乙女ゲームのモブ令嬢に転生したので、カメラ片手に聖地巡礼しようと思います。

見丘ユタ

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27.カメラのご褒美①

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「殿下、ひとつご報告がございます」

 エリミーヌが去りひと段落した、と皆がホッとした頃、アルがローランの前にひざまずいた。

 そのかしこまった様子に、なごやかになりかけた周囲はまた引き締まった雰囲気になる。

 あー……この流れもシナリオにない。きょうはイレギュラーばかり起きるなぁ。
 おかげで撮影もはかどるけど。

「なんだ」
「実は本日、皆様にお配りした写真以外は僕が撮ったものではございません」

 一瞬ざわり、としかけたが、ローランが手で制する。

「では誰が?」

 すぐさまローランが問う。まるで既定路線のようなテンポの良さだ。アルは顔を上げ、そのまま首をこちらに向けると、

「あちらのフィーレ子爵家のご令嬢、ミレディ嬢がこの2年間、撮影し続けてくれていました」

 と、いつものように口元に微笑を浮かべた。

 みなの視線がわたしに集まる。2階でカメラ構えて寝そべっている、わたしに。

 一斉にぐりん、と向いた顔、ちょっと怖いです。
 生まれてこの方、こんなに注目されるなんてこと、前世でも今世でもなかったので思わず「ひぇ……」と声を上げそうになった。

「……ミレディ・フィーレ、こちらに降りてきてくれないか?」

 ローランが呼んでいる。

 無理。むりむりむり。推しに存在確認されて名前呼ばれるとかなにそのご褒美。

 あ、まずい。なんとか座れたけど腰が抜けた。

 隣でリアが「お嬢様、皆様に見られています。早急にお立ちくださいっ!」と慌てている。

 ごめんだけど立てないわ。わたしここで一生を終えてもいい。享年、17歳。この世界に来て2年。儚いけど図太い人生でした。

 首を小刻みに振る。引っ張り上げようにも、リアの力ではわたしを立たせることはできなかった。

「ミレディ様」

 聞き覚えのある温かな声が、すぐ近くで聞こえた。

 振り向くと、いつの間にかそこにはアルがいた。わざわざ2階に上がってきてくれたのだろう。

 やっぱりいつものアルだ。アレンドル、なんて呼ばれてるのは何かの間違いだったんじゃないかな。

 笑みを浮かべてこちらに向かってくる彼に、そんな期待が胸をかすめる。

「腕を」と言われ、素直に彼の肩に腕を回した。

 肩を貸して立たせてくれるなんて優しい──と思っていたら身体が宙に浮いた。

「……!? ちょ、あ、アル……?!」
「まぁ! お嬢様……!」

 眼前にはアルの顔。背中と膝下に、自分以外の肌の温もりがドレス越しに伝う。

 いわゆる、お姫様抱っこをされているのだ。わたしが、アルに。

 いやいやいやいや……! ど、どどど、どういうことなの……?!

 驚きのあまり固まっていると、アルは優しげな瞳をこちらに向けた。

「しっかり掴まってくださいね」

 微笑みを向けられ、自分でもわかるくらい顔が熱く、真っ赤になった。

 ゆっくりとローランの方へと歩き出した彼を直視できない。
 至近距離すぎる。というか、肌が触れすぎる。息もかかる。かぐわしい匂いがする。やだ、匂いなんてわたし、変態みたいじゃない。

 いやいや、前世でも今世でもこんなシチュエーションなかったよ。これで平常心でいろって方が恋愛経験値ゼロのわたしにはハードル高いよ……!

 恥ずかしさとむず痒さに暴れ出しそうになるのを必死で抑えて、黙って彼にお姫様抱っこされるしかない。
 わたしが暴れたら階段を降りてるアルもろともまっさかさまに落ちる。
 もちろんみんなに見られながら。

 いや、その方がむしろいいか? いやいや、わたしはいいけどアルを巻き込むのは忍びない。

 リアに至っては「お嬢様、おめでとうございます!」などと意味のわからないことをのたまっている。

 ホント、意味がわからない。

 わたしのことをなんとも思ってないにしても、アルはハノンに、好きな女の子に他の子を抱っこしてる姿を見せてもいいの……?

 アルを盗み見る。
 いつも通りの笑みを浮かべる形のいい唇。優しげなこげ茶色の瞳に、長いまつ毛が少しだけ影を作り絶妙なコントラストを描いている。
 わたしを抱えているのにも関わらず、背筋がちっとも曲がらない。
 モブ男子よろしく、なんの変哲もない黒の目立たないタキシードも、アルが一番着こなしがいいように見えた。

 ……ズルいわ。アルだけ余裕。アルだけカッコいい。わたしだけこんなドキドキしてるなんて。

 いつものわたしならカメラを向けてると思う。けど、そんなことは頭からすっぽり抜けていた。

 やがてゆっくりとローランのもとにたどり着くと、わたしは支えられながら降ろされた。
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