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水神殿編

1-19 倉庫内工房

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 朝とてもいい気分で目覚めた。レベルが大幅に上がって、ステータスが大きく上昇している為、余計に実感できるのだ……これまでと違うと。

 そして、良い匂いがするのに気付いた……ナナの匂いだ。
 シーツをめくるとぬいぐるみの腹を枕に、俺にしがみついて寝ているナナが居た。

 時間はまだ4時にもなってない、朝というには早い時間だな。
 昨日は、18:00頃からベッドに横になり23:00頃寝たのだが、ぐっすり寝れたのか眠気は全くない。

 向かいにはフィリアが寝ている。13歳で成長が止まって当時のままらしいが、見た目は10歳ぐらいの子供なんだが妖艶さがあるのだ。もうすぐ9歳のナナは、幼女らしい愛くるしさがまだある。フィリアの後ろにはサクラが壁側を向いて寝ている……残念だが寝顔は見れないようだ。

 さて、どうしようかと思案してたら、フィリアがむくっと起きてふぁーと可愛い欠伸をしてこっちを見た。

「リョウマ起きておったのか? おはようなのじゃ」
「フィリア様おはようございます。随分目覚めがいいですね」

「まぁ、年寄ゆえ目覚めは良いのじゃ、どうやら随分ナナに懐かれたようじゃな」
「ええ、俺もさっき目覚めたばかりなんですが、ナナがくっついていました」

「其方ベッドに入られて、朝まで目覚めぬとは……冒険者にはなれんな」
「いえいえ、悪意や殺気があればちゃんと起きますよ! ナナにそんなのがないから、目覚めなかったのです!」

「あはは。言い訳っぽいが別によかろう」

 ほんとだよ? 悪意や殺気があればすぐ起きるんだからね!
 ナビーが起こしてくれるはず……ナビー任せなんだけどね。

「フィリア様、リョウマさんおはようございます」
「あ、ごめん。サクラおはよう、うるさかったね?」
「サクラおはようなのじゃ。ゆっくり眠れたかの?」

「はい、久しぶりのレベルアップでしたが、リョウマさんのおかげで痛みもなく目覚めすっきりです」

「そうじゃな、でもちとおかしいのじゃ? なんか上がったレベルの割にステータスが大幅に増えておる? リョウマなにか心当たりはあるか?」

「俺には各種女神様や属性神の祝福が盛りだくさんなのです。俺がパーティーリーダーの時にレベルが上がった場合、皆にもプラス補正が入るのですよ。あなたたち三人ならいいかと思って、昨日やり過ぎちゃいました。年齢やレベルの事を考えたら、ナナの事が心配です。フィリア様の方でも気に掛けてあげてください」

「やはり其方の影響か、妾でこれだとナナは相当だな。8レベル分のプラス補正か、年齢を考えたら筋力値だけでもまずい数値じゃ、既にその歳で成人男性よりかなり上じゃな……酒場で腕相撲とかさせたら、さぞやおもしろかろうな」

「あの、ナナがベッドに居ないようなのですが?」
「あー、ナナならここでくっついている」

 シーツをそっとめくって、サクラに見せてあげた。

「あらまあ、ナナったら。リョウマさんに甘えて……可愛いですね」

「皆、目がいいですね。部屋の中薄暗いのに」

「サクラも妾も【夜目】のスキルを使っておるのじゃ。其方は使っておらぬようじゃが?」
「俺はアウラ様の加護でヴァンパイア仕様になっているのです。夜間でもはっきり見えますね。俺の瞳が赤いのはその影響です」

「リョウマさんといると一般常識とか一般論とかがおかしくなりますね。異常なのが普通になってきてしまいます。ヴァンパイア仕様とか何ですそれ? 初めて聞きました」


「あ、ナナおはよう。起きたか?」

 やっぱりナナは目覚めが鈍いようだ……ぽーっとして目を擦っている。

「リョーマー……おはよう。ふぁー……今、何時?」

「4時前だがナナ、体で痛いとことか変なところはないか?」
「うん、だいじょうぶだよ」

「そうか……ほら、起きたならフィリア様とサクラにもちゃんと挨拶な」

「ナナおはようなのじゃ」
「ナナおはよう」

「あ! フィリア様、サクラ姉これはちがうのよ! リョウマが寒そうにしてたから一緒に寝てあげたんだからね!」

「おい! 昨日はむしろ暑かっただろう! 別に誰も変な目で見ないから、ちゃんと挨拶するんだ」

「フィリア様、サクラ姉おはようございまちゅ」

 噛んだ……いっちょ前に恥ずかしいのか? ナナ可愛い!

