55 / 120
護衛依頼編
4-7 シルバーランク冒険者の不満
しおりを挟む
無事今晩の野営地に到着し、まずはテント設営を全員で行った。
魔獣からの素材の剥ぎ取りは、直ぐ近くの小川で行うのだと思っていたのだが、1km程離れた対岸を少し下った先で行うのだそうだ。
理由を聞けば納得だ。『直ぐ近くだと、血の臭いで他の魔獣が寄ってくるだろう?』との事だった。
対岸にするのも、小川を挟むことによって匂いを追尾させないためなのだと聞けば、俺の経験の無さが浮き彫りになる。
剥ぎ取りも全員で行うのではなく『灼熱の戦姫』は護衛として野営地に残るのだそうだ。
面倒な剥ぎ取りに駆り出されるのに、ブロンズとシルバーランクのPTは誰一人その事に文句はないようで、下位のランクの追尾組がそうするのが暗黙のルールになっているのだとブロンズ組のヒーラーが教えてくれた。
俺とフェイは素材の権利を放棄しているので参加しなくていいと言われたのだが、剥ぎ取りそのものに経験が少ないため、見学させてくれと着いて行った。その際、いつもフードを被っているマントを邪魔にならないよう脱いだのだが、フェイの美しさと装備のかっこ良さに男どもが騒いでいた。
全体として黒をメインに白のアクセントが入っている防具なのだが、兄妹でお揃いにしている為、依頼で特注したかのようにカッコいいのだ。事実はシルバーランク相応の装備品なのだが、あまりにもカッコいいので『灼熱の戦姫』のメンバーの装備より良く見えるそうだ。
買った金額を教えてあげたら、頑張れば俺たちでも買える金額だと興奮し、買った防具屋を教えてほしいとせっつかれた。防具屋の店主にも宣伝してやると言って値引いてもらっていたので、宣伝がてら皆に教えてあげた。
その後の剥ぎ取り作業中、シルバーランクのパーティー2組で一悶着あったのだが、理由がやっぱりかと思える事だった。昨日狩ったキラーマンティスの魔石の事で揉めていたのだ。鎌は2本あるので2PTで1個ずつ分配したのだが、魔石は1個しかない。盾とアタッカーがいる組とアタッカーと回復のいるPTとでどっちの方がより活躍し、権利が有るとかで揉めているのだ。
「俺たちの攻撃力が無かったら倒せてないだろう?」
「何言ってるんだ、俺たちの氷の魔法支援が無かったら、そもそもお前たちじゃキラーマンティスは相手できてないだろう? 回復魔法だってこれまでに10回は掛けてあげている。今後は回復してあげないし、これまでの分の請求をしてもいいのだぞ!」
聞いている限りどっちの言い分もわかるのだが、魔石1個でこの後の3日間が気まずくなるのにと思ってしまう。見かねた商人のリーダーが適正価格でその場で魔石を買い上げ、お金を半分ずつに分ける事で納得したようだ。最初から町に行ってからそうすればいいのにと思ったのだが、彼らもあまりそういう交渉に慣れていないようだった。
今後の回復を、回復役無しのパーティーがどうするのかが気になってしまう。
今の相場は、初級の回復剤が1本1万ジェニーもしているのだ。怪我する度に飲んでいては大赤字だろう。
回復持ちのパーティーが権利を主張するのも納得だな……怪我の回復は命に係わる事だからね。
『灼熱の戦姫』のパーティーが、ヒーラーのソシアさんをやっと手に入れたというだけあって、回復職は貴重なのだ。上級の水魔法が使えても、初級の【アクアヒール】が使えないという事はざらにある事だそうだ。レベルが上がるだけで全属性の基本魔法が習得できる俺とフェイがいかに異質な存在なのかが良く解る。
ちなみに、ブロンズ組が狩ったキラーマンティスの素材は『灼熱の戦姫』が鎌1個と魔石を取り分にするそうだが、ブロンズ組は鎌1個だけでも貰えた事を喜んでいた。ひょっとしたらなにも貰えないかもと思っていたようだ。確かに戦力としては役に立っていなかったが『灼熱の戦姫』のお姉様たちは、彼らに対して努力賞というより、装備品の修理代としてあげたようだった。彼らは優しいお姉様たちに感謝だな。
