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「うっ……ここは何処だ?」
気が付くと、病院のベットに横たわっていた。
身体を起こそうとすると、手足が縛られている事に気が付いた。
「御目覚めかな?」
声の方に視線を移すと熊尾が立っていた。
「大丈夫、殺したりしないよ……返答次第ではね」
続けて、熊尾は喋り始めた。
「なんて聞かされているか知らないが、俺もさくらも人間だよ……吸血鬼じゃない」
「でも、とっくの昔に死んだ人間だって聞いたぞ」
「そうあれは……」
熊尾晃は、思い出話を語り始めた。
私がまだ、S県の九頭龍大学病院で教授職をしていた頃の話だ。
第二次世界大戦が始まった。
私は、帝国軍の要請で……ほぼ脅迫であったが、ある研究をしていた。
【死なない兵隊】を作る研究さ。
死んだ兵隊を蘇生してまた戦場に送る。
兵隊は、死なないのだから無敵だ。
陰頭鱒は、地名だよ。
S県に有る、小さな漁港だ。
そこの民は、大昔からダゴンなる神を崇めていた。
私にはよく分からないが、沖合いに奴等の聖地である岩礁があった。
帝国軍は、そこに魚雷を打ち込むと脅迫し。
ある本を貸し出せと要求した。
狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードの書いた魔本【ネクロノミコン】を貸し出せと。
奴等は、期限付きで渋々要求に応じた。
私は、同僚の後に私の義父になる熊尾と一緒に魔本に記された禁断の秘法を蘇らせる研究に没頭した。
私は、医者として人間が死を乗り越えられると言う事に、興味を抱いた。
多くの外国人捕虜を使って実験を繰り返した。
実験は、失敗の繰り返しだった。
多くの死体は、蘇生するも直ぐに発狂し、自殺を試みようとするものの、死ぬほど痛い思いをしても死ねない身体を呪った。
不死身でも痛みを感じない訳では無かったのだ。
実験体は、常人では考えられない怪力が有った。
どうやら、通常の人間は本来持つ力の3割程度しか発揮できないが、実験体は100%の力を発揮できるようだ。
実験体は我々に「なぜ生き返られた」と怒りをぶつけた。
死体は、72時間以内に秘法により生成された、血清を投与しないと朽ち果てる。
我々は、実験体に「申し訳ない」と言って、投与をやめた。
我々は、死体を蘇生する事には成功したが、とても兵隊として使える者にはならないと軍に報告した。
日本は徐々に追い詰められ、ついに神風特攻隊が編成された。
さくらの恋人も特攻隊に編成された。
そして、太平洋の藻屑となった。
さくらは、とても彼を愛していた。
戦争が終わったら結婚するはずだった。
さくらは嘆き、悲しみの余り……クビを吊った。
私は、その知らせを聞き娘を救えなかったことを悔やんだ。
そして、狂った。
娘に血清を投与する事を決意した。
さくらには、寸での所を助けたとウソをついた。
さくらは、なんで死なせてくれなかったと私を恨んだが、なぜか発狂するに至らなかった。
皮肉にも、初の成功例だった。
そして、自分にも投与した。
さくらと共に生き続ける為に。
ひとつ問題があった、本の事である。
この本は、人面の皮で装丁されている。
表紙に死人の顔が張り付いているのだが、血清を作るに当たりその口に人の血を注ぎ、目から流れる血の泪を使わなければ成らなかったのだ。
本が無ければ、生き続ける事は出来ないのだ。
私は、本を持って逃亡した。
敗戦の混乱に乗じて……
さくらは、やがて全く歳を取らない自分に気づき始めた。
そして、歳を追う毎に若返る私にも。
私は、全てを打ち明けた。
さくらは、心を閉ざした。
当初有った血清も底を付き、私は人を誘拐しては血を抜いた。
そして、インズマスにも警察にも追われる事になった。
逃亡の末、家業の病院を継いだ熊尾にこの町で再会した。
5年前の事だ。
熊尾は、ガンを患っていた。
60年ぶりに再会した私が、歳を取るどころか若返っている事に驚いたが、共に研究した仲間なので直ぐに理解した。
熊尾は死に直面していた。
死にたく無かった。
私を養子に迎えると、投与を懇願した。
私は投与した。
しかし、死ぬ事は無くなったが、ガンを治す薬ではないのだ。
普通で有れば、死んでいる状況で死ねない。
死より苦しい生が熊尾に待っていた。
熊尾は、もう殺してくれと言った。
私は、莫大な熊尾の遺産を継いだ。
金などもうどうでもよかったのだが……
「どうかね、さくらと一緒に生き続けてくれないか?」
……
「……それは、彼方達と同じ不死身の身体に成れって事ですか?」
「そうだ」
……
「お断りします、殺して下さい。そして、さくらさんも死なせて上げてください。」
「……そうか、ならば……死ね!!!!」
俺は、死を覚悟した。
「ドスッ」
『ヤラレター……?大丈夫?』
晃の右腕に手裏剣が刺さっていた。
「赤影参上!」
花園さんだった!
