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2章
47.これが普通
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ピクリとも動かないマカセの姿に、流石に不安になってきた。
「……え、えーと……彼、生きてる?」
「あんなヒョロガリでも一応騎士だかンな。生きてるだろ。伸びてるだけだ」
ほっとけ、とヴィクターは手を振った。
たしかに、「うーん」とかすかに低い唸り声が聞こえる。大丈夫ということにしておこう。
彼を蹴り上げた黒馬は、涼しい顔をしている。動物のことはあまりよくわからないが、憂さ晴らしをして清々してるようにも見えた。
その黒馬の後ろ足を、少女は注意深く調べている。やがて調べ終わったのか、アルトとヴィクターの前に小走りに走ってきた。
「あの、ありがとうございました」
「いや、そんな、ボクらは何も。えぇと……」
「テーアです。厩舎管理人、ガーラの娘です。騎士様、ようこそおいでくださいました」
ぺこり、と礼をしたテーアは、アルティーティより少し年上、だいたい17歳くらいだろうか。
大きな瞳にそばかすが可愛らしい。元気の良さげな金髪のポニーテールが揺れる。
緩い作業着を着ているが、中身はかなりのしっかり者だということは言動を見ていればわかった。
テーアはジークフリートの方に視線を移すと、頬をピンク色に染めてはにかんだ。
「ジークフリート様も……お久しぶりです」
「ああ。テーアも立派になったな。黒馬の担当になるとは」
「いえ、そんな。私などまだまだです」
「怪我はないか?」
「はい、皆様のおかげで怪我はありません。黒馬もこのとおり元気です」
好意を込めたテーアの微笑みにも、ジークフリートは表情を変えない。わずかに頷くのみだ。
社交場で女性に囲まれることが多かった彼にとって、好意を向けられるのは日常茶飯事。相手に気を持たせないためにそっけない態度を取るのが常だ。
それで去る相手もいるし、「氷の視線よ!」と余計に盛り上がる相手もいる。テーアはどうやら後者のようだ。
そんな彼らの恋模様に、鈍感なアルティーティはやはり気づかない。
(テーアさんも顔が赤い気が……てことは、やっぱりわたしが隊長に触られると顔が赤くなるのは普通のことなのかも)
まだ背に受けた熱と彼特有の柔らかな匂いが離れない。
ジークフリートに関われば、きっと誰もが恥ずかしくなって赤くなる。今もまだ赤い気がする。それは普通の、正常な反応なのだろう。
アルティーティはうんうん、と自分を納得させるようにうなずいた。
「クロ?」
テーアの呼び声にも振り向かず、黒馬はゆっくりと歩き出し、そして止まった。
アルティーティの目の前に。
(黒馬って大きいなぁ。今まで乗ってた馬とはまた全然違う)
遠目で見ても真っ黒で目立っていたが、近くで見るとまた全然違う。
整えられた毛並みの艶やかさと、ふわふわと風になびいているたてがみ。たなびく長い尻尾には思わず触りたくなる。蹴られそうで怖いからやらないが。
アルティーティよりもずっと高いところにある黒い瞳は凪のように澄んでいて、じっと彼女を見つめていた。
かと思ったら、その鼻先がぐりぐりとアルティーティに押しつけられてくる。
「あ、あれ? どうしたのかなこのコ。ちょ、待って、くすぐったい……ふふふっ、やめっあははは」
思ったよりも柔らかい毛がアルティーティの首をくすぐる。笑い死にしそうだが、黒馬はやめてくれない。
意味もわからず爆笑しながら、隣にいるヴィクターに助けて欲しいと視線を送ると、代わりに生温かい視線を返された。
「……懐かれてンなー」
「そ、そうなのこれ!?」
「ああ、伊達に馬乗ってねーよ」
「驚きました……まさかクロが選ぶなんて……」