素材の剥ぎ取りを終え、野営地に戻ったのだが『灼熱の戦姫』のお姉様たちの視線が熱い。舐め回すように俺たち2人を見ている。野郎たちと違って、見ているのは俺たち兄妹の体そのもののようだ。無駄な脂肪の無い引き締まった体、筋肉の動きや身長・体重などからいろいろ分析している気がする。これまでローブで隠れていた武器や防具なども分析対象になっているみたいだ。
「お姉様たちの視線がえっちーです。恥ずかしいのであまりジロジロ見ないでください」
おちゃらけて言いながらマントを羽織ったのだが意外に受けたようで、直ぐに装備や体を隠した事を突っ込んで聞いてこなかった。
「リョウマ君たちのそのマントは、うちのコリンの羽織ってるマントと同じような特殊な効果が有るのかな?」
「特殊な効果とはどんなものですか?」
マチルダさんがずっと気になっていたと聞いてきたのだが、他の皆もこの暑いのに頭からフードまで被っているのだから当然そうなんだろうと思っているようだ。
俺の質問にはコリンさんが答えてくれた。
コリンさんは『灼熱の戦姫』の魔法使いで、火と土魔法が使えると教えてくれた。
「マント内を一定の温度に保つ効果がある、付与魔法の効果が付いているのです」
なんとエアコン魔法に似たエンチャントがあるようだ。詳しく聞けば凄く便利だというほどの物でもなかったのだが、暑い夏場にはとても重宝されるものだといっている。しかも家が買えるほど高い物のようだ。
『灼熱の戦姫』のメンバー内でもコリンさんしか持っていないそうで、なんでも有り金全部使って砂漠の方から来た旅商人が持ってたマントをしつこく粘って売ってもらったのだそうだ。
「そんなエンチャント付与の装備も有るのですね。でも俺たちのはガストの村の雑貨屋で買った普通のマントですよ」
「「「「エッ!?」」」」
「嘘でしょ! この暑いのにそんな訳ないわ! リョウマ君ちょっとそのマント脱ぎなさい!」
ソシアさんに速攻でマントを脱がされた。
なぜかソシアさんは俺のマントをクンクン匂いを嗅いだ後に羽織った―――
「暑い!! 信じられない! こんな暑いのに汗ひとつかかないでよく平気でいられるわね?」
「あはは、俺たち兄妹の体質ですかね」
なんかサリエさんとソシアさんの視線が痛い……なにか疑ってるようだが聞いてこないのでこのままごまかそう。説明が面倒だし、知り合ってまだ2日目の人たちにエアコン魔法を教えてやる気はない。
「ほら、俺たち兄妹は肌の色が白いでしょ? 体質で夏場の強い直射日光は肌が軽い火傷みたいになってしまうので、肌を隠さないといけないのですよ」
「ん、私も色白いので同じ。軽い火傷になる」
どうやらサリエさんも色白なので、同じような悩みを持っているようだ。
エアコン魔法教えてあげようかな……ついさっきの知り合って2日目どうたら思ってた事は俺の頭からすっかり消えてしまってた。
「皆、ちょっと聞いてくれ!」
どうやら夕食前に商隊のリーダーのガラさんから、恒例の明日の予定説明があるようだ。
「明日はいよいよソシリアの森を掠めて通る。森の中心ではAランクの4級の魔獣が確認されている。明日通る街道でもAランクの9級の魔獣が何度か確認され討伐されているが、もし明日Aランクの魔獣が現れたら速攻逃げる。『灼熱の戦姫』のメンバーで対応できるのはBランクまでだそうだ。Aランク魔獣が出たら殿を『灼熱の戦姫』が受け持ってくれるので、商隊を守りながら速やかに撤退するように。それ以外はマチルダさんの判断に任せる事とする。何か質問は?」
ここでシルバーランクのアタッカーの手が挙がった。
「質問ではないのですが、双子の兄妹に少しだけ不満があるので良いですか?」
「それは皆の前でする必要がある事かね? もし個人的な事なら後で兄妹に話せばいいと思うのだが?」
「護衛に関する事なので、皆にも意見を聞きたいと思っています」
俺たち兄妹に対する不満なら聞かないわけにもいかないだろう。なにせ今回が初の参加なのだから、不満に思うようなことを知らない間にやっているという事だ。これは今後の冒険者をやって行く上で問題な事なので、自分から聞いた方が良いと判断した。
