柔らかく微笑むふたりの写真に思わずわたしもにやにやしてしまう。

 のぞきこむわたしに気づかないほどに、アルは集中していた。いや、心ここにあらず、という感じだ。少々視線が険しい。

 ……も、もしかしてアルって……。

 わたしはひとつの可能性に気づき、あとずさりした。

 ……ハノンのことが好き?

 これだけ真剣に写真を見てるし、多分そうだろう。

 ということは、厳しい視線もローランに嫉妬してるのかもしれない。

 そりゃハノンは可愛いよ?
 超可愛くて小動物的な可愛さと可憐さもあって、何が言いたいかというとめっちゃ可愛いよ? 惚れちゃうのも分かるよ?
 でももうローランっていう決まった相手がいるからなぁ……。写真からふたりに入り込む隙間がないってわかってくれたらいいんだけど。

 いや、アルもいい人なのは分かってる。
 わたしに良くしてくれるし、いつもニコニコしてくれるし、急に出かけるってなってもついて来てくれるし。リアと同じくらい信頼できる人だなと思ってるよ? 
 できることなら、彼の恋が成就してほしいとも思っている。

 ただ、恥ずかしがり屋なのかアルはハノンと接点がないのよね。お互い話しかけたりとかもないし。
 それはもう、1年彼女をパパラッチしまくったわたしが一番理解してる。

 この奥手男子の恋、応援したい気持ちもあるけど……結果がわかってる分それは残酷な気もする。

 ……うん、ごめん、アル。背中を押してあげることはできないかも。

 脳内でそう結論づけると、わたしは素知らぬ顔で口を開いた。

「よく撮れてるでしょう?」
「え、ええ……ローラン王子殿下と、ブラモンド男爵家のご令嬢ですね」

 後ろから声をかけられると思ってなかったのか、アルは驚いたように振り向くと再び笑みを作った。

「ええ、よくご存知で」
「なんとなく放っておけない女性だとローラン……王子殿下が仰って……たのを、友人が聞きましてね」

 珍しく歯切れが悪い。

 やっぱりハノンのことが……。

 同志とはいえ、この手の恋愛、まして失恋確定の恋愛をしている人にどう声をかけていいか分からない。
 前世でも今世でも、いわゆる喪女なわたしにはそういった経験が全くない。

 わたしは曖昧に微笑むだけしかできない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?

たかつじ楓@書籍発売中
恋愛
「レベッカ。俺は何度も何度も、君と結ばれるために人生をやり直していたんだ」 『冷徹公爵』と呼ばれる銀髪美形のクロードから、年に一度の舞踏会のダンスのパートナーに誘われた。 クロード公爵は悪役令嬢のレベッカに恋をし、彼女が追放令を出されることに納得できず、強い後悔のせいで何度もループしているという。 「クロード様はブルベ冬なので、パステルカラーより濃紺やボルドーの方が絶対に似合います!」 アパレル業界の限界社畜兼美容オタク女子は、学園乙女ゲームの悪役令嬢、レベッカ・エイブラムに転生した。 ヒロインのリリアを廊下で突き飛ばし、みんなから嫌われるというイベントを、リリアに似合う靴をプレゼントすることで回避する。 登場人物たちに似合うパーソナルカラーにあった服を作ってプレゼントし、レベッカの周囲からの好感度はどんどん上がっていく。 五度目の人生に転生をしてきたレベッカと共に、ループから抜け出す方法を探し出し、無事2人は結ばれることができるのか? 不憫・ヤンデレ執着愛な銀髪イケメン公爵に溺愛される、異世界ラブコメディ!

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃
恋愛
僕、ミカエル・アルフォントは恋に落ちた。 義姉クラリス・アルフォントに。 義姉さまは、僕の気持ちはもちろん、同じく義姉さまに恋している、この国の王子アルベルトと友人のジェスターの気持ちにも、まったく、これっぽっちも気がつかない。 邪魔して、邪魔され、そんな日々。 ある日、義姉さまと僕達3人のバランスが崩れる。 魔道士になった義姉さまは、王子であるアルベルトと婚約する事になってしまったのだ。 それでも、僕は想い続ける。 そして、絶対に諦めないから。 1番近くて、1番遠い……そんな義姉に恋をした、一途な義弟の物語。 ※不定期更新になりますが、ストーリーはできておりますので、きちんと完結いたします。 ※「鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった」に出てくる、ミカエル・アルフォントルートです。 同じシチュエーションでリンクしているところもございますが、途中からストーリーがまったく変わります。 別の物語ですので「鈍感令嬢に〜」を読んでない方も、単独でお読みいただけると思います。 ※ 同じく「鈍感令嬢に〜」にでてくる、最後の1人。 ジェスタールート「グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~」連載中です。 ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。 ※連載中に題名、あらすじの変更、本文の加筆修正等する事もございます。ストーリー展開に大きく影響はいたしませんが、何卒、ご了承くださいませ。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~

藍上イオタ
恋愛
「完全無欠の悪女、デステージョに転生してる!?」  家族に搾取され過労で死んだ私が目を覚ますと、WEB漫画世界に転生していた。 「悪女上等よ! 悪の力で、バッドエンドを全力回避!」  前世と違い、地位もお金もあり美しい公爵令嬢となった私は、その力で大好きなヒロインをハッピーエンドに導きつつ、自分のバッドエンドを回避することを誓う。  婚約破棄を回避するためヒーローとの婚約を回避しつつ、断罪にそなえ富を蓄えようと企むデステージョだが……。  不仲だったはずの兄の様子がおかしくない?  ヒロインの様子もおかしくない?  敵の魔導師が従者になった!?  自称『完全無欠の悪女』がバッドエンドを回避して、ヒロインを幸せに導くことはできるのか――。 「小説化になろう」「カクヨム」でも連載しています。 完結まで毎日更新予定です。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...