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商都ハーレン

7-4 孤児院での昼食会

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 サリエさんと親子を連れ出し孤児院に到着する。
 俺の事を見かけた神殿の子供たちは、喜んでとんできた。

「お兄ちゃん、お肉ありがとう! 凄く美味しかったよ!」

 口ぐちに満面の笑顔を見せてお礼を言ってくる。ウンウン、皆、可愛いではないか! また持ってきてやるぞ!
 外の騒ぎを聞きつけたのか、神父さんと17歳の少女がやってきた。

「何事かと思えばリョウマ君でしたか。先日はありがとう、さっそく昨日子供たちに食べさせてあげたのですが、、見てのとおりだよ。私も久しぶりに食べたのだけど水牛の美味しさは格別だね」

「リョウマ君、水牛やワニなんか初めて食べたけど、びっくりするほど美味しかったわ。本当にありがとう。子供たちも泣く子もいたほど喜んでいたのよ」

「いえいえどういたしまして。ギルドに解体依頼を出してきましたので、連絡があったら魔石と素材を売ったお金と肉を受け取りに行ってくださいね」

「有難い……連絡があったら受け取りにいくよ」

「ちょっと神父さんの名前を忘れちゃったので、失礼ですがもう一度聞いてもいいですか? 貴族で三男ってのは覚えてるのに名前が出てこないのですよね」

「あ! そう言えば名乗ってなかったかもしれない。大変失礼した。フィリア様のメールでこちらは名前を知ってたのでつい名乗り忘れていた。私はメリウ・パレスです。この子はカーミラ、ここの卒院生ですが、外で働きながら子供の面倒を見てくれる良く出来た娘です」

「カーミラさん、昼食の準備はまだですよね? 俺が御馳走しますので一緒していいですか?」
「ええ、もちろん良いですよ! 昨日のバーベキューのコンロは神父様が【クリーン】の魔法で綺麗にしてくれてます。今持ってきますね」

 そう言ってパタパタ走って行った。

『……マスター、串焼きコンロは寄付してあげないのですか?』
『え? だってあれ魔石とかミスリル使って結構な品になってるよ? 流石にちょっと……』

『……さっきガラ商会でミスリル大量に仕入れましたよね? あれだけあれば当分はいろいろ作れると思いますが? 剣だけでも10本は創れますよ?』

『なんだよ、ナビーは寄付したいのか?』
『……子供たち、凄く喜んでいます。庭で食べるバーベキューは室内で食べるより格別美味しいのではないでしょうか? 2台ぐらい私がまたすぐにでも造って差し上げますよ?』

『分かったよ。じゃあ、すぐにまた2台作成しといてくれな。串も渡すからそれも補充しといてくれよ』


「持ってきました。確認してください」

「はいOKです。じゃあ、ここで調理しますので、カーミラさんも手伝ってください。ナシルさんも手伝いお願いします」

「はい、私は何をすればいいのかしら?」

 ナシルさんも快く手伝いに参加してくれるようだ。

「ナシルさんはこの器に、ご飯を7分目ぐらいまでよそってもらえますか? カーミラさんはそのコンロでこのステーキを焼いてください。神父さんもステーキ担当です」

「水牛のステーキですか! また豪勢ですね! 解りました」

「子供たちは大人しくテーブルで待っているんだぞ!」

 野外に先日作ったイスとテーブルに【クリーン】を掛け、先に子供たちを座らせておく。
 火を扱うので、周りを走り回って万が一にも怪我をさせないためだ。


 昼食メニュー
 ・水牛のステーキ ガーリック醤油味
 ・オークの生姜焼き丼
 ・生野菜のサラダ
 ・コンソメスープ
 ・バナナオレ
 ・バニラアイス


「ナシルさん、ご飯の盛り付けが終わったら、このスープをお願いします。メリルはこのジュースを入れてくれるか? それが終わったらサラダの盛り付けだ」

 指示を出しながら、4つ口の魔道コンロで生姜焼きをガンガン炒めてどんぶりに盛り付けていく。お替りができるように35人分ほど炒めたが、4つ口全部で炒めたのであっという間にできあがった。

 ナシルさんとカーミラさんもかなり手際が良い。カーミラさんはいつもの事なのだろうが、ナシルさんはやたらと手慣れた感じがする。倒れる前の仕事がそういう関係なのかもしれないなと観察しながら全ての調理が完成した。スープとサラダは作りおきなのでインベントリから出してよそうだけでいい。