「あの、今回俺たち兄妹は護衛依頼を初めて受けました。なにか暗黙のルールとか有るのを知らない内に破っていたり、おかしなことをしているのかもしれないので、是非聞かせてください」
「リョウマ君、謙虚なのは良い事だ。じゃあ遠慮なく言わせてもらう。護衛任務なのに君たちは一切魔獣の討伐に参加していないだろう? それで護衛任務と言えるのか? おかしいだろ? 俺たちもブロンズ組のPTも怪我や装備品の消耗で赤字に近い。君たちは一切無傷で護衛報酬だけを得ている」
なんだかずれた不満のようだ……ここに居る野郎どもは、最初はともかく特に嫌な奴はいない。フェイに対する嫌な視線も直ぐに改善してきたし、それなりに常識のある奴ばかりだ。
どう言えば角が立たないか考えたが、そもそも不満の原因がちょっとずれているのだから上手く言えるはずもない。ストレートに返すしか思いつかなかった。
「うーん、角が立たない言い方が思いつかないのでストレートに俺の考えを言いますね」
「ああ、是非君のそのストレートな考えとやらを聞かせてくれ」
「俺たち兄妹が戦闘に参加しないのは『灼熱の戦姫』のメンバーと同じ気持ちです。上から目線で悪いのですが、今更小銭を稼がなくても、この護衛依頼が終えてバナムの町に帰ればオークキングの討伐報酬と誘拐盗賊犯を奴隷商に売ったお金と討伐報酬やら領主からの特別報酬とかで億近いお金が入ってきます。オークとか、食べて美味しい食材になる肉などなら参加したいですが、虫等はいくら美味しくても、俺は食べる気にはならないので、あなたたちが魔石や素材で稼ぎたいと言うから俺たちは別に要らないと判断したのです……」
「お前のいう通り、随分上から目線な考えだな」
「もっとぶっちゃけて言わせてもらえば、怪我や赤字云々も俺からしてみれば『はぁ?』ってな気分です。だってあなたたちが弱いから怪我をしたり装備品が損耗するのでしょう? 俺ならキラーマンティスじゃ掠り傷すら負いませんよ? フェイでも視界に入った時点で倒してしまいます」
「君たちはそこまで強いと言うのか?」
「伊達に2人で500頭以上からなるオークキングの集落を落としていないですよ。戦闘に参加しないのに不満があるのでしたら今後参加しますが、共闘はしません。ソロで余裕で倒せるのに共闘する意味がないですからね。それに魔石1個で揉めるのも嫌ですし」
「兄様! 最後の一言は余計な事です!」
「うっ……確かに。ごめんなさい、最後のは余計な一言でした。それで、どうします? 俺たちも戦闘に参加します? あなたたちは一切魔獣に触れる事さえできなくなって、利益は今後無くなりますよ」
ここで口を挟んできたのが他のPTの男たちだった。
「俺たちブロンズ組はできるだけ沢山自分たちで狩りたい。俺はリョウマ君のいう通り、怪我や装備に関しては自己責任だと思っている。その為に前衛2名、回復を含めた後衛2名のパーティーをブロンズランクにも拘らず早期で結成しているんだ。俺たちに足りないのは経験とレベルだと思っている。リョウマ君から見て俺たちのPTはどう見える?」
「凄くバランスの良いパーティーだと思います。足りないのはあなたのいう通り経験ですね。カマキリの鎌にビビってましたし……あの時、冷静に対処してればあなたたちだけで狩れていたと思いますよ。他にメンバーを集めるなら、『灼熱の戦姫』のサリエさんのように遊撃や罠解除ができる斥候役と、支援系の魔法使いがほしいところですね。マジックバリアがあれば怪我もなく安定した狩りができるようになりますよ。それとヒーラーさんはレベル上げとMP量の増加が必要ですね」
「反省会で君と同じ意見が出たよ。なにかMP量を増やすコツとか知ってるか?」
「ええ、毎日地道にコツコツと、しかもかなりきついですが有りますよ」
この発言には『灼熱の戦姫』の魔法使いも参加してきた。
「量を増やすコツとか有るのですか?」
「皆も知っているはずですよ? 寝る前にぎりぎりまで魔力を消費するんですよ。毎日繰り返せば少しずつ増えていきます。1年もやれば実感できるのですが、それまでにきついから皆、直ぐ止めちゃうらしいですけど。吐き気や目眩は当たり前ですからね。やり過ぎると気絶しちゃいますし。安全な町中でしかできないです。その辺は上手くやってみてください」
