乙女ゲームのモブ令嬢に転生したので、カメラ片手に聖地巡礼しようと思います。

見丘ユタ

文字の大きさ
33 / 36

33.カメラとふたり②

しおりを挟む
 彼の手は頬から幹へ、ちょうどわたしを閉じ込めるように押し付けられる。

 しかも幹が斜めに倒れ気味なせいか、肌こそ触れ合ってないものの、若干アルが覆いかぶさっているような体勢だ。

 こ、これが世に言う壁ドン……いや、木の幹にしてるから幹ドンか? 幹ドンなのか?
 壁ドンすらされたことないのに、幹ドンなんて。

 これで冷静でいろとか無理。クラクラしてきた。

 目を回しかけているはずなのに、さっきからずっとアルの視線から逃れられない。

「好きなんです。ミレディ様、あなたが。だから失いたくなかった。あなたと学内をまわるのは、僕の特権でありたかったんです」

 熱っぽい視線と焦がれるような声に心臓が跳ね上がる。

 ……好き? え、アルがわたしを? わたしは目立たないモブよ? それをこんな素敵な人が?

 いやいや、でも待って。いちおう、一応確認しなきゃ。

「で、でも……ハ、ハノン様のことをお慕いしているのでは……?」
「……? 僕がですか?」
「は、はい……その、ハノン様の写真を熱心に見られていたので……」

 遠慮がちにうなずくと、きょとんとしていたアルはくすり、と笑い出した。

「それはローラン様のことを見てたんです。正確には、ハノン嬢と関わっている時のローラン様、ですね」
「……え?」
「僕の前、それどころかエリミーヌ嬢含め、どんな女性の前でもあんなにほがらかに笑うローラン様を見たことがなかったんです。あなたの撮った写真を見るまでは」
「は、はぁ……」

 どういうことだろう。わたしがゲームでよく見ていた笑顔そのものなんだけどな。

 ……あ、わたしがプレイヤー……ハノンだったからか。だから笑顔を向けてくることが多かったのかも。
 たしかに、エリミーヌの前ではローランは真面目な顔か渋い顔の立ち絵がほとんどだった気がする。他の令嬢の前でも滅多に笑わないのかもしれない。

 わたしがうなずくのを見て、アルは少し恥ずかしそうに頬をかいた。

「……実は僕は、エリミーヌ嬢との婚約破棄に反対でした」
「え? そうだったんですか?」
「ええ。歴史的にも多少問題のある王妃はいましたし……エリミーヌ嬢に猫をかぶれる技量が多少なりともあるのならば、あとはローラン様のお人柄や手腕でなんとかなるのでは、と」

 マジか。

 でもたしかに、一国の王子が婚約破棄なんて結構なビッグニュースよね。
 次の婚約者を決めようにも候補が限られてくるだろうし、次の人がまともという確証を得られるまで審査するにしてもかなり時間がかかる。安易にオススメしたくない気持ちもわかる。

 そうなんですね、と何度もうなずくわたしに、アルは微笑みかけた。

「それがあの写真を見て変わりました。ローラン様の魅力を引き出す方はエリミーヌ嬢ではなくハノン嬢だと。ミレディ様にそれを気付かされたのです」
「そんな……わたしはなにも……」

 首を振る。
 いやマジで、何もしてない。ただ自分のために写真を撮っていただけだ。

 それがこんな大ごとになって、しかもアルが告白してきてあまつさえ幹ドンされることになるなんて思ってもみなかった。

「そんなあなただからこそ、好きになった。騙していてすみません。でもこの気持ちにいつわりはありません」

 アルから向けられる熱烈な視線に、思わずたじろいだ。

 腰が砕けて足に力が入らない。幹に寄りかかってるおかげでなんとか立っているような状態だ。

 逃げ出したい、無理、だって……アルだよ?

 優しくて、謙虚で、丁寧で、頭も良くて、どこでも誘ったらついて来てくれて、困ったことがあったら助けてくれて、その上宰相の息子で……完璧じゃん。
 そんな人がわたしと……。

 一瞬想像しかけて、慌てて首を振った。危ない。そんな妄想すら許されるような相手じゃないよ。おこがましい。

 それに……。

「わたし……こんな変な趣味ですし……卒業後もか、カメラマンになるつもりで……っそもそもアル様とは釣り合いがっ……!」
「わかっています」

 言い連ねるわたしの声を遮って、アルはうなずいた。

「僕は……将来宰相になります。今は無理ですが、実力で。ミレディ様はキャメィラを仕事にしたい、各地を巡りたいとおっしゃられましたが、それには国の安定が必要不可欠です。平和でなければあなたは安心して飛びまわれない……僕にその手伝いをさせてもらえませんか?」

