赤い糸(20年の時を越えて)

平尾龍之介

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二人の時間

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 彼の名は『裕也』彼が夢で見た光景は、二人で初めてデートをした地元の花火大会。不思議だね・・今でも鮮明に覚えているよ。私の大切な思い出。精一杯のおめかしをした、化粧に髪型、着慣れない浴衣も裕也に見せたくて着ていったんだ。緊張して恥ずかしそうにしていたあなたを、同じ年なのに年下の男の子を相手するように私がリードしたんだよね。

でも、



「手をつなごう!」



そう言ってくれた裕也に、『ドキッ』とした気持ち・・忘れられない思いが今も胸に溢れてる。裕也が大人に見えた瞬間だった。花火大会の帰り道。遅くなる時間や、心配してるだろう親のことも忘れて歩いた帰り道。ゆっくり・・ゆっくりと。他愛のない話しに会話は尽きなかったね。私の家が近づくと二人とも歩くペースが遅く、さらに遅くなった。私の家の明かりが見えた時、裕也が勇気をふり絞るように言ったよね



「今度いつ会える?」

「また会えるかな?」



約束がないまま別れることができなかった。



「もちろん会えるよ」

「今度はプリクラ撮りに行こうよ」



私は『また会いたい』そう言ってくれた裕也に堪らなく愛おしさを感じた。こうして二人の恋愛は始まった。



次の日から私たちは毎日連絡を取り合い、私の頭の中は裕也でいっぱいになっていった。

二人で撮ったプリクラは何枚になっただろう、写真が苦手で嫌がる裕也の腕を引っ張り、プリクラの機械の中に入るのが嬉しくてたまらなかった。ポケベルには裕也からのメッセージが溜まっていく、初めてできた彼氏、恋愛がこんなに楽しいものなのか、そんなことを考える余裕もなく、ただただ空っぽだった私の心の中に裕也が溢れていくことで生きていること生まれてきたことを実感できた。



「裕也はどんな音楽が好きなの?」

「裕也はどんな女の子がタイプなの?」

「裕也は食べ物は何が好き?」



裕也の考えていること、その仕草、話し方、その笑い方すべて、離れている時は『今何してる?』そんなことばかり気になって友達と過ごす時間も上の空『恋は病』という言葉は不思議なぐらい私に当てはまっていた。



二人は、別の中学校に通う中学生。家は近いけど小学校も違う。学校区というものによる線引きで、近くにいたけど15歳になるまで何ひとつ交わることのない別の世界を生きていた。地球の広さなどわかるはずもなく、地元が世界のすべてだと思っていた頃。すぐそばに裕也がいたのに出会えずにいた。その小さな世界から恐る恐る檻から出るように一歩踏み出した時、世界は変わった。中学生から高校生になり、裕也との距離はさらに縮まった。二人は地元の高校に進学をした。朝、裕也が自転車で迎えにきて二人で自転車に乗り学校に行く。そして学び、部活は放送部に入部をした。というのも、私が話すことに興味があると言うと



「放送部いいんじゃない?」



なんて素っ気ない裕也の返事がきっかけで、二人で入部を決めた。



「裕ちゃんは、他にやりたいことないの?」

「別にないよ」



少し元気のない返事に戸惑った。本当にいいのかな? でも、裕也と一緒にいられる時間が増えることがその戸惑いを打ち消した。放送部には、裕也と同じ中学出身の、淳史と早希の二人も入部をした。『淳史』は高校を卒業をすれば自動的に親の家業の酒処を継ぐことを宿命づけられた裕也の幼馴染。『早希』は平凡な家庭に育つギャルに目覚めつつある明るい子。