「あははは………………え?」
目を丸くしたテーアの声に、くすぐったさも吹き飛んでしまった。
「……え、えーと……彼、生きてる?」
「あんなヒョロガリでも一応騎士だかンな。生きてるだろ。伸びてるだけだ」
ほっとけ、とヴィクターは手を振った。
たしかに、「うーん」とかすかに低い唸り声が聞こえる。大丈夫ということにしておこう。
彼を蹴り上げた黒馬は、涼しい顔をしている。動物のことはあまりよくわからないが、憂さ晴らしをして清々してるようにも見えた。
その黒馬の後ろ足を、少女は注意深く調べている。やがて調べ終わったのか、アルトとヴィクターの前に小走りに走ってきた。
「あの、ありがとうございました」
「いや、そんな、ボクらは何も。えぇと……」
「テーアです。厩舎管理人、ガーラの娘です。騎士様、ようこそおいでくださいました」
ぺこり、と礼をしたテーアは、アルティーティより少し年上、だいたい17歳くらいだろうか。
大きな瞳にそばかすが可愛らしい。元気の良さげな金髪のポニーテールが揺れる。
緩い作業着を着ているが、中身はかなりのしっかり者だということは言動を見ていればわかった。
テーアはジークフリートの方に視線を移すと、頬をピンク色に染めてはにかんだ。
「ジークフリート様も……お久しぶりです」
「ああ。テーアも立派になったな。黒馬の担当になるとは」
「いえ、そんな。私などまだまだです」
「怪我はないか?」
「はい、皆様のおかげで怪我はありません。黒馬もこのとおり元気です」
好意を込めたテーアの微笑みにも、ジークフリートは表情を変えない。わずかに頷くのみだ。
社交場で女性に囲まれることが多かった彼にとって、好意を向けられるのは日常茶飯事。相手に気を持たせないためにそっけない態度を取るのが常だ。
それで去る相手もいるし、「氷の視線よ!」と余計に盛り上がる相手もいる。テーアはどうやら後者のようだ。
そんな彼らの恋模様に、鈍感なアルティーティはやはり気づかない。
(テーアさんも顔が赤い気が……てことは、やっぱりわたしが隊長に触られると顔が赤くなるのは普通のことなのかも)
まだ背に受けた熱と彼特有の柔らかな匂いが離れない。
ジークフリートに関われば、きっと誰もが恥ずかしくなって赤くなる。今もまだ赤い気がする。それは普通の、正常な反応なのだろう。
アルティーティはうんうん、と自分を納得させるようにうなずいた。
「クロ?」
テーアの呼び声にも振り向かず、黒馬はゆっくりと歩き出し、そして止まった。
アルティーティの目の前に。
(黒馬って大きいなぁ。今まで乗ってた馬とはまた全然違う)
遠目で見ても真っ黒で目立っていたが、近くで見るとまた全然違う。
整えられた毛並みの艶やかさと、ふわふわと風になびいているたてがみ。たなびく長い尻尾には思わず触りたくなる。蹴られそうで怖いからやらないが。
アルティーティよりもずっと高いところにある黒い瞳は凪のように澄んでいて、じっと彼女を見つめていた。
かと思ったら、その鼻先がぐりぐりとアルティーティに押しつけられてくる。
「あ、あれ? どうしたのかなこのコ。ちょ、待って、くすぐったい……ふふふっ、やめっあははは」
思ったよりも柔らかい毛がアルティーティの首をくすぐる。笑い死にしそうだが、黒馬はやめてくれない。
意味もわからず爆笑しながら、隣にいるヴィクターに助けて欲しいと視線を送ると、代わりに生温かい視線を返された。
「……懐かれてンなー」
「そ、そうなのこれ!?」
「ああ、伊達に馬乗ってねーよ」
「驚きました……まさかクロが選ぶなんて……」
「あははは………………え?」
目を丸くしたテーアの声に、くすぐったさも吹き飛んでしまった。
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