 そう言ってわたしの顔をのぞきこむ。

 頬が赤く見えるのは、夕陽に照らされているからだけではないだろう。
 そしてわたしも、アルから見たらそう見えているに違いない。なにせ人生初の告白。動揺するなという方が無理だ。

 というか何も考えられない。自分の気持ちすらも、告白の熱に浮かされてあいまいだ。

 熱くなる頬を両手で覆った。

「アル様……わ、わたし、わたしはその……突然のことで、なななんと言ったらいいのか……」
「いいんです。返事はすぐじゃなくて。あなたにとって大事な決断ですし、家のことも、将来のこともあります。だから……」

 頬に当てた手に、彼の手が重なる。熱がさらに上がっていく気がした。

「少しでいいんです。少しの間だけでも真剣に、僕のことを考えてもらえませんか?」

 のぞきこむ彼にまっすぐに見つめられたらもう、どうしていいかわからない。

「は、……はい……」

 と、真っ赤な顔で答えるのがやっとだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】悪役令嬢の私を溺愛した冷徹公爵様が、私と結ばれるため何度もループしてやり直している!?

たかつじ楓@書籍発売中
恋愛
「レベッカ。俺は何度も何度も、君と結ばれるために人生をやり直していたんだ」 『冷徹公爵』と呼ばれる銀髪美形のクロードから、年に一度の舞踏会のダンスのパートナーに誘われた。 クロード公爵は悪役令嬢のレベッカに恋をし、彼女が追放令を出されることに納得できず、強い後悔のせいで何度もループしているという。 「クロード様はブルベ冬なので、パステルカラーより濃紺やボルドーの方が絶対に似合います!」 アパレル業界の限界社畜兼美容オタク女子は、学園乙女ゲームの悪役令嬢、レベッカ・エイブラムに転生した。 ヒロインのリリアを廊下で突き飛ばし、みんなから嫌われるというイベントを、リリアに似合う靴をプレゼントすることで回避する。 登場人物たちに似合うパーソナルカラーにあった服を作ってプレゼントし、レベッカの周囲からの好感度はどんどん上がっていく。 五度目の人生に転生をしてきたレベッカと共に、ループから抜け出す方法を探し出し、無事2人は結ばれることができるのか? 不憫・ヤンデレ執着愛な銀髪イケメン公爵に溺愛される、異世界ラブコメディ!

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃
恋愛
僕、ミカエル・アルフォントは恋に落ちた。 義姉クラリス・アルフォントに。 義姉さまは、僕の気持ちはもちろん、同じく義姉さまに恋している、この国の王子アルベルトと友人のジェスターの気持ちにも、まったく、これっぽっちも気がつかない。 邪魔して、邪魔され、そんな日々。 ある日、義姉さまと僕達3人のバランスが崩れる。 魔道士になった義姉さまは、王子であるアルベルトと婚約する事になってしまったのだ。 それでも、僕は想い続ける。 そして、絶対に諦めないから。 1番近くて、1番遠い……そんな義姉に恋をした、一途な義弟の物語。 ※不定期更新になりますが、ストーリーはできておりますので、きちんと完結いたします。 ※「鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった」に出てくる、ミカエル・アルフォントルートです。 同じシチュエーションでリンクしているところもございますが、途中からストーリーがまったく変わります。 別の物語ですので「鈍感令嬢に〜」を読んでない方も、単独でお読みいただけると思います。 ※ 同じく「鈍感令嬢に〜」にでてくる、最後の1人。 ジェスタールート「グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~」連載中です。 ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。 ※連載中に題名、あらすじの変更、本文の加筆修正等する事もございます。ストーリー展開に大きく影響はいたしませんが、何卒、ご了承くださいませ。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~

藍上イオタ
恋愛
「完全無欠の悪女、デステージョに転生してる!?」  家族に搾取され過労で死んだ私が目を覚ますと、WEB漫画世界に転生していた。 「悪女上等よ! 悪の力で、バッドエンドを全力回避!」  前世と違い、地位もお金もあり美しい公爵令嬢となった私は、その力で大好きなヒロインをハッピーエンドに導きつつ、自分のバッドエンドを回避することを誓う。  婚約破棄を回避するためヒーローとの婚約を回避しつつ、断罪にそなえ富を蓄えようと企むデステージョだが……。  不仲だったはずの兄の様子がおかしくない?  ヒロインの様子もおかしくない?  敵の魔導師が従者になった!?  自称『完全無欠の悪女』がバッドエンドを回避して、ヒロインを幸せに導くことはできるのか――。 「小説化になろう」「カクヨム」でも連載しています。 完結まで毎日更新予定です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...