「またリョウマのお兄ちゃんが皆に美味しい物を提供してくれました。リョウマのお兄ちゃんと、今日の糧を与えてくださった女神様に感謝のお祈りをして頂きましよう」

「「「リョウマお兄ちゃんありがとう!」」」

「美味しいー! お兄ちゃん美味しいよー!」

 あちらこちらから歓声の声が聞こえる。喜んでもらえて何よりだ。前を見たら例の親子が涙を流して食べていた……そう言えばこの人たち、つい最近餓死寸前だったんだよな。

「お替りもあるので、皆ゆっくり噛んで食べるんだぞ! スープもジュースもお替りできるからな! 後、食後にデザートもあるから、少しお腹に余裕を残しておくんだぞ!」

 年少者には多すぎたようだが、残しても10歳以上の年長者が残したものも食べてくれている。 
 そろそろアイスを出そうかと思ったらナビーが待ったをかけてきた。

『……マスター、ガラスの器はちょっと価格的にホイホイあげて良い物じゃないので、耐水性の高い紙のカップを開発しました。バニラアイスもとりあえず100個作っていますのでそちらをお渡しください』

『それはありがたいな。白金貨3枚とか、躊躇ってしまうもんな』

『……ログハウス作製時の木の切れ端や廃材で紙を作っていますが、またフェイに伐採をしてもらわないといけなくなりそうです』

『いいですよ。キノコもまた採りたいので、兄様が良いと言ってくれたら、帰りの護衛の合間に行きますよ』

『そうだな、その時はフェイにまた頼むよ』
『はい、了解です!』

 食べ終えている子のテーブルの食器をインベントリに収納しながら、紙カップに入ったバニラアイスを配って行く。一口食べた女の子はキャーキャー言って喜んでいる。


 食べ終えたカーミラさんが俺の側にやってきてまたお礼を言ってきた。

「子供たちが凄く嬉しそう。リョウマ君本当にありがとうね。どれも美味しかった。それにしてもあの網焼きコンロ凄いわね。ぜんぜん網に焦げ付かないんだもん」

「あの網にはミスリルが10%程混じっていますからね。抗菌作用もありますし焦げ付かず美味しく焼けるんですよ。でもあれは網焼きコンロじゃないんですよ。 本当は網焼きもできる串焼きコンロです。ちょっと見せますのでカーミラさんもやってみてください」

「この網を外してここがレーンになっているでしょ。作り置きしてあるオークの串でやって見せますね。ここに乗せてコロコロとこのレーンの上を転がしていくんです。刺してある肉の大きさで変わってきますが、今の大きさが基本でこのサイズならこの端から端まで転がせばちょうどいい感じに焼ける様になってます。この鉄串もミスリル配合なので錆びる事も無いし、熱伝導が良いので中が生焼けという事が無くなります」

「ふ~ん、良く考えてできてるわね……」

「と、言ってる間に端まで転がせたので、いい感じの焼目ができてるでしょ。お腹一杯かもだけど食べてみてください」

「美味しいわ! 丁度いい感じに焼けてるわね。塩と胡椒だけの味とは思えない程美味しい!」

 欲しそうに何人かの子供たちが寄ってきてみている。あれだけ食べた後でも、この串焼きの香ばしい匂いで欲しくなったのだろう。

「食べたい子は言えばあげるからね。遠慮しなくていいんだよ。後で3時のおやつにしてもいいしね」

 全員が並んだのでタレと塩味のものを1本ずつ焼いてあげた。

「カーミラさん、この串焼きコンロ2台も神殿に寄贈しますので、時々庭で食べさせてあげてください」

「え! いいの? これ凄く高いんでしょ?」
「俺が作ったものなので、原材料費だけです。気にしないでください」

 とても喜んでくれている。個人で使うんじゃないから役に立つ機会も多いだろう。
 ナビーのいう通り寄贈して良かったと思った。

 大きな街の神殿には必ずアイテムボックスと転移陣が女神ベルルによって創られている。巫女のいる神殿に物資を転移するためと、巫女たちの移動手段として創られた物なのだが、残念ながらあまり移動手段として活用されていないようだ。

 通常の【テレポート】より魔力消費は断然少なくて済むのだが、若くして神殿に巫女入りするためにMP量が少ないという最大の壁が生じているからだ。MPがそこそこあればもっと自由に街に遊びに出られるのにと思ってしまうが、どこかで厳格になってしまって、どこの神殿巫女も閉鎖的神域でつつましく過ごしているみたいだ。

 俺が各属性神殿を回って改善した方が良いのかもしれない。流石に娯楽が無いのは可哀想だしね。


「カーミラさん、牛はそうそう提供できないでしょうけど、オークはどこにでもいますので定期的に転移陣で送るようにしますので、子供たちの栄養バランスも考えて食べさせてあげてください。なかなか遠慮して言い難いでしょうからそっちに催促させないようこっちから定期的に送るようにしますが、万が一お肉の在庫が切れた時には俺か水神殿にメールをくれれば即転移させますので、遠慮しないでくださいね」