おれは、思わず叫んだ。
「花園さん!カッコイイ!!」
気が付くと、病院のベットに横たわっていた。
身体を起こそうとすると、手足が縛られている事に気が付いた。
「御目覚めかな?」
声の方に視線を移すと熊尾が立っていた。
「大丈夫、殺したりしないよ……返答次第ではね」
続けて、熊尾は喋り始めた。
「なんて聞かされているか知らないが、俺もさくらも人間だよ……吸血鬼じゃない」
「でも、とっくの昔に死んだ人間だって聞いたぞ」
「そうあれは……」
熊尾晃は、思い出話を語り始めた。
私がまだ、S県の九頭龍大学病院で教授職をしていた頃の話だ。
第二次世界大戦が始まった。
私は、帝国軍の要請で……ほぼ脅迫であったが、ある研究をしていた。
【死なない兵隊】を作る研究さ。
死んだ兵隊を蘇生してまた戦場に送る。
兵隊は、死なないのだから無敵だ。
陰頭鱒は、地名だよ。
S県に有る、小さな漁港だ。
そこの民は、大昔からダゴンなる神を崇めていた。
私にはよく分からないが、沖合いに奴等の聖地である岩礁があった。
帝国軍は、そこに魚雷を打ち込むと脅迫し。
ある本を貸し出せと要求した。
狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードの書いた魔本【ネクロノミコン】を貸し出せと。
奴等は、期限付きで渋々要求に応じた。
私は、同僚の後に私の義父になる熊尾と一緒に魔本に記された禁断の秘法を蘇らせる研究に没頭した。
私は、医者として人間が死を乗り越えられると言う事に、興味を抱いた。
多くの外国人捕虜を使って実験を繰り返した。
実験は、失敗の繰り返しだった。
多くの死体は、蘇生するも直ぐに発狂し、自殺を試みようとするものの、死ぬほど痛い思いをしても死ねない身体を呪った。
不死身でも痛みを感じない訳では無かったのだ。
実験体は、常人では考えられない怪力が有った。
どうやら、通常の人間は本来持つ力の3割程度しか発揮できないが、実験体は100%の力を発揮できるようだ。
実験体は我々に「なぜ生き返られた」と怒りをぶつけた。
死体は、72時間以内に秘法により生成された、血清を投与しないと朽ち果てる。
我々は、実験体に「申し訳ない」と言って、投与をやめた。
我々は、死体を蘇生する事には成功したが、とても兵隊として使える者にはならないと軍に報告した。
日本は徐々に追い詰められ、ついに神風特攻隊が編成された。
さくらの恋人も特攻隊に編成された。
そして、太平洋の藻屑となった。
さくらは、とても彼を愛していた。
戦争が終わったら結婚するはずだった。
さくらは嘆き、悲しみの余り……クビを吊った。
私は、その知らせを聞き娘を救えなかったことを悔やんだ。
そして、狂った。
娘に血清を投与する事を決意した。
さくらには、寸での所を助けたとウソをついた。
さくらは、なんで死なせてくれなかったと私を恨んだが、なぜか発狂するに至らなかった。
皮肉にも、初の成功例だった。
そして、自分にも投与した。
さくらと共に生き続ける為に。
ひとつ問題があった、本の事である。
この本は、人面の皮で装丁されている。
表紙に死人の顔が張り付いているのだが、血清を作るに当たりその口に人の血を注ぎ、目から流れる血の泪を使わなければ成らなかったのだ。
本が無ければ、生き続ける事は出来ないのだ。
私は、本を持って逃亡した。
敗戦の混乱に乗じて……
さくらは、やがて全く歳を取らない自分に気づき始めた。
そして、歳を追う毎に若返る私にも。
私は、全てを打ち明けた。
さくらは、心を閉ざした。
当初有った血清も底を付き、私は人を誘拐しては血を抜いた。
そして、インズマスにも警察にも追われる事になった。
逃亡の末、家業の病院を継いだ熊尾にこの町で再会した。
5年前の事だ。
熊尾は、ガンを患っていた。
60年ぶりに再会した私が、歳を取るどころか若返っている事に驚いたが、共に研究した仲間なので直ぐに理解した。
熊尾は死に直面していた。
死にたく無かった。
私を養子に迎えると、投与を懇願した。
私は投与した。
しかし、死ぬ事は無くなったが、ガンを治す薬ではないのだ。
普通で有れば、死んでいる状況で死ねない。
死より苦しい生が熊尾に待っていた。
熊尾は、もう殺してくれと言った。
私は、莫大な熊尾の遺産を継いだ。
金などもうどうでもよかったのだが……
「どうかね、さくらと一緒に生き続けてくれないか?」
……
「……それは、彼方達と同じ不死身の身体に成れって事ですか?」
「そうだ」
……
「お断りします、殺して下さい。そして、さくらさんも死なせて上げてください。」
「……そうか、ならば……死ね!!!!」
俺は、死を覚悟した。
「ドスッ」
『ヤラレター……?大丈夫?』
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