「それって都市伝説的な噂じゃないのか?」
「いえ、事実ですよ。確実に増えていきます。幼年期の頃の方が伸び率は断然良いのですが、死ぬまで容量は増えるので場所的に安全な日は日課にした方が良いです」
「そうなのか……頑張ってみるよ。貴重な情報をありがとう」
「話がずれちゃいましたが、他の人はどうなんでしょう? 俺たちは戦闘に参加した方が良いです?」
「俺たちのパーティーもできれば譲ってほしい。経験値も素材も沢山欲しいからな。でも、危なそうな時に助けてくれたら有難い」
「勿論やばそうなら、直ぐに手は貸します」
その後の話し合いで、結局戦闘には参加しないでくれとの意見が多かったので不参加になった。やばそうなら助けるという条件を付けられたのだが、勿論最初からそのつもりだった。同じ旅仲間が死ぬところなんか見たくないしな。
ガラさんの話も終え、各パーティーごとの食事の時間になった。
今日の夕飯のメニュー
・オークのトンカツ
・オークの生姜焼き
・生野菜のマヨネーズサラダ
・コンソメスープ
・米飯もしくはパン
・バナナオレ
・苺のショートケーキ
「ん! うまうま」
「ふぁー、幸せー」
皆、美味しく食べてくれた。
「さっきのトンカツなんですが、パンにも良く合うんですよ。キャベツやレタスを一緒に挟んでソースをかけて食べると中の肉汁がでて最高に美味しいですよ」
「ん! 今直ぐ食べたい!」
「エッ!? さっき夕飯食べたばかりじゃないですか!」
「ん……でも、食べたい……」
「今日はもう、お終いです。食べ過ぎは良くないと言ってるでしょ? 明日のお昼はそれにしますか? オークジェネラルの方がパンに合うので在庫から出してあげますよ」
「「「ジェネラル!?」」」
「ん! ジェネラル食べたい!」
「皆も明日のお昼はカツサンドで良いですね?」
夕飯も終え、いよいよサリエさんへの個人授業を始めるのだったが、ログハウスの中に招待したサリエさんは授業どころではなかった。
魔獣からの素材の剥ぎ取りは、直ぐ近くの小川で行うのだと思っていたのだが、1km程離れた対岸を少し下った先で行うのだそうだ。
理由を聞けば納得だ。『直ぐ近くだと、血の臭いで他の魔獣が寄ってくるだろう?』との事だった。
対岸にするのも、小川を挟むことによって匂いを追尾させないためなのだと聞けば、俺の経験の無さが浮き彫りになる。
剥ぎ取りも全員で行うのではなく『灼熱の戦姫』は護衛として野営地に残るのだそうだ。
面倒な剥ぎ取りに駆り出されるのに、ブロンズとシルバーランクのPTは誰一人その事に文句はないようで、下位のランクの追尾組がそうするのが暗黙のルールになっているのだとブロンズ組のヒーラーが教えてくれた。
俺とフェイは素材の権利を放棄しているので参加しなくていいと言われたのだが、剥ぎ取りそのものに経験が少ないため、見学させてくれと着いて行った。その際、いつもフードを被っているマントを邪魔にならないよう脱いだのだが、フェイの美しさと装備のかっこ良さに男どもが騒いでいた。
全体として黒をメインに白のアクセントが入っている防具なのだが、兄妹でお揃いにしている為、依頼で特注したかのようにカッコいいのだ。事実はシルバーランク相応の装備品なのだが、あまりにもカッコいいので『灼熱の戦姫』のメンバーの装備より良く見えるそうだ。
買った金額を教えてあげたら、頑張れば俺たちでも買える金額だと興奮し、買った防具屋を教えてほしいとせっつかれた。防具屋の店主にも宣伝してやると言って値引いてもらっていたので、宣伝がてら皆に教えてあげた。
その後の剥ぎ取り作業中、シルバーランクのパーティー2組で一悶着あったのだが、理由がやっぱりかと思える事だった。昨日狩ったキラーマンティスの魔石の事で揉めていたのだ。鎌は2本あるので2PTで1個ずつ分配したのだが、魔石は1個しかない。盾とアタッカーがいる組とアタッカーと回復のいるPTとでどっちの方がより活躍し、権利が有るとかで揉めているのだ。
「俺たちの攻撃力が無かったら倒せてないだろう?」
