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出会い
彼女の色
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――― 綺麗な色。
初めて見た彼女の色彩に目を奪われた。なんて美しいのだろう。この人には世界はこんなにキラキラした素晴らしいものに見えているのだろうか。
世界が辛く苦しい物ばかりに見えている私とは大違いだ。
きっととても幸せな人なんだろう。
私はその時こころに穴が空いていた。そこにはまる何かを探しに立ち寄った小さな近所の書店。見付けたのは本ではなく、店先の小さな花火大会のポスターだった。
輝く花火に、幸せそうな見上げる人々。夜の絵だというのに、思わず目を細めるほどに眩しく見えた。
「花火大会、気になるの?」
どのくらいそのポスターを見つめていたのか、気付くと隣に年配の女性が立っていた。にこにこ、人の良さそうな笑みで私を見ている。
「あ、えっと、綺麗な絵だったので…。」
思わずすみません、と小さく呟く。知らない人と話すのは久しぶりだった。
「あら、嬉しいわ。これね、私の孫が描いたのよ。」
「あ、そ、そうなんですか。」
すごく綺麗、感動した、なんて言えたら良いのに、私は上手く言葉にできなかった。店先の風鈴がちりん、と音を立てる。女性は黙り、私は何か言うべきなのかと頭の中で焦る。
「…孫に伝えたら喜ぶわ。他にも絵を描いてるから、良かったらうちに見に来る?」
「えっ、あ、その、それは、用事があるので…」
用事なんか無かった。ただただ、知らない人と話すことから逃れたくて、すごく興味があって見てみたいのに、思わず断った。女性は少し寂しそうに笑いながら、残念、と言う。
「良ければ、春宮いちは、って聞いたらこの絵を思い出してあげてね。孫の名前なの。」
「は、はい。」
上手く言葉の出ない自分を呪いながら、名前だけはしっかりと記憶した。春宮いちは、春宮いちはさん。上品な女性のお孫さんなら、きっとお嬢様みたいな人なんだろう。絵の通り、幸せな人生を歩み、世界がキラキラと美しく見えている人なのだろう。羨ましい。きっと私とは大きく違う。勝手な妄想をしながら、書店に入ることなく私は帰路についた。今日はなんだか早く眠りたい。
初めて見た彼女の色彩に目を奪われた。なんて美しいのだろう。この人には世界はこんなにキラキラした素晴らしいものに見えているのだろうか。
世界が辛く苦しい物ばかりに見えている私とは大違いだ。
きっととても幸せな人なんだろう。
私はその時こころに穴が空いていた。そこにはまる何かを探しに立ち寄った小さな近所の書店。見付けたのは本ではなく、店先の小さな花火大会のポスターだった。
輝く花火に、幸せそうな見上げる人々。夜の絵だというのに、思わず目を細めるほどに眩しく見えた。
「花火大会、気になるの?」
どのくらいそのポスターを見つめていたのか、気付くと隣に年配の女性が立っていた。にこにこ、人の良さそうな笑みで私を見ている。
「あ、えっと、綺麗な絵だったので…。」
思わずすみません、と小さく呟く。知らない人と話すのは久しぶりだった。
「あら、嬉しいわ。これね、私の孫が描いたのよ。」
「あ、そ、そうなんですか。」
すごく綺麗、感動した、なんて言えたら良いのに、私は上手く言葉にできなかった。店先の風鈴がちりん、と音を立てる。女性は黙り、私は何か言うべきなのかと頭の中で焦る。
「…孫に伝えたら喜ぶわ。他にも絵を描いてるから、良かったらうちに見に来る?」
「えっ、あ、その、それは、用事があるので…」
用事なんか無かった。ただただ、知らない人と話すことから逃れたくて、すごく興味があって見てみたいのに、思わず断った。女性は少し寂しそうに笑いながら、残念、と言う。
「良ければ、春宮いちは、って聞いたらこの絵を思い出してあげてね。孫の名前なの。」
「は、はい。」
上手く言葉の出ない自分を呪いながら、名前だけはしっかりと記憶した。春宮いちは、春宮いちはさん。上品な女性のお孫さんなら、きっとお嬢様みたいな人なんだろう。絵の通り、幸せな人生を歩み、世界がキラキラと美しく見えている人なのだろう。羨ましい。きっと私とは大きく違う。勝手な妄想をしながら、書店に入ることなく私は帰路についた。今日はなんだか早く眠りたい。
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