「解りました。何から何までありがとう。予算を気にしながらやりくりするの大変なのよね。予算が底を突きそうになったら神父様も下げたくない頭を下げて、貴族たちから援助をしてもらうのに駆けずり回る事も最近は多くなってきてたから本当に助かるわ。今回の援助で2・3年の余裕ができたって神父様も喜んでいました」

「そのうちお金の心配はなくなると思うよ」
「え? どうして?」

「今、水神殿の巫女様たちが、プリンやアイスを神殿で独占販売する一大計画を各神殿巫女と協議中なんだよ。大きな町や都市なんかは必ず神殿主体で開店されるだろうから、その売り上げが孤児院に回ってくるようになる。あれほど美味しいものだから絶対流行るお店になると思う。孤児院の卒園者の就職先にもアルバイト先にもなるからいろいろ期待できると思うよ」

「そうなんですか? それは凄いです! 私もお店ができたらそこで働きたいなー」
「カーミラさんなら大丈夫ですね。一応独占販売なので働くには厳しい審査があるのですが、その中の一つに信仰値が60以上ないと採用しないという規則を設ける予定だそうです。これは外部にレシピを漏らさないためと、巫女たちがこれまで築いた神殿の評判を売り子の悪評とかで落とさないためもあるようです」

「私は基準に足りてるかな?」
「ええ、余裕で足りてますよ。70近くあります。ちなみに神父さんは流石と言うか86もあります。神が神託で選ばれるだけの好人物のようですね」

 神父のメリウさんは俺の発言にキョトンとした顔をしている。

「リョウマ君はなにかそういう鑑定魔法が使えるのかな?」

「ええそうです。女神の特別な祝福で皆の信仰値の値が見られるのですよ。これによって初対面の人物でもある程度の判断ができるので助かっています。あまりにも数値が低い人物がニコニコして近づいてきた時には何か腹黒く企んでることが多いので一応警戒はするようにしています。すべてこの数値で判断するような事はしないですが、参考にするには十分信頼できる祝福です」

「へー、素晴らしい祝福ですね。羨ましい限りです。なによりそれだけで人物評価をしていない君が素晴らしい。あくまで参考にするのが良いですね。悪い事をされる前から疑って近づけないのは良いことではないですからね」

「ここの子供たちは、皆、年齢の割に信仰値が高いですね。神父さんとカーミラさんの教えが良いのでしょう。あまり知られてない事ですが、信仰値が高いと神の祝福や加護も付きやすくなりますので、このままの教えを維持してあげてください」

「それは嬉しい情報ですね。子供たちはもっと信仰値を高めて幸せになってもらいたいです」

「後ちょっとしたアドバイスなのですが、信仰値とは別に貢献度と言うものがありまして、そっちの方が大事なのですが、これは実際に神に与えた供物の数値なのです。主に心からのお祈りが神の食事に値するものになる訳で、それは何かする都度に感謝をするだけでいいものなのです。例えば水で手を洗った時に水神ネレイス様に、火を起こしたときには火神ロキ様に、インベントリを使った時にはヴィーネ様に……と言った具合です。実際使った時なら心の籠った感謝が素直にできるのでお祈りの時間を設けて何時間も心の籠ってない無意味な時間を過ごす必要はないのです」

 納得がいったのか、とても感心したように頷いていた。

「子供たちにも今後そう教える事にします。なんか驚きですね、簡単な事なのにとても共感を覚えました」

 食器を洗って返すというカーミラさんを制して、全部インベントリに放り込み片付けを終えて神殿を後にした。

 庭の隅に土魔法で造ったテーブルセットを壊そうとしたのだが、このまま利用したいので置いておいて欲しいと言われたので、角を取り強化魔法を掛けて補強しておいた。


 可愛い子供たちとのふれあいで、心がほんわかなって良い気分だ。

『……ロリコン野郎』

 うん、この一言を言われるまでは凄く良い気分だったんだけどね……ナビーの奴、一言で台無しだ!



 気を取り直して、ギルドに親子を連れていく。

 ナシルさんを冒険者登録する為だ。メリルも一応登録はするが、街の外の依頼は受けられない。年齢制限13歳という子供を守る規制があるためだ。街の中の雑用依頼は受注可能なのだが、子供のできる依頼は少ないうえに依頼料の金額も極端に低い。ギルドの登録料の金貨1枚を払っている余裕のある者が受ける依頼では無い為に子供が冒険者になる事はあまりないのだ。貴族や商人の子供が家柄や仕事の為に登録するパターンが多い。

 一応登録だけなら10歳から可能だが、あまり子供は見かけない。いかつい大人に脅されて寄り付かなくなるためだ。これも本当に脅してるというより、遊び半分でウロチョロさせないためと、それくらいでビビってる程度では冒険者は務まらないから早めに断念させようとする、ちょっと大きなお世話的な愛なのだ。



 俺とフェイは敢えてフード付きマントを羽織って2人を連れて中に入ったのだった。
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