「何言ってるんだ、俺たちの氷の魔法支援が無かったら、そもそもお前たちじゃキラーマンティスは相手できてないだろう? 回復魔法だってこれまでに10回は掛けてあげている。今後は回復してあげないし、これまでの分の請求をしてもいいのだぞ!」
聞いている限りどっちの言い分もわかるのだが、魔石1個でこの後の3日間が気まずくなるのにと思ってしまう。見かねた商人のリーダーが適正価格でその場で魔石を買い上げ、お金を半分ずつに分ける事で納得したようだ。最初から町に行ってからそうすればいいのにと思ったのだが、彼らもあまりそういう交渉に慣れていないようだった。
今後の回復を、回復役無しのパーティーがどうするのかが気になってしまう。
今の相場は、初級の回復剤が1本1万ジェニーもしているのだ。怪我する度に飲んでいては大赤字だろう。
回復持ちのパーティーが権利を主張するのも納得だな……怪我の回復は命に係わる事だからね。
『灼熱の戦姫』のパーティーが、ヒーラーのソシアさんをやっと手に入れたというだけあって、回復職は貴重なのだ。上級の水魔法が使えても、初級の【アクアヒール】が使えないという事はざらにある事だそうだ。レベルが上がるだけで全属性の基本魔法が習得できる俺とフェイがいかに異質な存在なのかが良く解る。
ちなみに、ブロンズ組が狩ったキラーマンティスの素材は『灼熱の戦姫』が鎌1個と魔石を取り分にするそうだが、ブロンズ組は鎌1個だけでも貰えた事を喜んでいた。ひょっとしたらなにも貰えないかもと思っていたようだ。確かに戦力としては役に立っていなかったが『灼熱の戦姫』のお姉様たちは、彼らに対して努力賞というより、装備品の修理代としてあげたようだった。彼らは優しいお姉様たちに感謝だな。
素材の剥ぎ取りを終え、野営地に戻ったのだが『灼熱の戦姫』のお姉様たちの視線が熱い。舐め回すように俺たち2人を見ている。野郎たちと違って、見ているのは俺たち兄妹の体そのもののようだ。無駄な脂肪の無い引き締まった体、筋肉の動きや身長・体重などからいろいろ分析している気がする。これまでローブで隠れていた武器や防具なども分析対象になっているみたいだ。
「お姉様たちの視線がえっちーです。恥ずかしいのであまりジロジロ見ないでください」
おちゃらけて言いながらマントを羽織ったのだが意外に受けたようで、直ぐに装備や体を隠した事を突っ込んで聞いてこなかった。
「リョウマ君たちのそのマントは、うちのコリンの羽織ってるマントと同じような特殊な効果が有るのかな?」
「特殊な効果とはどんなものですか?」
マチルダさんがずっと気になっていたと聞いてきたのだが、他の皆もこの暑いのに頭からフードまで被っているのだから当然そうなんだろうと思っているようだ。
俺の質問にはコリンさんが答えてくれた。
コリンさんは『灼熱の戦姫』の魔法使いで、火と土魔法が使えると教えてくれた。
「マント内を一定の温度に保つ効果がある、付与魔法の効果が付いているのです」
なんとエアコン魔法に似たエンチャントがあるようだ。詳しく聞けば凄く便利だというほどの物でもなかったのだが、暑い夏場にはとても重宝されるものだといっている。しかも家が買えるほど高い物のようだ。
『灼熱の戦姫』のメンバー内でもコリンさんしか持っていないそうで、なんでも有り金全部使って砂漠の方から来た旅商人が持ってたマントをしつこく粘って売ってもらったのだそうだ。
「そんなエンチャント付与の装備も有るのですね。でも俺たちのはガストの村の雑貨屋で買った普通のマントですよ」
「「「「エッ!?」」」」
「嘘でしょ! この暑いのにそんな訳ないわ! リョウマ君ちょっとそのマント脱ぎなさい!」
ソシアさんに速攻でマントを脱がされた。
なぜかソシアさんは俺のマントをクンクン匂いを嗅いだ後に羽織った―――
「暑い!! 信じられない! こんな暑いのに汗ひとつかかないでよく平気でいられるわね?」
「あはは、俺たち兄妹の体質ですかね」
なんかサリエさんとソシアさんの視線が痛い……なにか疑ってるようだが聞いてこないのでこのままごまかそう。説明が面倒だし、知り合ってまだ2日目の人たちにエアコン魔法を教えてやる気はない。
