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第三章
君がため 1
しおりを挟むパンが好きな生徒は購買へ。弁当が食べたい生徒は食堂へ。飲み物が欲しければ自動販売機にあらかたの種類が揃っている。
流行りの菓子や有名チェーン店はないけれど、ここでは十代の青年たちが青春を謳歌するに十分な設備は整っていた。
綾は蓮と共に購買で惣菜パンを買い、中庭へ向かった。
お馴染みの三人が、広々とした中庭の中央に陣取っている。
中庭には大きな木と、手入れされた花壇がいくつか置かれている。道なりに生徒たち用のベンチが設置されていて、綾たち以外の生徒はその日の気分によって様々移り変わって使用しているが、綾たちは毎日集まるが故にほとんど定位置となっていた。
もうそろそろ暑くなりだしてきた太陽の下、葉が鮮やかな緑色で涼しい木陰を作り出している。
「だーかーら!蓮はオレのやしユウちゃんは蓮のやしつまりユウちゃんはオレのやし!」
「スズくんのではないよ!?ていうかユウちゃん元気なんよね?」
「元気やで。今朝、俺が送ってった時の蓮可愛かったなぁ…猫みたいで」
「だぁあああ蓮はオレのネコやから!」
「ちょっとスズくん黙れる?」
制服のシャツを腰に巻き、ビビッドカラーのTシャツを気おくれひとつせず着こなしている涼樹はよい目印だ。
和也はいない。今日も自室学習らしい。
散々に騒ぐ彼らに顔を見合わせて、綾と蓮はこれ見よがしに手を繋いだ。
「悪いけど、俺は蓮のだし蓮も俺のだよ」
「なっ、あっ、ユウちゃん!?」
「ユウちゃんの手、冷たい」
「ねぇねぇ、ユウちゃんと蓮きゅんならどっちがネコなのー?」
「サエ先輩黙れますか?」
にっこり笑って綾はベンチに腰掛けた。
綾たちが昼食を摂るベンチは、綾のためにあると言っても過言ではない。
空いた席に自然と綾が座ると、すかさず蓮と夕貴が両隣を埋める。涼樹が地面に座って、千智は脇の花壇に腰掛ける。これが毎日の光景である。
ぐい、いつものように夕貴に肩を抱かれて、綾は彼の腕の中でパンをかじった。
「ユウちゃん、美味しい?」
「はい」
「チィちゃんと一緒に来るっていうからお弁当でも持ってくるかと思ったよ」
「え、チィ兄ってお弁当も作れるんですか?」
「うん。チィ兄はお弁当も作れるよ!」
からかうように夕貴が繰り返したのを聞いて、千智は思い切りその頭をどついた。
オレンジ色がつんのめる。
「その呼び名を使ってエエのはユウちゃんだけや」
「うふふふふ、なぁにー?二人だけの特別?」
にやにや、夕貴が笑いながら言うと、千智はもう一度、どついた。
「えーでもでも、ユウちゃんとチィちゃんは別に付き合ってないんだよね?」
「あ?ああ」
「へーえ…」
「おいアニキって、そういう意味やないんよな?」
「そういう意味って?」
「ユウちゃんは知らんでいいよ」
蓮に訊ねると、彼はもそもそとパンを食べている途中だった。
十センチほど低い蓮の口元についたパンくずを払ってやる。
食べにくいものは嫌いだと言いつつ、蓮が選んだのは砂糖のついたデニッシュパンだ。
綾が触れたあとも気になるのか、何度もそこをはたく蓮はやはり年下に見える。
と、夕貴が突然に立ち上がった。
夕貴を背もたれにしていた綾も自動的に引きずられ、立ち上がる。
「あ、ねぇねぇユウちゃん、教室行く前にトイレ行こ!」
「まっ、まだ予鈴まで時間ありますよ!」
「ンや、連れションか?」
「下品な言葉は好きじゃないよーっ、チィ兄♡」
本日三度目、千智にどつかれながら、夕貴は綾の背を押した。
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