 ちょっと早いが、目覚めはスッキリだし。起きてやりたいことやるかな。

「まだ早いですが、ちょっと今日もいろいろ忙しいので俺は先に起きますね。フィリア様、ちょっと厨房の食材使ってもいいですか?」

「ふむ、其方は別に許可をとらなくても、何でも使ってよいからな。強いていうならサクラが主に厨房は仕切っているから聞いてみるとよい」

「サクラ、牛乳と卵と砂糖、あとバニラエッセンスはあるか?」

「バニラエッセンスが何か分かりませんが、バニラビーンズというモノならあります。同じものか判りませんけど……」

「それ使っていいか?」
「ええ、好きなだけ使っていいですよ。なにか作られるのですか?」

「内緒だ……作ったのって子供のころに1回だけだから、上手く作れるか分からないけど、上手くできればお昼のデザートにだしてあげるから楽しみにしててくれ」

 洗顔と歯磨きをした俺は、厨房と倉庫に保存されている食材を漁った。

 ここの倉庫には神器が置かれている。
 アイテムボックスという箱だが、時間停止機能付き重量無制限との事だ。
 箱は固定されて移動できないので、俺のインベントリの劣化版だな。
 時間停止と重量無制限をいい事に、結構な量が入っている。
 各国からの貢物であったり神殿への供物だったり珍しい物も一杯だ。


『ナビーおはよう。昨日の動画編集できてるか?』
『……マスター、おはようございます。バッチリですが、音付けは本当にあれでいいのですか? 皆、驚くと思うのですが?』

『ああ、向こうの音楽で驚かせたいんだ。網膜上で俺の右上で再生してくれ、確認したい。何分ぐらいにまとまった?』
『……朝食後にということなので皆の後の作業に支障が出ないように20分程にまとめました』

『了解。ここの倉庫に蒸留酒ってあるか?』
『……はい、ラム酒のようなものがありますね……ウォッカのようなものもあります』

『よし、ウォッカが欲しかったんだ。あと生クリーム』
『……生クリームは無いですね、バターとチーズはありますが……マスターがお作りになってはどうです? 【調理工房】で作ればすぐですよね?』

『そうだな。工房内に併設してゴミ処理施設を創ってくれ。ゴミは危険廃棄物と肥料用と土壌用に部屋を分けてくれるか? できるか?』

『……はい、できました。後で確認してくださいね』

『言ってるそばから完成かよ……』
『……マスターの会話中のイメージが参考になってますが、直接マスターが手を入れた物には及びません。後で確認されて手直ししてください』

『了解した。で、さっそく生クリームが欲しいのだが。あとバニラエッセンス』
『生クリームは10分ほどで生成できますが、バニラエッセンスは1時間ほどほしいです。まだ調理レベルと工房レベルが低いので時間短縮が今はこれが限界です』

『そうだな。【一流料理人】と【ぱてぃしえ】のレベルを持ってるポイント10ポイント残して全部使って振り分けてくれ7:3で頼む』

『……反対ですマスター! 料理よりもっと上げるものがあると思います』

『そうなんだが、旨いモノが食いたいんだ! 頼む』
『……困ったマスターですね。仕方ないです。『命大事に』は守ってくださいね』

『ありがとう、ナビー。あと動画のここ、音楽差し替えてくれ。最後のジェネラルの戦闘シーンは……』

 朝食後にやる上映会の映像をナビーにいろいろ編集してもらった。
 いい感じに仕上がったと思う、皆の反応が楽しみだ。

『他にこの神殿内の倉庫で役立ちそうなものはあるか?』
『……希少金属や自作しなくてもいい工具が一杯ありますね。素材も良いのが揃っています』

『それ全部俺のインベントリに移動可能か? 根こそぎはまずいから、いろいろ少しずつ欲しいのだが』

『……倉庫に置かれてる物はマスターが直接取り込まないと駄目ですが、アイテムボックスの方はマスターの【クリスタルプレート】を近づけて情報通信を行えば取り込み可能です』