「ほら、俺たち兄妹は肌の色が白いでしょ? 体質で夏場の強い直射日光は肌が軽い火傷みたいになってしまうので、肌を隠さないといけないのですよ」
「ん、私も色白いので同じ。軽い火傷になる」
どうやらサリエさんも色白なので、同じような悩みを持っているようだ。
エアコン魔法教えてあげようかな……ついさっきの知り合って2日目どうたら思ってた事は俺の頭からすっかり消えてしまってた。
「皆、ちょっと聞いてくれ!」
どうやら夕食前に商隊のリーダーのガラさんから、恒例の明日の予定説明があるようだ。
「明日はいよいよソシリアの森を掠めて通る。森の中心ではAランクの4級の魔獣が確認されている。明日通る街道でもAランクの9級の魔獣が何度か確認され討伐されているが、もし明日Aランクの魔獣が現れたら速攻逃げる。『灼熱の戦姫』のメンバーで対応できるのはBランクまでだそうだ。Aランク魔獣が出たら殿を『灼熱の戦姫』が受け持ってくれるので、商隊を守りながら速やかに撤退するように。それ以外はマチルダさんの判断に任せる事とする。何か質問は?」
ここでシルバーランクのアタッカーの手が挙がった。
「質問ではないのですが、双子の兄妹に少しだけ不満があるので良いですか?」
「それは皆の前でする必要がある事かね? もし個人的な事なら後で兄妹に話せばいいと思うのだが?」
「護衛に関する事なので、皆にも意見を聞きたいと思っています」
俺たち兄妹に対する不満なら聞かないわけにもいかないだろう。なにせ今回が初の参加なのだから、不満に思うようなことを知らない間にやっているという事だ。これは今後の冒険者をやって行く上で問題な事なので、自分から聞いた方が良いと判断した。
「あの、今回俺たち兄妹は護衛依頼を初めて受けました。なにか暗黙のルールとか有るのを知らない内に破っていたり、おかしなことをしているのかもしれないので、是非聞かせてください」
「リョウマ君、謙虚なのは良い事だ。じゃあ遠慮なく言わせてもらう。護衛任務なのに君たちは一切魔獣の討伐に参加していないだろう? それで護衛任務と言えるのか? おかしいだろ? 俺たちもブロンズ組のPTも怪我や装備品の消耗で赤字に近い。君たちは一切無傷で護衛報酬だけを得ている」
なんだかずれた不満のようだ……ここに居る野郎どもは、最初はともかく特に嫌な奴はいない。フェイに対する嫌な視線も直ぐに改善してきたし、それなりに常識のある奴ばかりだ。
どう言えば角が立たないか考えたが、そもそも不満の原因がちょっとずれているのだから上手く言えるはずもない。ストレートに返すしか思いつかなかった。
「うーん、角が立たない言い方が思いつかないのでストレートに俺の考えを言いますね」
「ああ、是非君のそのストレートな考えとやらを聞かせてくれ」
「俺たち兄妹が戦闘に参加しないのは『灼熱の戦姫』のメンバーと同じ気持ちです。上から目線で悪いのですが、今更小銭を稼がなくても、この護衛依頼が終えてバナムの町に帰ればオークキングの討伐報酬と誘拐盗賊犯を奴隷商に売ったお金と討伐報酬やら領主からの特別報酬とかで億近いお金が入ってきます。オークとか、食べて美味しい食材になる肉などなら参加したいですが、虫等はいくら美味しくても、俺は食べる気にはならないので、あなたたちが魔石や素材で稼ぎたいと言うから俺たちは別に要らないと判断したのです……」
「お前のいう通り、随分上から目線な考えだな」
「もっとぶっちゃけて言わせてもらえば、怪我や赤字云々も俺からしてみれば『はぁ?』ってな気分です。だってあなたたちが弱いから怪我をしたり装備品が損耗するのでしょう? 俺ならキラーマンティスじゃ掠り傷すら負いませんよ? フェイでも視界に入った時点で倒してしまいます」
「君たちはそこまで強いと言うのか?」
「伊達に2人で500頭以上からなるオークキングの集落を落としていないですよ。戦闘に参加しないのに不満があるのでしたら今後参加しますが、共闘はしません。ソロで余裕で倒せるのに共闘する意味がないですからね。それに魔石1個で揉めるのも嫌ですし」
