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出会い
優しい言葉
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ぼんやり、点滴の跡を見つめていた。自室の椅子の上で、次は何を描こうか。空想を巡らせ、理想をたくさん思い描いて、不意に現実に戻される。繰り返し。
「いちは。ポスター見てきたよ。」
反射的に声の方を見た。閉められた自室の扉越しに、祖母の声がする。
「おばあちゃん、うちにあるんだからわざわざ行かなくても、」
「そうしたらね、ジーッとポスターを見てる子がいたのよ。綺麗な絵だって言ってたわ。」
「…そうなんだ、ありがとう。」
おばあちゃんは私の話は聞かない。いつも通り。でも今日は少し嬉しい内容だった。
「いちはの名前教えておいたからね。それから、台所にスイカがあるから食べなさいね。」
扉を開けることはせず、祖母の遠ざかる気配がした。
「…趣味なんだから、名前売るなって。」
複雑な気持ちで呟く。ああ、今日はせっかくの休日だけど、絵を描くのは止めよう。
立ち上げただけで操作していなかったパソコンからペイントソフトを閉じ、インターネットブラウザを開いた。いつも絵を公開しているサイトにアクセスして、いくつか届いているメッセージを確認する。
『春宮さんの絵、相変わらず綺麗です』『どんなソフト使ってるんですか?』『写真みたい!』
絵を褒めてくれて、反応してもらえる。私が生きている実感を感じるのは、この瞬間だ。自己顕示欲が満たされる。絵を描く人間はそういうヤツが多いんだと思っている。私も、例に漏れずそういうヤツの一人ってことなんだろう。
「ありがとうございます、と。」
返信をしている途中、不意に新しくメッセージを知らせるアイコンが目に映る。また誰か反応してくれたのだろうか。いつも通り、メッセージを開く。
『はじめまして。突然のメッセージ失礼します。
とても綺麗な絵に感動しました。花火大会のポスターも描かれてますよね。私も春宮さんの世界の住民になれたらいいのに、なんて。
よろしければまた絵を見たいです。』
私の世界の住民に、なんて。初めて言われた。思わず笑ってしまう。嬉しい。随分と丁寧なメッセージだ。しかし気になるのは、ポスターの話。花火大会のポスターなんてこの地域にしか張り出されていない。
「…さっきのおばあちゃんの話の人だったりして。」
インターネットは広大だけど、名前の威力は絶大だ。〝春宮〟としか公開してはいないし、花火大会のポスターにも名前は載せられていないけど。
もしかしたら。
なんとなく、ぼんやりと何かを期待して、メッセージを返す。
『良かったら、もっとお話しませんか?』
ふう、と息をついて、私はスイカを食べようと部屋を出た。
「いちは。ポスター見てきたよ。」
反射的に声の方を見た。閉められた自室の扉越しに、祖母の声がする。
「おばあちゃん、うちにあるんだからわざわざ行かなくても、」
「そうしたらね、ジーッとポスターを見てる子がいたのよ。綺麗な絵だって言ってたわ。」
「…そうなんだ、ありがとう。」
おばあちゃんは私の話は聞かない。いつも通り。でも今日は少し嬉しい内容だった。
「いちはの名前教えておいたからね。それから、台所にスイカがあるから食べなさいね。」
扉を開けることはせず、祖母の遠ざかる気配がした。
「…趣味なんだから、名前売るなって。」
複雑な気持ちで呟く。ああ、今日はせっかくの休日だけど、絵を描くのは止めよう。
立ち上げただけで操作していなかったパソコンからペイントソフトを閉じ、インターネットブラウザを開いた。いつも絵を公開しているサイトにアクセスして、いくつか届いているメッセージを確認する。
『春宮さんの絵、相変わらず綺麗です』『どんなソフト使ってるんですか?』『写真みたい!』
絵を褒めてくれて、反応してもらえる。私が生きている実感を感じるのは、この瞬間だ。自己顕示欲が満たされる。絵を描く人間はそういうヤツが多いんだと思っている。私も、例に漏れずそういうヤツの一人ってことなんだろう。
「ありがとうございます、と。」
返信をしている途中、不意に新しくメッセージを知らせるアイコンが目に映る。また誰か反応してくれたのだろうか。いつも通り、メッセージを開く。
『はじめまして。突然のメッセージ失礼します。
とても綺麗な絵に感動しました。花火大会のポスターも描かれてますよね。私も春宮さんの世界の住民になれたらいいのに、なんて。
よろしければまた絵を見たいです。』
私の世界の住民に、なんて。初めて言われた。思わず笑ってしまう。嬉しい。随分と丁寧なメッセージだ。しかし気になるのは、ポスターの話。花火大会のポスターなんてこの地域にしか張り出されていない。
「…さっきのおばあちゃんの話の人だったりして。」
インターネットは広大だけど、名前の威力は絶大だ。〝春宮〟としか公開してはいないし、花火大会のポスターにも名前は載せられていないけど。
もしかしたら。
なんとなく、ぼんやりと何かを期待して、メッセージを返す。
『良かったら、もっとお話しませんか?』
ふう、と息をついて、私はスイカを食べようと部屋を出た。
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