『なんか携帯の赤外線通信みたいだな?』

『……発想はまんまそれです。アウラ様のお手柄案になってとくに商人とかに感謝されてます。実際まんまスマホ機能ですね』 

 よし、取り込み完了。後、欲しいのは……。

『ナビーどうしても欲しいものがある。さっき取り込んだ材料で、シャンプー・リンス・ボディーソープを作ってほしい。もちろん地球製のいいやつだ。こっちの石鹸一択はどうも髪がバサバサになる。できるか?』

 俺は某メーカーの有名女優が数名でCMしてた、赤い容器に入ってたものを指定した。
 ボディーソープは赤ちゃんも安心の弱酸性をうたってるメーカーの物をお願いした。

『……できますが、色と香りの再現が微妙に難しいですね』

『おお! できるのか! 色はおかしくなければなんでもいい。香りはむしろいらない! こっちの人は良い香りがするから、かえって邪魔になりそうだ。シャンプー時に香りが楽しめる程度の超微香で頼む。今ある材料でどのくらいの量が作れる?』

『……そこのラム酒の入ってる小樽に各2個分ぐらいですかね。材料はどれもほぼ同じものなのです。ちょっとずつ違うんですけど』

『結構な量が出来るな。入れ物なんだけど、とりあえず焼き物の壺にできたら入れといてくれ。ちょっと【クリスタルプレート】をネットに繋げてくれるか…………うーん。この瓶、ガラス工房で作れるか?』

『……ちょっと今のレベルじゃそれはできないですね。それ何気に高技術です。ガラス工房熟練度レベル7が必要です。こっちのこの可愛いやつなら、熟練度レベル3でできます。シャンプーの入れ物にするのですか?』

『ああそうだ、ガラス製だと割れないように強化のエンチャントが要るな。【プランクリエイト】で設計図作るから、そのとおりに頼めるか? 後、この可愛い手の平サイズの器を40個頼む』

『……了解しました。マスターやりたい放題ですね。楽しそうです』

『そうだな。むちゃくちゃ楽しんでるな。ナビーは俺の向こうの世界での自堕落な生活知ってるんだよな。やっぱ楽しそうに見えるか?』

『……はい。向こうのマスターはカスですね。やはり美少女の為ならやる気が出るのでしょうか? 不思議です』

 カスは酷くね? 確かに自堕落な生活をしていたが……仕事は頑張ってたよ?

『そうだな、男は女で変わるっていうだろ? 今はナナやフィリアの喜ぶ顔が見たい。それと、味噌・醤油・みりん・とんかつソース・お好み焼き用のソースがほしい』

『……味噌はともかく醤油とみりん・ソースは二日程時間をもらえますか? 希望メーカーとかあればハッキングして情報を集めますが。何度か味見してもらって確認して頂かないと、味を知ってるのはマスターしかいませんので。同じ製造法でも同じものがちゃんとできたか確証ができないのです。特に発酵や熟成が要るようなものは、ちょっとした事で味に差異がでると思うのです』

『ああ、そうだな。試作ができたら言ってくれ、都度味見する。メーカーは……』

 味噌は合わせ味噌、醤油とみりん・ソースは無難に某一流メーカの物を頼んだ。
 これで、俺のこっちでの生活は快適化するな。
 シャンプーも、それを入れる容器も夕方にはできるとの事なので、今日から使えそうだ。

 容器の設計図なのだが、瓶はネットからダウンロードした画像そのままの形を採用した。
 蓋は木製で木目が綺麗になるようバーナーで炙って焦げ茶色、防水、防腐処理もした。
 蓋に2カ所穴をあけて1つは液が出る吹き出し口用、そこにJ字型に加工した穴の開いた金属の棒の曲がってない方を蓋に差し込み瓶の底にくっつかない程度の位置に固定する。

 木蓋とJ字型の金属の穴の部分の密閉に使用するのは例のパッキン修理で使ったラバーワームという魔獣の素材を使った。熱で加工すると粘着性が出て冷えるとゴム状に固まる良い素材だ。

 もう1つ空いている穴には押すと瓶内の空気が圧縮されてJ字側から液が出る為のポンプに当たるものを取り付けた。これもネット情報から錬金術で錬成したものだ。この世界初のポンプ式シャンプーの誕生だ。

 この容器を18個作ってもらうようナビーに頼んだ。


 まだまだやりたい事が一杯あるが、朝食の時間だ。
 今日も忙しくなりそうだなと、倉庫から食堂に向かうのだった。
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