「兄様! 最後の一言は余計な事です!」
「うっ……確かに。ごめんなさい、最後のは余計な一言でした。それで、どうします? 俺たちも戦闘に参加します? あなたたちは一切魔獣に触れる事さえできなくなって、利益は今後無くなりますよ」
ここで口を挟んできたのが他のPTの男たちだった。
「俺たちブロンズ組はできるだけ沢山自分たちで狩りたい。俺はリョウマ君のいう通り、怪我や装備に関しては自己責任だと思っている。その為に前衛2名、回復を含めた後衛2名のパーティーをブロンズランクにも拘らず早期で結成しているんだ。俺たちに足りないのは経験とレベルだと思っている。リョウマ君から見て俺たちのPTはどう見える?」
「凄くバランスの良いパーティーだと思います。足りないのはあなたのいう通り経験ですね。カマキリの鎌にビビってましたし……あの時、冷静に対処してればあなたたちだけで狩れていたと思いますよ。他にメンバーを集めるなら、『灼熱の戦姫』のサリエさんのように遊撃や罠解除ができる斥候役と、支援系の魔法使いがほしいところですね。マジックバリアがあれば怪我もなく安定した狩りができるようになりますよ。それとヒーラーさんはレベル上げとMP量の増加が必要ですね」
「反省会で君と同じ意見が出たよ。なにかMP量を増やすコツとか知ってるか?」
「ええ、毎日地道にコツコツと、しかもかなりきついですが有りますよ」
この発言には『灼熱の戦姫』の魔法使いも参加してきた。
「量を増やすコツとか有るのですか?」
「皆も知っているはずですよ? 寝る前にぎりぎりまで魔力を消費するんですよ。毎日繰り返せば少しずつ増えていきます。1年もやれば実感できるのですが、それまでにきついから皆、直ぐ止めちゃうらしいですけど。吐き気や目眩は当たり前ですからね。やり過ぎると気絶しちゃいますし。安全な町中でしかできないです。その辺は上手くやってみてください」
「それって都市伝説的な噂じゃないのか?」
「いえ、事実ですよ。確実に増えていきます。幼年期の頃の方が伸び率は断然良いのですが、死ぬまで容量は増えるので場所的に安全な日は日課にした方が良いです」
「そうなのか……頑張ってみるよ。貴重な情報をありがとう」
「話がずれちゃいましたが、他の人はどうなんでしょう? 俺たちは戦闘に参加した方が良いです?」
「俺たちのパーティーもできれば譲ってほしい。経験値も素材も沢山欲しいからな。でも、危なそうな時に助けてくれたら有難い」
「勿論やばそうなら、直ぐに手は貸します」
その後の話し合いで、結局戦闘には参加しないでくれとの意見が多かったので不参加になった。やばそうなら助けるという条件を付けられたのだが、勿論最初からそのつもりだった。同じ旅仲間が死ぬところなんか見たくないしな。
ガラさんの話も終え、各パーティーごとの食事の時間になった。
今日の夕飯のメニュー
・オークのトンカツ
・オークの生姜焼き
・生野菜のマヨネーズサラダ
・コンソメスープ
・米飯もしくはパン
・バナナオレ
・苺のショートケーキ
「ん! うまうま」
「ふぁー、幸せー」
皆、美味しく食べてくれた。
「さっきのトンカツなんですが、パンにも良く合うんですよ。キャベツやレタスを一緒に挟んでソースをかけて食べると中の肉汁がでて最高に美味しいですよ」
「ん! 今直ぐ食べたい!」
「エッ!? さっき夕飯食べたばかりじゃないですか!」
「ん……でも、食べたい……」
「今日はもう、お終いです。食べ過ぎは良くないと言ってるでしょ? 明日のお昼はそれにしますか? オークジェネラルの方がパンに合うので在庫から出してあげますよ」
「「「ジェネラル!?」」」
「ん! ジェネラル食べたい!」
「皆も明日のお昼はカツサンドで良いですね?」
夕飯も終え、いよいよサリエさんへの個人授業を始めるのだったが、ログハウスの中に招待したサリエさんは授業どころではなかった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる