さくら

くまおやG

文字の大きさ
上 下
5 / 11

怪奇!半魚人 VS クノイチ

しおりを挟む
 二人は、しばらくそのまま夜景を眺めていた。
『そろそろ、ブチューっと行っちゃうかな……』
 すると彼女が少し思い詰めた表情で話し出した。
「あのね、ジョーさん……本当は私……なんでもない、ごめんなさい」
 シリアスな話があったみたいだ。
「ごめんなさい、さっ帰ろ!」
『えっまだブチューってしてないんですけど!』
 彼女は、歩き出した。
 懐中電灯は、彼女が持っているし、こんなところに独りで残されるのは、ゴメンだ。
「ちょっと待って!」
 俺は彼女の後を追った。
 家の前まで来ると「今日はありがとう。」
「今度はジョーさんの家に遊びに行っていい?」
「いいよ」
「じゃまたね。」と言って家に入ってしまった。
『そんなぁ……これから第2ラウンドって思ってたのに……』

 俺は、とぼとぼと駐車場に歩いた。
 車の鍵を開けようとすると……
 助手席側から中を覗いている男がいた。
 俺は、恐怖で凍り付いた。
 そいつは、虚ろな目で俺を見ていた。
 妙にのっぺりとした顔立ちで目と目の間が離れていて。
 鼻は低く、薄い唇の口は大きく、半口を開けていた。

 魚?

 俺は後ずさりすると何かが後ろにも居た。
 振り返ると、同じ顔が立って居た。
 気が付くと右も左も……
 奴等はニヤリと笑った。
 口から覗く歯は歯並びが悪くギザギザとしていた。
「ドスッ」
『やられたー……?あれっ?大丈夫』
 一人が倒れていた。
 背中に光るものが刺さっていた。
「手裏剣?」
 すると、一人の女性が飛び込んで来た。
 空手かカンフーのような技であっという間に全員倒してしまった!スゲー!
「なにボサッとしてる!ずらかるよ!出しな!」
 俺は慌てて車の鍵を開けて、乗り込んだ。
 助手席に例のカンフーガールも乗って来た。
『映画だと大概エンジンかからないんだよね』と思いつつキーを差し込んだ。
『かかった!偉いワゴンRちゃん』
 車を出した。
 しかし、スピードは出せない。
「もっと速く走れよ!」カンフーガールが言った。
「そんなこと言ったって!」
 カンフーガールは、窓から後ろを確認すると。
「大丈夫だな。」と言った。
「私、カレン!仕事は忍者よ!」



「忍者って?」
 なんだか、訳分からない。
「うちの家系は、代々時の権力者を守護する役目を果たして来た」
「俺、なんの権力も無いけど」
「花園刑事に会ったでしょ。私の兄者なの」
「えー……似てない。」
「あはは……兄者は凄腕の忍者だよ」
「えっそんな風には見えなかったけど……」
 すごく、穏やかそうなオッサンだった。
「兄者は、熊尾 晃の方を張ってるの、その間あなたを守る様に言われた」
「晃って?さくらの兄さん?」
「そう。表向きはね」
 表向き?裏があるの?
「本当は、親子なの」
 バカな、年齢から言ってあり得ない。
「なに言っているのそんな訳無いじゃん。どう見たって俺と同じ位だし」
「気を付けな、奴等化け物だよ」
「まさか!さくらもさっきの奴等の仲間なの?」
「違う、さっきの奴等は【隱頭鱒インズマス】さ。奴等もまた熊尾を追ってる」
「インズマス?」
「簡単に言えば半魚人さ」
「半魚人?」
 もう駄目、理解不能。
「インズマスは、ダゴン教と言う邪教徒なんだ。熊尾は、その宗教の教典を盗み、それに書かれた秘法で不老不死の身体を手に入れた。吸血鬼さ」
「なに言ってるの、昼間会ったし」
「そんなの迷信、映画の中の話」
 どこまで迷信か分からなく成ってきた。
「さくらは?」
「本当は90の婆あ」
「えっそんな……」
「正確には70年前に一度死んでいる」
……?

「生ける屍さ」

……
そんな……
そんな……

「お前、さくらに家に遊びに来いとか言って無いだろな」
「えっ?」
「吸血鬼を家に招いちゃったんだ」

「えー!!それは、迷信じゃないの!」

 カレンは悩んだ。
『と言う事は、いつでも来る事が出来るんだよね……』
「しょうがねぇ!しばらくここに居候するぜ!」
「!!??えっ??!!」
 ジョーは思った。
『女の子と一つ屋根の下か~……うふふ』
「あっ!お前、今チョットやらしいこと考えただろ!」
「いやいや滅相もない!」
「言っとくけど、寝込みを襲おうたって無駄、3秒で絞め落とすからな!」
『ヒョエー!!そうだった相手はカンフーガールだった!しかも超強えー……くそっ……』
「相手が、ここに来る事が出来る以上、離れるわけ行かないからな……しょうがねぇ」
『そうか、独りになったらやばいんだ……』
「さっ寝るぞ、明日会社だろ!」
俺は、悶々としたままさほど寝る事も出来ず朝を迎えた。


「さっ行くぞ」
「えっ会社に付いて来るの?」
「車で待機してるさ」
 有り難い、チョット安心。
 玄関を出ると……
 カレンは一言「部屋に入ってな、インズマスの奴等、つけて来てやがった。」
 俺はドアを閉め部屋に入った。
 ドアの外でバトルの音が聞こえた。
 今度は苦戦して居るみたい。
 俺は、ドアスコープから覗いてみた。
 スゲーやっぱり強えーカレン!がんばれー!
 ふいに肩を叩かれた。
「なんだよ、それドコロじゃないの!いいトコなんだから!……って誰?」
 振り返ると、魚顔の男が立っていた。
「ドスッ」
 みぞおちを打たれた。
「ウッ……強い……こんな奴と戦ってるのカレン……」
俺は、一発で気絶した。
男は、俺を軽々担ぐと窓から飛び降りた。

「バタン!」
 カレンが一味を片付けてドアを開けると、部屋はもぬけの殻だった。
「クソッ!」
 カレンは、外に出て辺りを探したが、既に遅かった。
 携帯を取り出し、花園に連絡をした。
「御免!兄者!インズマスにジョーをさらわれた!」
「なに!お前が付いてながらなんて様だ!俺もそっちに合流する。やつらは、ジョーの顔の皮を剥がし、それを被ってジョーに成り済ますつもりだ!」

 その頃……
 意外な人間に俺は助けられていた。
 いやっ助かったと言えるのか……
 熊尾晃は、俺を黒のメルセデスに乗せると車をだした。
 後には、魚男の死体が転がっていた。


しおりを挟む

処理中です...