「なんでお前らが放送部に入んだよ」



なんて嫌がった素振りをみせていた裕也だったけど



「いいじゃん!早希もいるしさ」

「そうだよ!仲良くしようよ笑 お二人さんの邪魔はしないからさ笑」



心の中では、気心の知れた仲間と一緒にいられることで嬉しくてたまらない!そんな感情が表情から読み取れた。



学校生活は順調で、4人はいつも一緒でいつもふざけてばかりいた。



「昨日のMステ見た?」



早希が聞く



「GLAYヤバくない?かっこよすぎ!」



淳史が答える



「ジュディマリのYUKIちゃん最高」

「今日も行くよ~」



早希がみんなに声を掛ける



「えっ今日も!?」



裕也が驚いてみせる。しかし嫌がる風でもない。私は裕也が歌う『尾崎豊』が好きだった。本当によく遊んだ。カラオケにゲームセンター、週末は街までお出かけ、おしゃれをしてただ同じ時間を共有しているこで幸せだった。お金が無くても幸せを感じられた純粋な時間・・このように感じられたのは裕也とだから? それとも幼さからなのか? 不思議な感情・・ただ真っすぐに裕也を愛していた。



6月19日裕也の誕生日。付き合いはじめて初の誕生日。裕也は16歳・・私は密かにプレゼントを用意して、バースデイケーキを作るため何度も練習をしていた。裕也の喜ぶ顔を思い浮かべながら、夜遅くまでバースデイケーキを焼く練習をした。



「まずい!」



なんて言わせない! 喜ばせる! 夢中になった・・思い返せばここまで純粋に夢中になれたことはなかった。そうこうしていたある日、誕生日の一週間前の日、裕也から突然の誘いを受けた。いつもより緊張をした顔で声が少し小さかった。



「あのさ・・来週の土曜日、うちに泊まりにこない?」



突然の誘い! しかもお泊り!! 裕也の部屋にも入ったこともないのにいきなり! ていうか土曜日って裕也の誕生日じゃん! 色々言いたいこと思うことが頭のなかでぐじゃぐじゃなる。なんて答えればいいの・・私は一番の疑問を聞いた。



「裕ちゃんの部屋にも入ったこともないのにいきなりお泊りなの? なんで? お母さんもいるじゃん、どうするの?」



裕也は少しにやけながら答える



「母さん、会社の慰安旅行で週末いないんだよね。だから俺一人なんだ」

「で、いきなりお泊りなの?」



私はお泊りに抵抗はなかった。それより逆に嬉しく思っていた。なのに冷たく答えた。



「えっダメかな?こんなチャンスもうないよ!」

「Hなことしようとしてないでしょうね?」



私の突っ込みに裕也は大きく首を振る。



「いいよ! お泊りしよっか!」

「マジで!!」



裕也はいきおいで私に抱きつき、抱き上げたまま2回転。



「やったー嫌がられたらどうしようって思ってた」



心の底から安心した表情を見せた。その幼さの残る少年の瞳が私の心を奪っていく。しかし二人には問題があった。



「でも、うちの親どうするの? お姉ちゃんになんかバレたら大変だよ」

「それについては考えてきた! 早希に頼もう笑」



考えってそれかって感じの計画。でも早希はうちの家族に変に気に入られている。確かに早希を利用すればうまくいく可能性は高い。あとは早希を説得するしかない! 早速、ポケベルで呼び出し二人で説得を試みた。



「頼む一生のお願い!」



裕也の頼みに



「えーやだよー。バレたらどうするの? お姉ちゃん怒らせたら怖いよ・・」



確かに私のお姉ちゃんは怖い! 裕也もお姉ちゃんの前ではたじたじだ。腹違いで一回り以上歳の離れた私の姉は、嫁に行き近くに住んでいた。なにせ感が鋭いのだ。



「そこを何とか頼むよー」

「あんた調子いいよねーこんな時だけ」

「お願い!早希様!!」

「あーもうわかったよ! 協力するよ!」

「ありがとう。恩に着ます」

「しかし、あんたらエロいねぇ」



早希の、その質問と冷ややかな目に二人ははにかんだ。 

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